バンドとエレクトロニクスのコラボレーション術。Koyas × R N S Tインタビュー

soundropeのライターとして記事の寄稿をいただいているKoyasさん主催のレーベル”psymatics“から、Koyasさんと多彩なアーティストとのコラボレーションをコンセプトにしたEPシリーズが始動。このシリーズの第1作目として、アンビエント、ポストロック、エレクトロニカなどをルーツに独自の音楽性を追求する3人組のバンドR N S Tとの共作がリリースされます。

打ち込みを主体に曲作りを行うKoyasさんと、生バンドR N S Tという異色のコラボ。正反対とも言えるスタイルは、どのように融合して行ったのでしょうか?コラボのきっかけや、楽曲の制作工程を通して、バンドとエレクトロニクスのコラボレーション術に迫ってみたいと思います。

コラボ・シリーズ始動のきっかけ

ーーまずはsoundrope読者のみなさんに、簡単に自己紹介をお願いします。R N S Tの皆さんは、担当されている楽器なども教えてください。

Koyas(以下K):Koyasです。soundropeでは記事も書いていて、Ableton認定トレーナーとかそんな話ばっかりしているんですが、本当はアーティストなんです。

陽(以下Y):ボーカルとギターとシーケンス担当の陽(ヨウ)です。

宇宙(以下U):ギターの宇宙(ウチュウ)といいます。

Sanson(以下S):ベースを担当しているSanson(サンソン)です。

Koyas(前列左)、陽(前列右)、宇宙(後列左)、Sanson(後列右)

ーーダブルギターという感じなんですか?

Y:一昨年ぐらいまではダブルギターでしたけど、現在のライブでは宇宙が演奏しています。

ーーライブでは宇宙さんがギターで、陽さんがボーカルということですか?

Y:そうですね。僕はボーカルと機材のオペレートを担当していて、エフェクトとかも使ったりしています。

ーー今回のタイトルは、Koyasさんのコラボシリーズの第一弾作品ということですが、どのような経緯でこのシリーズを始めてみようと思われたのですか?

K:以前から色々な人とコラボして録音していたんですけど、それらの曲を1枚のアルバムにまとめようかと、自分だけで制作した曲と合わせて聴いてみたんですね。そしたら、できた曲を寄せ集めただけに感じたので、コラボした人ごとにEPとしてリリースする方が面白いかなと思ったんです。今のところ、第5弾までタイトルが決まっています。

ーー打ち込みで曲を作る場合、個人で完結させるスタイルが多いかと思います。どうしてコラボして曲を作ってみようと思われたのですか?

K:以前ヨグさん(DJ Yogurt)と一緒に制作していて、今度は自分の作品も作ろうと、一人で作り始めたんですけど、面白くなくて。。例えば、商業音楽とか、機材のデモとか、そういうのであれば一人でも特に何も考えずにできるんですけど、作品となると「何でこれ作ったの?」といった理由付けが全然なくて。何で音楽をやってるんだろうって、中学くらいまで遡って思い返してみると、何かみんなでやりたいというところが一番大きかったのかなと。

ーーある種、原点回帰からの、今回のシリーズということなんですね。

K:そうですね。それで現場などで一緒になった人達に声をかけたりして。R N S Tと初めて一緒になったのはruralかな?

S:そうですね。2015年だと思います。

K:ライブ観てたら、結構その様が面白くて。3人が向かい合うように座ってライブしてたよね。

S:DJブースのさらに奥に座って、演奏してるみたいな(笑)。観る人からしたら、頭しか見えないような感じでした。

K:フロアから観たらほとんど見えない(笑)。僕はライブが終わって後ろで寝っ転がっていたんですが、目が覚めたら「面白いことやってるな~」と。

ーーそんな時に、R N S Tさんの曲が聴こえてきたんですね。

K:飛ばされましたね。そこでデモとかアルバムのプロモとか貰って、聴いてみたら「いいじゃん」みたいな。

Y:僕は僕で、DJ Yogurt&Koyasの「Chill Out」を聴いていました。

ーーKoyasさんの音楽は元々知っていて、ruralで初めましてっていう感じなんですね。

K:そうしたら、三軒茶屋にあるDJバーSpace Orbitでも会うようになって、アレ?みたいな(笑)。

バンド×エレクトロニクスの制作工程

ーー今回のEPでは、タイトルトラックの”Bay Area Patrol”と”Applause”の2曲が収録されていますが、それぞれのトラックはどのように制作されたんですか?

