注目の若手クリエイターCarpainterが思うTORAIZの魅力とは?制作を通して感じたハードウェアの可能性

脱PCを可能にする、Pioneer DJのトラックメイキングツールTORAIZシリーズ(以下、TORAIZ)。これまでTORAIZの機能と使用方法にフォーカスしたチュートリアルを紹介してきましたが、普段TORAIZを愛用するアーティストが使ったらどんなトラックが出来上がるのでしょうか?

今回、国内外で活躍する注目の若手クリエイター集団TREKKIE TRAXからCarpainterさんをフィーチャーして、SP-16とAS-1だけでトラックを作り上げる工程を収録した動画を作成。TREKKIE TRAXをはじめ、国内外のレーベルから多数のリリースを重ね、2016年には仮面ライダーエグゼイドの主題歌「EXCITE」の作曲・編曲を共同で手掛けるなど、多岐にわたる活躍を見せるCarpainterのトラックメイク術を通して、TORAIZの可能性をご覧ください。

ここからは、SP-16とAS-1の連携による多彩な制作術を披露してくれたCarpainterさんに、実際にどのような機能を使用して制作を行ったのか迫っていきたいと思います。TORAIZの魅力はもちろん、楽曲制作におけるヒントも盛りだくさんの貴重なインタビューは、TORAIZユーザーならずとも必見です。

音楽の扉を開いたテクノとの出会い

ーーまずはCarpainterさんについて少し教えてもらいたいと思うのですが、クラブミュージックとの出会いはいつ頃ですか?

0歳から11歳まで家族とオランダに住んでいたんですが、一緒にTREKKIE TRAXを運営している兄のSeimeiが日本に帰ってきてから、インターネットでデトロイトテクノやYMO、電気Grooveなどのテクノミュージックを掘りだしたんです。Seimeiが中学2年、僕が小学6年の時ですね。その影響で僕も自然にテクノを聴くようになりました。

ーーどのようなアーティストに影響を受けましたか?

WIREが唯一未成年が入れるイベントだったので、毎年遊びに行っていたんですが、そこで見たテクノのDJに影響を受けました。特にKen Ishiiさんや石野卓球さん、Joris Voornの影響は大きいですね。

ーーテクノとの出会いが、音楽を作り始めるきっかけだったのでしょうか?

母親がピアノの先生なので、小学生の頃にピアノはやっていました。トラック制作自体は、12歳ごろにMIDI情報を操作できる電子ピアノで始めるようになり、それから2年後ぐらいにDAWを購入して作曲するようになりました。なので、主に打ち込みでの制作方法が基本でしたね。

ーーTREKKIE TRAXとは、どのような集団なのですか?

DJやトラックメーカーの集団で、レーベルの運営や、パーティーを主催したりしています。ミュージシャンだけでなく、ウェブサイトやジャケットなどのデザインを手掛けるデザイナーや、VJも在籍しています。

僕が18歳の時なので、5年前に同世代の仲間4、5人で設立しました。周りにたくさんのトラックメーカーがいたので、そのトラックメーカーのトラックをフリーで配信できるようにしようとウェブサイトを作ったのがきっかけです。2年ほど前からは、CDやレコードのリリースも行っています。

ーージャンル的にTREKKIE TRAXは、どこにカテゴライズされるのでしょうか?

アメリカのベースミュージックに近いことをやっていますが、元々はイギリスのダブステップから入っています。なので、広い範囲でのベースミュージックという括り方がわかりやすいのかもしれません。

ーーリリースのプロモーションはどのように行っているのですか?

SNSはもちろんですが、今までにつながったレーベルやミュージシャンに、プロモを送りまくるってことはやっています。ただ送るのではなく、その人に送ったらどうなるかというところまでを想像して、プロモを送っています。

例えば、今度BBCラジオに出演するというアーティストに対して、そのアーティストがプレイしそうなトラックを送ったりという感じですね。

良いトラックが生まれるのに作る時間は比例しない

ーー動画で作られたトラックもそうですが、Carpainterさんのトラックはとてもキャッチーな印象です。曲作りにおいてインスパイアされるものはありますか?

僕がトラックを作る時に大切にしているのは、クラブでの体験だったり、ライブハウスで盛り上がった経験だったり、自分がしっかりと理解した上で盛り上がれたものを要素として使うようにしています。

例えば、自分が影響を受けたWIREの盛り上がり方だったり、最近だとTREKKIE TRAXのUSツアーで聴いたヒップホップのバンガーな盛り上がりだったり。現場単位で面白いと感じたものを取り入れることが多いですね。現場の雰囲気や音楽性などを自分の中に落とし込んで、そこからトラックを作り始めます。

ーー今回のトラックは、どのようなイメージで作られたのですか?

