DJ機器では世界標準と言っても過言では無いPioneer DJから、ライブパフォーマンス向けの機材「TORAIZ SP-16(以下SP-16)」が発売されました。SP-16はパソコンを使わずスタンドアローンで動作し、内蔵エフェクトや豊富な入出力ポート、Pro DJ Linkなど搭載した高い拡張性を持つオールインワンサンプラーです。
また、Pioneer DJにとって初めての楽器であり、70年代から数々の名機と呼ばれるシンセサイザーを手がけたレジェンド=Dave Smithとコラボレーションしたアナログフィルターを搭載しています。それでは早速その実力をチェックしていきましょう。
TORAIZ SP-16:ファースト・インプレッション
本体のサイズは同社のCDJ-2000シリーズを横にしてさらに小ぶりにした感じで、狭いDJブースの中でも簡単にセットアップ可能。高級感溢れる筐体は頑丈な作りになっていて、安定した演奏ができます。
本体左側は綺麗に色分けされた目立つ16個のパフォーマンスパッドをはじめとする演奏に関するセクション。パッドの下にはステップ入力でビートを組むのに欠かせない16ステップキー、左には演奏時に様々なパラメーターを変化させるタッチストリップ、上部にはDave Smith Instruments(以下DSI)製のフィルターがあります。
一方、本体右側はシーケンサーや音作りに関するセクション。小型タブレットのような7インチのタッチディスプレイと6つのツマミが配置され、その右側には同社のCDJシリーズでもお馴染みのロータリーセレクターや、USBメモリーを挿入するUSB Aポートがあり、Pioneer DJらしい操作体系が確立されています。
本体背面にはオーディオアウトをステレオ4系統/サンプリング用のオーディオインをステレオ1系統搭載。またパソコンと接続するUSB BポートやMIDI IN/OUT・Pro DJ Linkといった同期に必要なポートも装備されており、本格的なセットアップにも耐えられる豪華な仕様となっています。
SP-16のサウンドをチェック
それではプリセットとなるPROJECTをロードし、SP-16のサウンドを聴いてみましょう。SP-16でこうしたファイルをロードにするには、本体右端のロータリーセレクターを回し選択して押し込みます。この操作体系は同社のCDJシリーズと共通しており、使い慣れたユーザーならSP-16の操作にもすぐに馴染むことができるでしょう。ロータリーセレクターの上にはHOMEボタンとBACKボタンがあって、多機能なSP-16をタブレットのような感覚で操作できます。
PROJECTをロードすると、タッチディスプレイ上に読み込んだサンプル=TRACKがカラフルに表示され、パフォーマンスパッドのLEDも同じ色に光ります。この色は単なる電飾では無く、読み込んだサンプルをカテゴリー毎に色分けすることで、パッドに割り当てられた音を視覚的に把握しやすくなっています。また、演奏する上で音量管理はとても重要ですが、SP-16は本体にレベルメーターを備える代わりに、タッチディスプレイの右端にレベルメーターを表示させています。
ダンスミュージックに特化した内蔵音源
それでは内蔵されたPROJECTをあれこれ再生してみましょう。SP-16は単なるサンプラーというより総合音源のような感じで、ダンスミュージックに特化した様々なサウンドが飛び出してきます。本体には8GBのフラッシュメモリを搭載し、Loopmasters社製のライブラリーが2GBプリインストールされています。
収録されているサンプルはTECHNO・DUBSTEPなど主要スタイル毎に網羅し、単音のドラムサウンドだけでは無く、ベースやシンセ・効果音・ギター等の生楽器・ドラムやパーカッションのループなど一通り収録。音質はPioneer DJらしい滑らかなキャラクターで、同社の製品と組み合わせても違和感なく使えるでしょう。
内蔵サンプルでは飽き足らない場合は、オーディオインからサンプリングします。サンプリングした後はタッチディスプレイで波形を見ながらエディットしたり再生の設定を行うことができますが、ディスプレイのサイズが大きいのでエディットは快適。サンプリングしたデータは本体内蔵のフラッシュメモリに記録しておくことが出来ます。
SP-16はサンプル毎に小節数やBPMを指定できるので、ループ素材同士の組み合わせも簡単。また、こうしたループ素材を使う場合はタイムストレッチをかけてPROJECTとサンプルのBPMを一致させる必要がありますが、ターンテーブルのようにサンプルの音程を変えて再生するRESAMPLEモードと、CDJに搭載されているものと同じ技術で音程はそのままでBPMだけを変えるMaster Tempoモードを搭載しています。
また、サンプリングだけでなく、CDJのようにUSBスティックからも44.1kHzのWAV/AIFFファイルを読み込むことが可能で、さらにパソコンとUSB接続してお手持ちのサンプル音源を転送することもできます。
ステップとリアルタイムをシームレスに操れるシーケンサー
さて、プリセットを一通り聞いてみたら次は実際に打ち込んでみましょう。パフォーマンスパッドは主にリアルタイムでの演奏に使いますが、ただ叩いて音を出すだけでは無く、パッドの下部にある4つのキーと組み合わせることで様々な機能を持っています。
パッドを叩く演奏に使うTRACK/音を抜き差しするMUTE/フレーズサンプリングをリアルタイムに組み替えるSLICE/サンプルに音程を付けて演奏するSCALEと、パフォーマンスパッドの機能を切り替えることができます。
パッドの叩き心地はレスポンスが良く、指にまとわりつくような感じも無く、力を込めなくても狙ったベロシティーを出しやすい良好なパッド。このパッドの光る色もカスタマイズ可能です。
一方本体下部には、ステップ入力に使用する16ステップキーが横一列に並んでいます。四つ打ち系のクリエーターの中にはこの16ステップキーの配列を見ただけで高揚する方もいるのでは無いでしょうか。右側にある4つのキーと組み合わせることで最大64ステップまでのシーケンスを打ち込むことができます。
