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駆け出しレーベルオーナーによるアナログレコードプレス奮闘記〜前編

自分の曲をアナログレコードでリリースするのは昔からDJ達の憧れ。使い古されたレコードにも歴史を感じさせる趣があり、レコードにはそういった時代を超えたロマンがあります。自分もレコード作りたいけど何をすればいいのか?そんな疑問に答えるべく、実際に自分がレコードを作った時に何をしたのかを、駆け出しレーベルオーナーの視点で今回から2回に分けて紹介したいと思います。

僕は2013年にpsymaticsレーベルを始め、2015年6月13日にはミックスマスター・モリスとして知られるThe Irresistible ForceのEP“Higher State of Mind”を12インチ限定でリリースしました。このEPにはモリスのオリジナルに加え、YOGURT&KOYASとBlast HeadのTetsuさんのリミックスを収録した、夏の夕暮れにぴったりな1枚です。

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僕は今まで他のレーベルから12インチを何枚かリリースしていますが、自分でレコードプレスの制作進行までするのは初めて。それでは僕がレコードを出すのに何が必要で何をしたのか書いていきましょう。

レコードを出すのに必要なもの

CDと同じで当然音源が必要になります。さらに、他人の楽曲なら許諾を得ている事を証する何かしらの書類も必要で、サンプリングとかで他人の音源を使った場合も同様です。もろネタ使いのブートレッグでもプレスするワルい工場もありますが、摘発もされているし、海外のワル相手と取引するわけだから何が起こるかわかりませんよ。

今回は、モリスのオリジナルとそのリミックスを収録しているのでモリスの許諾が必要です。来日した時に直接会いに行って「Vinyl only, Japan only」という条件でOK貰いました。

マスター大丈夫ですか?

中にはアナログレコード向けのマスタリングについて気になる方がいるかも知れません。個人的にはレコード向けだからってあまり特殊なことはせず、普通のマスタリングでも大丈夫だと思います。ただ、逆位相(Anti Phase)と低域のステレオ幅については気をつけましょう。

逆位相とは、信号の極性が反転していることで逆相ともいいます。コーラスとかフランジャーとかのモジュレーション系エフェクトは、こうした信号を混ぜることでステレオの広がりを出しています。下は位相を表示するWaves PAZ Positionの画像でステレオ幅の表示をしています。白い表示が上と左右に伸びていますが、左右に飛び出た部分がAnti Phaseと書かれた範囲にも伸びており、逆位相を含んでいることがわかります。

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逆位相は信号の極性が反転しているので、レコード溝の上を再生することになり針飛びの原因となります。中〜高域はちょっとくらい入ってても大丈夫ですが、低域はエネルギー量が多いのでトラブルの原因になります。
一方、逆位相を含んでいないとこのような表示になります。スクリーンショット 2015-06-22 19.37.53

また、300Hz以下の低域はなるべくモノラルにしましょう。例えばシンセベースにモジュレーション系のエフェクトを入れると、クラブ等で再生した時にベースの低域が広がってキックが埋もれたりします。レコードに限らず、ダンス系の低域はモノラルにするとパワー感が増します。

M/S処理するEQプラグインの定番、brainworx bx_digital v2にはMonoMakerという機能(スクリーンショット中央付近)があり、指定した周波数以下の低域だけモノラルにできます。また、ステレオ成分だけのモニタリングもできるので逆相が入っていないかチェックもできて便利です。

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メーカーサイトでbrainworx bx_digital v2をチェック

最初の関門:レコードプレス代

次は気になるお金の話。レコードプレス代金は前払いなのでお金がないとプレスできません。また、為替によっても金額が変動します。この時の為替は$1=¥120前後でした。

今回のレコードプレス代は、ジャケット無しを300枚プレスして$2000程度。本当はフルカラージャケにしたかったのですが、さらに$700以上かかるので泣く泣く断念。今でも悔しい…

その他には日本への航空便の送料と輸入にかかる費用がかかります。送料は約$400でしたが、重量で変動するので180g重量盤とかにすると送料が上がります。今回は自分で輸入したので、さらに内国消費税などで21000円かかりました。痛い…

レコードが売れれば売上が入ってきますが、なんだかんだ入金まで半年はかかります。そこまでのキャッシュフローは無いけど人々が興味を示しそうなアイデアがあるのなら、イマドキらしくファンディングシステムを使うのも一つの手です。最近ではQratesのようにレコード専門のものもあります。