今回はハードウェアでの制作ということで、テクノやミニマルっぽい感じが良いのかなとも思ったんですが、せっかくの機会なので、普段やっているベースミュージックの要素も入れたいなと。なので、なるべくミニマルな要素もありつつ、キャッチーな部分も出していこうと考えていました。

ーー制作にはどれくらいの時間が掛かりましたか?

実は今日のために別のトラックも作っていたんです。そのトラックは6時間くらいぶっ続けで結構な労力掛けて作ったんですけど、あんまり良くなくて。。それで悔しくて寝る前に10分くらい即興でやってみたらこれができたって感じです(笑)。肩の力を抜いた瞬間に良いトラックができました。

ーー普段の制作でもそういうことって多いですか?

そうですね。プロジェクトファイルを作って、飽きるとすぐにやめてという感じで。そういう途中経過のプロジェクトファイルが無数にあるんですけど、その過去のファイルを掘りだして、改めて聴いて良いなと思ったものを使って制作を進めたりしています。

あとは今回のトラックのように、テンションだけで一気に作ったものが、1年くらい掛けて作ったものよりも全然良いということもあります。なので、良いトラックが生まれるのに、作る時間は比例しないと思います。

ーー作っていて良くないなと感じても、プロジェクトを削除してしまうということはないんですね。

そうですね。ボツという概念は全くないです。削除することはなくて、絶対に残しています。中学生くらいから曲を作っていて、その時は作ることが遊びだったので、音をいじる遊びをした末にできたものがトラックみたいな感じでずっとやっていて。なのでボツみたいなのはないですね。

SP-16とAS-1の連携はDAWとの差を埋められる

ーー普段はDAWも使用されていると思いますが、今回のようにハードウェアのみの制作はいかがでしたか?

DAWに比べるとやれることは限られますが、直感性はソフトに勝っていると思います。動画では、AS-1のサウンドをパラメーターをコントロールしながらSP-16にサンプリングしましたが、直感的なコントロールでサウンドを生み出せるのは、ハードウェアならではですね。

DAWでも同じ手法を行っているのですが、SP-16とAS-1の連携は、DAWでできることとハードウェアでできることの差を埋められると思います。

ーー打ち込みで音楽を作る上ではシーケンサーが最も重要な役目を果たしますが、SP-16のシーケンサーの使い勝手はいかがですか?

SP-16には、ステップ・レコーディングに対応したステップ入力キーと、リアルタイム・レコーディングに対応したパフォーマンスパッドが搭載されています。シーケンスの入力にはステップ入力キーを使っていますが、トラックの構想を練る時点では、パフォーマンスパッドを叩きながら、どんなトラックにしようか実験しながらイメージを膨らませていました。そのような使い分けができるところは利点だと思います。

それと、オートメーション(SP-16での機能名称はステップ・モジュレーション)をシーケンス上に直接記録できるのは、大きなポイントだと思います。

ーーオートメーションを記録することで、どのような効果を得られるのでしょうか?

SP-16では、任意のステップ入力キーを押しながらパラメーターをコントロールするだけで、オートメーションを記録できます。今回のトラックで言うと、入力したハイハットのヴェロシティをステップごとに変えていて、すごく細かいことなんですが、それがビートのグルーヴに直結するんです。なのでステップごとに直接オートメーションを記録できるのは、ありがたい機能ですね。

ーーCarpainterさんの制作工程を見ていて印象に残ったのがピアノのパートだったのですが、あのメロディーはどのように作成されていたのでしょうか?

今回のトラックで使ったサンプルは全てSP-16に搭載されているもので、ピアノのサンプルもSP-16のものを使っています。このサンプルは2小節のピアノのメロディーなのですが、SLICEモードでピアノのメロディーからアタックの強いコードの部分のみを取り出し、なるべく弾いているような感じが欲しかったので、スライダーでピッチを変えながら演奏しています。

ーーすごく難しそうなことをやっているのかなと思ったのですが、そんなことはないんですね。

一見すると複雑そうに見えるかもしれませんが、触っていたら思いつくというか。色々と試した中で、生まれたやり方ではありますね。

ーー色々と実験的しながらトラックを作っていくと思いますが、TORAIZシリーズはそのような制作方法にも向いていますか?