それではこのパフォーマンスパッドと16ステップキーを使って簡単なループを打ち込んでみましょう。
打ち込んだシーケンスは、タッチディスプレイ内でシーケンスを細かくエディットすることができます。特にサンプルの発音を細かく繰り返したり、拍をズラしたりするトリガーシーケンスは触っていて面白い機能で、プレイにメリハリを付けたり、ループや打ち込んだシーケンスを解体・再構築できます。
こうしてできたシーケンスをSP-16ではPATTERNと呼び、本体右下のボタンを押して呼び出すことができます。また、16個あるパフォーマンスパッドのキットを1まとめにしたものをSCENEと呼び、本体右下のSCENEボタンで切り替える事で、ソングを変えるかのようにキット・シーケンス全体を変更することができます。
ライブパフォーマンス中のワークフローとしては、ライブ全体のファイルをPROJECTとして準備し、1つの楽曲の中で展開する時などシーケンスを変えたい時はPATTERNを切り替え、キットや楽曲そのものを切り替える時はSCENEを切り替える、といった流れになります。
また、あらかじめ曲の展開などをプログラムする場合は、タッチディスプレイ右上のアイコンをタップしてアレンジメント機能を呼び出し、SCENE・PATTERNを組み合わせてソングを組むことが出来ます。
タッチディスプレイを使ったサウンドメイキング
SP-16の音作りをする時は、タッチディスプレイとその周囲の操作子を使用します。サンプルのエディットはHOMEボタンを押して、タッチディスプレイ上に表示されたエディットしたいトラックを選択。SP-16はサンプラーの機能を一通り備えていて、サンプルの逆回転やアンプエンベロープで音の立ち上がりや余韻を細かく調整することができます。
また、SP-16はミキサーを内蔵しており、タッチディスプレイ右上のミキサーアイコンをタップする事で呼び出せます。この内蔵ミキサーでは、各トラックのミキシングやセンドエフェクトを使用可能。このミキサーの操作時も本体右側のロータリーセレクターが活躍し、CDJの操作に慣れたユーザーに優しい設計となっています。
その他の演奏向けの機能として本体左端にあるタッチストリップがあります。このタッチストリップでサンプルの音程やパラメーターをリアルタイムに変化させられます。また、指定したグリッドに合わせて連打するREPEATが、フィンガードラミングが苦手な方にも簡単に演奏できてオススメ。さらにUSERモードを2つ搭載しタッチストリップにエフェクトなどのパラメーターをアサインすることもできます。こうなってくると、録音ボタンを押してツマミやタッチストリップのオートメーションを記録できるともっと面白くなりそうですね。
この動画ではタッチディスプレイを使った音作りからタッチストリップを使った音色変化や演奏など、SP-16でできるサウンドメイキングのデモをしています。
即戦力となる内蔵エフェクト
さて、SP-16にはもちろんエフェクトも内蔵されていて、インサートエフェクトとセンドエフェクトの2系統があります。現時点で搭載されているエフェクターは合計6種類ですが、ファームウェアのバージョンアップでエフェクトが追加されているので、アップデートがないかPioneer DJのwebサイトをまめにチェックして今後のアップデートに期待しましょう。
さて、DSI社のフィルターが気になる方も多いと思います。フィルターはシンセサイザーにとってサウンドのキャラクターを左右するとても重要なパーツで、SP-16に搭載されているフィルターもスムーズなかかり方をしてシンセや楽器のサンプルにも有機的な変化を与えてくれます。
このフィルターは、極端なセッティングにしてもデジタル的な荒さがないので、トラック全体やビートにかけるだけでなくウワモノにかけるのもまた味があって良いでしょう。また、このフィルターはDRIVE回路も内蔵していて、これがサウンドを良い感じにパワフルにしてくれます。例えば、ビートがちょっと弱いな…という時にドライブをかけると実に良い感じにパンチを与えてくれます。
この動画は、内蔵エフェクトとDSIのフィルターを組み合わせたデモです。
他の機材と繋げてみよう
SP-16には同社のハイエンドDJ機器に搭載されているPro DJ Link端子を搭載しており、同社のCDJやDJミキサーなどとLANケーブルで接続することでテンポを同期させることができます。この動画は実際にCDJ-2000NXS2とSP-16を同期させ、DJプレイの中にSP-16を取り込んだパフォーマンスの一例。DJミキサー(DJM-900NXS2)左端のチャンネルにCDJ2000nxs2、右端のチャンネルにSP-16が立ち上がっています。
また、SP-16にはUSB BポートやMIDI IN/OUTを搭載しており、これらを経由して外部の機材やDAWと同期を取ることができます。このようにSP-16はスタンドアローンでも動作しますが、Pioneer DJ以外の機材との接続もできるように作られています。
まとめ
さて一通りテストしてみると、SP-16のかなり本気な造りからPioneer DJのライブ・パフォーマンスに対する熱い思いを感じました。SP-16はリアルタイム入力にもステップ入力にも強く、単音のサンプルを打ち込むだけで無くループ素材を加工した演奏にも強いです。その多機能を活かすには自由な発想を持って色々な使い方を模索してみましょう。楽器の使い方にセオリーはあれどルールはありません。
一方、ハードウェア面の造りはかなり本気でありながら、本文中にも触れているとおりソフトウェア面にはまだ伸びしろがあります。もっともPioneer DJもこうした所は認識しているようなので、今後どのように育っていくのか楽しみな一台です。
以下のページでは、SP-16を使って簡単なトラックの制作と演奏を行い、より実践的なSP-16の使い方を紹介しています。トラックの制作術も学べるので、ぜひチェックしてみてください!
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