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音楽機材より人間にフォーカスをあてた『Loop 2018 Los Angels』レポート 

2015年から始まったAbleton主催のカンファレンス=Loop。このカンファレンスは、音楽制作や文化に関するパネルディスカッション、ワークショップ、パフォーマンス、インスタレーションなど盛りだくさんな内容で、カンファレンスとは銘打っていますが、実際はAbleton流のフェスのような内容です。今年のLoopはどんな模様だったのか、2年ぶり3回目の参加となるAbleton認定トレーナーのKoyasがレポートします。

今年はLA Hollywoodへ

昨年までのLoopはAbletonのお膝元ベルリンで行われていたのですが、今年はロサンゼルスのハリウッドで開催されました。なぜ日本からわざわざ海外のカンファレンスに参加するのかというと、DAW文化がドイツ・アメリカを中心とした海外発祥のものだからです。PCを使った音楽制作の最前線を体験するには、やはりその文化発祥の地に行くことが大切です。

山火事の影響か淀んでいるSunset通りの夕暮れ。普段はもっと透き通った空。

さて、今回はLoopの2日前にLAに到着しました。僕にとっては10年ぶり2回目のLAですが、今回は過去最大規模の山火事が発生して、ずっと咳が止まりませんでした。

LAは治安が悪いイメージがありますが、現在ではかなり治安が良くなったそうです。特にハリウッドにはどの交差点にも監視カメラが設置され常に見張られていますが、他のエリアにはスラム街やギャング・エリアもあります。実際、到着前日にLAのカントリークラブで銃撃事件もあり、Loopやバー、クラブなどは入る度に鞄の中身を見せる必要がありました。

さて、LAのパーティー事情ですが、法律によりアルコールを出す店は、レストランやバー、クラブも例外なく全て午前2時に閉店します。そのため、LAでは開催場所がシークレットになっているウェアハウスパーティーが盛んで、クラブは観光客向けという印象でした。

前日はApogee Studioへ

Loopの前日には、毎回楽しみにしている認定トレーナーのミートアップがApogeeの本社にあるApogee Studioで行われました。2年ぶりに会う知り合いのトレーナーなどと再開を喜んでいると、隣にボブ・クリアマウンテン(ロック界の伝説的なレコーディングエンジニア。奥さんはApogeeのCEO)がひっそりと立ってたりして驚きです。

Apogee Studioにはレコーディングの歴史を支えてきた名機達がずらりと並び、見ているだけで楽しい場所です。オールドNEVEをカスタムしたコンソールにNS-10Mの組み合わせがボブ・クリアマウンテンらしいですが、ツイーターにティッシュは貼られていませんでした(わかる人はおっさんです笑)。

Loopが始まる

さて、いよいよLoop当日。メインの会場となるのはハリウッド通りにあるMontalban Theaterという中規模程度のホールです。中に入ると、周りをぐるっと取り囲むように蛍光灯のようなライトが取り付けられています。Loopではライブ等もあり、このライトが照明の役割もします。

ベルリンでのLoopはあまりオープニングらしきものはなかったのですが、LAではAbletonのドキュメント部門責任者かつLoopのスポークスマンのDennis DeSantisによる基調講演があり、「Making music is building a community(音楽を作ることはコミュニティーを築くことだ)」という言葉が印象的でした。その言葉通り、今年のLoopは「人間」にフォーカスをあてたものが多かったような気がします。

Dennisのオープニングアドレスも終わり、屋上のRooftopにあがってみます。ここは普段映画が見られるRooftop Theaterが人気を呼んでいるそうですが、LoopではこのRooftopがネットワーキング用のラウンジとして使われていました。また、dublabによる配信や、Rechard Devineによるライブパフォーマンスなども行われていました。個人的にはメキシコの認定トレーナー=Luz González Torres a.k.a Demian Lichtのゴツくてダークなテクノが格好良かったです。

また、Loopではノベルティーが配られるのですが、毎年鉛筆と紙のノートは必ず入っています。今年は近くにある有名レコードショップ=Amoeba Music提供の中古レコードが入っていて「サンプリングしたり誰かと交換しようぜ」だそうです。笑

一番滞在時間が長かったEast West Studios

今回のLoopは4つの会場に分かれていました。僕が主に行っていたのは、Montalban Theaterから歩いて10分程度の所にあるEast West Studios。このスタジオはオーナーが変わるごとにWestern Recorders→United Western Recorders→Oceanway→Celloと名前が変わり、現在はソフトウェア音源を作っているEast West社がオーナーです。長い歴史を持つスタジオで過去にはMichael Jacksonなどそうそうたるアーティスト達がレコーディングに使用しています。

僕がここで最初に見たのはダブのアーティストScientistによるダブ処理セミナー。注目を集めていたプログラムで長蛇の列でした。Scientistは、EQがアナログミキサーより精密だから自分はデジタル人間なんだといって、デジタルミキサーのBehringer X32を使っていました。