K:Bay Area Patrolは僕が一通り作って、生演奏のテイストが欲しいなというときにR N S Tに声をかけて、ギターやベースを入れて貰いました。

Koyas, R N S T “Bay Area Patrol”

ーー元々、軸のオケはあったんですね。それを渡してアレンジして貰ったり、足して貰ったりって感じですか?

K:足して貰ったものを聴いて、自分のパートの音数が多いなとか、要素が多すぎるなっていう部分を削っていきました。

ーー完全に共作という感じなんですね。

K:共作でもありますが、最初はゲスト参加みたいな感じでした。

ーーやっていくうちに、共作になっていったのですね。

K:そうですね。先にBay Area Patrolを作っていて、そこにギターとベースを入れて貰ったら、あたかも最初からこうであったかのようにハマったんで、じゃあもう1曲と(笑)。2曲目のApplauseは元々リミックスを頼んでいて、できたのを聴いたらできが良くて、下手したら当時のオリジナルより良いかも(笑)。そこで、両曲ともに共作として、EPにした方が良いかなと思ったんです。

ーー生楽器と打ち込みという正反対のスタイルですが、制作はどのように進められたのですか?

K:僕が使っているDAWがAbletonで、陽くん使っているのがStudio Oneなんです。なので、オーディオ・ファイルに書き出さないとやりとりできないので、ステム(トラックを楽器ごとにまとめたオーディオ)のデータを送り合うという、泥臭いやり方で、制作していきました。

今ではSpliceなどのコラボサービスが充実していますが、実際に使ってみると難しかったりするんです。いくら相手に便利だよと勧めてみても、選択を誤ると効果的に進まないケースもあります。

ーー毎回ステムを送って、そこからできたものをまたステムで送るみたいなやりとりだったんですね。

K:そうですね。ステムで送るというのは意外と重要だなと思っていて、バンドの人は録音するから大丈夫なんですけど、DJとか打ち込み系だと録音しなくてもMIDIトラックを並べたままバウンスできちゃうじゃないですか。そうすると曲作りに録音というプロセスがなくなってしまいます。

音を固定化するというのが、作品作りには重要なのかなと。一回オーディオにしておけば、OSのバージョンアップなどでトラックの音が出ないみたいな、リコールできない時に悩まなくてすみますし。

ソフトシンセも使っていたので、最初はオートメーションもいっぱい書いたりしていたんです。当時はLive 9だったのでオートメーションの扱いがあんまり良くなくて、編集しづらいとか、気にしなくていいような細かいところが気になって、オートメーションを書くのはやめて、全部録音しちゃえと。

ーー敢えてオーディオ化したものは、もう手を付けないみたいな感じですか?

K:手を付けるにしても、なるべく前の段階に戻らないようにしました。もしくはオーディオ化したものが気にいらなければ録り直しました。R N S T側は、僕が送ったステムをどうやっていたの?

Y:Bay Area PatrolとApplauseは、共作とリミックスという別々の話だったんですけど、Applauseに関しては僕がメインでリミックスをやりました。Koyasさんの素材を吟味して、コラージュ的に建て直すというか、それを断片的に積み上げて行くみたいなやり方です。

リミックスと共作に、あまり乖離があっても良くないと思ったので、同じ手法を取り入れつつ、ギターとベースが弾いたフレーズを僕がコラージュしていくという形で、リミックスも共作も同じようなアプローチでした。Bay Area Patrolは、Koyasさんからもらったステムが完成されている状態だったので、誇張するパーツを際立たせるみたいな感じで作りました。

ーー誇張するために、どのようなことをされたのですか?

Y:例えばピーンという音があって、そこにSansonがE-bowとかでサステインの長い音を出したりするんです。そういう奏法だったりを被せて、誇張するというかブーストするというか、アタックのイメージを広げるというような感じですね。

S:十分低音は足りていたので、まずエフェクティブなフレーズやエフェクトを選んだりしました。

ーーR N S Tのみなさんは、これまでにも他ジャンルのアーティストとのコラボは経験されているのですか?