できることは多いので、その中から可能性を見出す作業は面白いですね。例えば、スライダーの使い方だったり、パッドへのアサインの仕方だったりと、できることは色々あるので、どの部分で攻めていこうかなと考えるのはワクワクしますね。

ーー声ネタのサンプルを多用されているのもとても印象的でした。声ネタの素の状態からトラックに馴染ませていく工程がすごくスムーズだなと感じたのですが、どのように加工しているのでしょうか?

声ネタはよく使いますね。例えば、今回のトラックで使った「チェック、1、2」という声ネタでは、「チェ」の「ェ」の部分だけを取り出し、加工して使用しています。SP-16は、タッチパッドに触れて直接サンプルの波形を編集できるので、直感的に作業できます。画面も大きいので視覚的にもわかりやすいですね。

TORAIZは音楽を作る過程を物理的に触れる

ーーSP-16と共にAS-1を使用されていましたが、AS-1の音質はいかがですか?

音はだいぶ良いですね。お気に入りの音色はたくさんあるんですが、フィルターのレゾナンスを調整した時に発振する音が、僕が持っているシンセの中でも段違いに良くて、驚きました。

ーー今回のトラックでも、フィルターは多用されているのですか?

AS-1を使用しているトラックのサウンドでは、ほぼ使っていますね。

ーーフィルターの調整だけでも簡単に音作りできるんですか?

フィルターのLFOの周期を速くしたり、遅くしたりするだけでも、かなりエグい音が作れます。AS-1は、音作りする上で重要な部分がしっかりできているので、良いサウンドをたくさん作れるなという印象です。

ーー今回のトラックの音作りにおいて、フィルター以外のパラメーターは使っているのですか?

他にはエフェクターをいくつか使っています。AS-1でお気に入りのエフェクトはいくつかあるんですが、リングモジュレーターが特に気に入っています。リングモジュレーターって、耳にキツい音になる印象があるんですが、AS-1のリングモジュレーターは、耳にキツくなくて良い音になるなという感じです。

ーーSP-16とAS-1の組み合わせによる可能性を教えてください。

今回はSP-16とAS-1をMIDI同期させ、AS-1のサウンドはSP-16に直接インプットしています。AS-1のサウンドはSP-16にサンプリングしてから加工し、シーケンスを組んでいるのですが、このやりとりが無限にできるなと。しかも簡単にできるので、この連携はかなりお気に入りです。

SP-16にはAS-1に特化したMIDIモードがあるのですが、このモードを使うと単に同期するだけではなく、SP-16からAS-1のフィルター・カットオフやレゾナンスなどのパラメーターをコントロールすることもできます。この機能により、AS-1のトラックにオートメーションを記録することもできるので、柔軟な音作りができますね。

ーー今回のトラックの聴きどころを教えてください。

トラックの中でピュンピュン鳴っているシンセ音は、AS-1をリアルタイムにコントロールしたものを録音しているんですが、AS-1の即興性みたいなところは聴いて欲しいポイントですね。

ーー最後にTORAIZシリーズの利点はどこにあると思いますか?

TORAIZはソフトウェアと違って、音楽を作る過程を物理的に触れるというところが楽しいところであり、利点だと思います。

[soundcloud url=”https://api.soundcloud.com/tracks/323019913?secret_token=s-0aVt1″ params=”auto_play=false&hide_related=false&show_comments=true&show_user=true&show_reposts=false&visual=true” width=”100%” height=”450″ iframe=”true” /]
 
今回のために作られたトラック”Allegro”がこちら。Carpainterさんならではの、キャッチーなベースミュージックに仕上がっていますが、これが10分で作られたなんて、到底思えないクオリティです(笑)。

そして、このAllegroを収録した7インチ・レコード(B面には、”Rainy Drops”を収録)を、CUT&RECでカッティング。この貴重な7インチがもらえるTORAIZのキャンペーンが、6月に予定されています。TORAIZキャンペーンの詳細は、Pioneer DJ JapanのTwitterとFacebookなどで告知されるので、チェックをお忘れなく!

Carpainter SNS

https://soundcloud.com/carpainter
https://twitter.com/Carpainter_TT
https://www.facebook.com/carpainter.jp

TREKKIE TRAX Website

http://www.trekkie-trax.com/

[amazonjs asin=”B01DVSFC14″ locale=”JP” title=”PIONEER DJ パイオニア / TORAIZ SP-16 PROFESSIONAL SAMPLER サンプラー”]
[amazonjs asin=”B01N6SP2E1″ locale=”JP” title=”Pioneer DJ パイオニア / TORAIZ AS-1 モノフォニック・アナログ・シンセサイザー”]

メーカーサイトでTORAIZの詳細をチェック