話の内容は意外とまともで(失礼)、ヘッドルームをきちんと確保することが大切だ、とか、ハイハットの音量は-10dBだとか、ミキシングテクニックの基本をきちんと押さえた話でした。一昨年リー・ペリーのぶっ飛んだトークを聞いていただけに意外です。

Scientistはフェーダーが横一直線に並ぶようにプリアンプで音量を調節して、ミュートボタンは使わずフリック操作でフェーダーを動かしているそうです。そのため、毎日フェーダーの上げ下げの練習をしているのだとか。ダブ処理はミックス作業の最後にするそうです。

East West Studiosは、フルオーケストラが録れるような大きなスタジオから小さなラウンジまであるので、ここで多くのプログラムが行われました。

特に印象的だったのは、小さい部屋のラウンジで夜に行われていたMeetupと呼ばれる小規模な会合。ここでは特に誰が何を仕切る訳でも無く、そのトピックに興味ある人が集まってお互い自己紹介をしたり、ディスカッションや簡単なプレゼンテーションを行います。アットホームな雰囲気で、ここが一番濃厚な話が出来て刺激を受けました。

中でもインパクトが大きかったのは、”Music and Healing”のMeetup。のっけから宇宙の周波数だとか、チューニングはA=440Hzよりも432Hzの方が良いとかぶっ飛んだ話から始まります。歩行訓練のリハビリにクリックを聞かせると効果あるとか、そういうプレゼンテーションもあったのですが、残念ながら時間の都合で見られませんでした。

日本からは食品まつりa.k.a.Foodmanが登壇

ここでは日本からの出演者、食品まつりa.k.a.Foodmanがリスニングセッションを行っていました。通訳付とはいえ、日本から来てアメリカでファシリテーターをつとめるのはどんな気分だったのか、さぞかし緊張したんだろうなと思います。

また、East West Studiosの一番大きなスタジオ=Studio1では、食品まつりをはじめライブパフォーマンスも多く行われていました。僕も後から知ったのですが、このスタジオはWhitney Houstonが”I always Love You”やMichael Jacksonの数々のアルバムを録音していた由緒正しい場所で、LAは音楽の街だと実感しました。

早く行っておくべきだったMaker Zone

近くにあるIvar TheaterではMaker Zoneと銘打たれ、楽器メーカーが集まる出展スペースになっていました。Maker Zoneという名前から、よくある楽器メーカーの展示会場かと思っていたのですが、カッティングエッジなガレージメーカーが集まる面白い場所でした。

実際行ってみると良い雰囲気で、ジャムセッション用のスペースもあり、もっと早く行っておけばよかった所です。この他の会場では、工作系のワークショップが多く行われていたI/O Music Academyがありましたが、僕は参加していなかったため未到達でした。

自転車暴走族 in LA

2日目夜のMontalban Theater前。突然凄まじい数の自転車が暴走族のようにやってきて、中には電飾した自転車や子どもまでいます。知り合いにこの動画を見せて「これ何?」ってきいたら「ミートアップだ」と言われました。文字通り暴走族の集会みたいな感じですが、このフリーダムさが良くも悪くもアメリカらしいです。

人間にフォーカスをあてていた今年のLoop

さて、こうしてあちこち回りながらプログラムを見ていた感じでは、Ableton LiveのHow To的なコンテンツはほとんど無く、機材やテクニックよりも人間にフォーカスをあてたものが多い印象です。

また、大きな会場で行うプログラムよりも、少人数で行うスタジオセッションやワークショップ、ミートアップが充実していました。実際参加してみると、大きなホールになるとどうしても受け身がちな姿勢になってしまい、小さな部屋の方が登壇者と観客のやりとりも活発で交流しやすい雰囲気でした。

毎回Loopに参加していて感じることですが、一日のうちに様々なプログラムを見て色々な人と会って話をしていると、ものすごい量のインプット/アウトプットをするのですさまじく疲れます。正直な話、Loopのレポートも帰国すぐには書けず、しばらく自分の中で消化しないと上手く書けません。それだけ大量のインプット/アウトプットがあるこそ、Loopに行く理由でもあるのでしょう。

LoopのプログラムはAbletonのwebサイトでも字幕付の動画が見られますが、重要なのはプログラムを見ることでは無く、現地に行ってそこにいる人と会うこと。だから今年のLoopは「人間」がテーマだったのではないかと思います。

さて、僕はベルリンとLAの両方のLoopに参加しましたが、2つの街の空気感の違いがLoopの雰囲気に大きな影響を与えている印象でした。ベルリンの街はどこもストイックにテクノがかかっている印象ですが、LAはヒップホップとロックを中心にジャンルも多彩です。ただ、ベルリンは東京と全然違う街なのに比べ、LAは東京に近いノリで意外と新鮮味はありませんでした。ヒップホップ好きにはLAは天国(ただし車は必須)だと思いますし、テクノ好きには寒いベルリンの方が天国でしょう。そんなことを考えながら帰国の途につきました。

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