次の関門:レコードの仕様を決める

お金の目処が付いたら、次はレコードの収録時間と回転数/盤の色や重さ/ジャケットなどの仕様を決めておきましょう。この部分はレコードをプレスする上でDJとも違う専門的な知識が要求されます。

特に重要なのは回転数と収録時間の制限。レコードの回転数は音質に直結し45rpmの方が高音質になります。また、収録時間が長くなると1つ1つの溝の幅が細くなり、音量が小さくなってS/N比も悪くなります。収録時間が長いのに音質が良いからと無理に45rpmにするのも危険。ここで間違えると取り返しの付かない事態になります。

収録時間の目安(プレス工場により異なります)
LP/12インチ盤33rpm : 18分 / 45rpm : 12分
7インチ盤33rpm : 6分 / 45rpm : 4分30秒

他にもループ溝やエッチングアート(レコードの盤面にメッセージや画を描いたりする)とかカラーヴァイナルなど、そういったパッケージ全体の仕様もここで決めます。カラーヴァイナルはこのエントリにあるようにグッズとしては魅力的ですが、DJの時にレコードの溝が見づらく、黒い盤と材質が違うため音がちょっとなまるので注意しましょう。

プレス枚数は送料にも影響する重要な要素で、最低ロットは300枚の所が多いです。日本国内でレコードが売れる場所は限られているので、極力売れ残りが無いようなプレス枚数にします。

プレス工場選定

レコードの仕様が固まったら、いよいよプレス工場を決めて見積をもらいましょう。日本国内のプレス工場よりも海外の方が仕上がりも良く値段も安い印象があります。ドイツ・イギリス・アメリカあたりが定番ですが、インドにもプレス工場があるそうです。どこのプレス工場にすれば良いかわからないとか、プレス工場と直接英語でやりとりする自信が無ければ東京のTechnique・京都のJET SET・ドイツのHandle with Care(日本語使えます)・Qratesのようにプレス工場との間に入ってくれる取次業者を使った方が安心でしょう。

今回は当初ドイツでプレスしようとしたのですが、そのためにはJASRACやGEMAといった著作権管理団体から正規に出版されたことを証明する番号を貰う必要がありました。このタイトルの著作権者のモリスは、忙しくて出版登録できないとのことでドイツプレスは断念。そこで他を色々見てみると、アメリカの大手United Record Pressingは、書類にモリスのサインがあればプレスOKなのでここで行けそうです。この時に1ドル100円が120円と円安が進行し、製造原価が20%値上がり…泣。この書類のサインは後日モリスが来日した時に貰いに行きました。

さてURPから見積を貰ったところ、配送業者が決められていて日本までの送料が$3000。プレス代が$2000なのに送料高すぎるよとメールしたら、一旦日通USAに送って自分で輸入する人が多いよ、と教えてくれました。日通USAは送料約$400+別途通関手数料なのでだいぶ安くなります。

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入稿

見積貰ったらいよいよ入稿です。このプレス工場ではAudio CD/ファイル/アナログテープでの入稿を受け付けていて、webにはCDがお勧めだよ、と書いてあります。なんか納得できません…笑

入稿が終わって8週間程度で「出来上がりの盤はこうなるよ」という試し刷りのテストプレスが送られてきます。この間にあるカッティングなどの工程は、ネットでもよく見る職人気質な外人さん達の頑張りどころですが、レーベルとしてはただテストプレスが上がってくるのを待つのみ。platingと呼ばれるスタンパー(生産用のマスター盤)を作る工程が時間かかるそうです。

販売網

テストプレスを待つ間に、小売・流通などプレス後のことも考えなければいけません。ここはやり方が様々で、国内のレコード屋に直接卸したり流通も頼む人もいるし、ウルトラヴァイブのような専門の流通業者に取扱を依頼するのも手です。

また、海外のディストリビューターと契約してプレス工場から直接その倉庫に送るケースもあります。流通もワールドワイドなので日本にも輸入盤として入ってくるし、送料も減らせて良さげですが「海外のディストリビューターが金払ってくれない」話は本当によく聞きます…。

レコードの入稿が完了して、テストプレスの仕上がりが気になりますが、後編ではテストプレスが届いてから実際にレコードにプレスされて店頭に並ぶまでを紹介します。後編も是非チェックしてみてください。

後編をチェック

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