Y:三茶のバー(Space Orbit)で演奏していた時期に、DJの人とかとやりました。

S:DJ、VJ、絵描き、打楽器奏者だったりとか、世界中を旅しているような人だったり、色んな分野の人達が集う場所なので、そういうセッション的な事は結構やりました。

ーー作品でのコラボは初めてですか?

Y:初めてです。

ーーそのような経験があると全然違いますか?

S:そうですね。自分らからしたら、バンドがいないところに呼ばれて、周りがDJばっかりで、毎回「今日はどんな音なんだろう」と。そのような環境で、自分達の振り幅が広がっていきました。

U:パーティーに合わせてリアレンジしていったりとか。バンドなんですけど、ほとんどライブハウスでライブやらないですね(笑)。

ーー敢えて狙ってやっているスタイルなんですか?

Y:敢えてですかね。元々アンビエント・バンドなので。

今作品のこだわり

ーー今作のここを聴いてほしいみないな、聴かせどころなどありましたら、教えてください。拍手の音が使われたりしていましたよね。

K:拍手の音はMax for Liveのpalmasっていうのがあって、MIDIを受けるとパチンって手拍子が鳴るだけのインストゥルメントなんですけど、そこからタイトルがApplauseになっているんです。

あとはLeap MotionっていうVR用のコントローラがあって、手で動かしてエフェクトのパラメーター動かしたり。そういう所が聴き所ですかね。

ーー今作の制作では、ソフトシンセやプラグインがメインなんですか?

K:半々くらいですかね。

ーーアウトボードや外部音源などは、オーディオで取り込まれているのですか?

K:そうですね、最終的にはオーディオで取り込んで。

ーー一度MIDIで鳴らしつつ、みたいな感じですか?

K:そういう時もありますし、完全にインプロの時はMIDIは用意せず、ただ録音するだけです。なので年々自分の中でAbleton Liveの占める役割が減っていっています。

ーーそれは意識的にですか?

K:結果的に、そうなっていきました。昔は、PCに向かってマウスをポチポチやりながら作っていたので、作業はかなり早くできたんですけど、そうして完成した曲に対して何か違うなと感じるんです。

ーーR N S Tの皆さんは、今回の曲で聴きどころみたいなのはありますか?処理的に大変だったりとか。

Y:楽しんでやったので大変だったことはないですね。今もそうですけど僕がシーケンスを作って、二人が合わせるみたいな形は、普段とあまり変わらないというか。ただ、Koyasさんのステムを聴いて、新しいイマジネーションというか、こういうアプローチもあるんだみたいな発見はありました。

ーーそれはKoyasさんの方でも感じましたか?

K:キャッチボールの中で一番記憶に残っているのは、ピタリと思ったところに球が来たなと。

ーー相性抜群ですね。人と制作するのは大変だと思いますが、ストレス無くできたようですね。

K:特に感じなかったですね。他のスケジュールの方が…(笑)。

ーー今後の活動予定を教えてください。

K:僕はこのコラボ音源のシリーズを月1で出していこうと思っています。しばらくイベントばっかりやっていたので、今年は音楽をやろうと。

ーー作品のリリースはデジタルがメインですか?

K:そうですね。これには理由があって、フィジカルで出すのって労力がかかる上に、売価が高いじゃないですか。ストリーミングなら月額1000円で聴き放題な訳で、「配信やらないからこの盤を聴け」みたいな感じではなくて、なるべく手軽に聴いてもらえるのが良いのかなと。もちろんレコードの良さもあるので、それは別に出しますけどね。

ーーR N S Tの皆さんの予定はいかがですか?

Y:7月に配信でEPのリリースを予定しています。Koyasさんに、R N S Tの2ndから”Awake”という曲をリミックスしてもらったので、それも含まれる予定です。

ーー相互にリミックスし合うという感じで面白いですね。リリースを控えつつ、ライブとかは日常的にやられるんですか?

Y:今回初めて制作期間はライブをしなかったんです。ガッツリと制作をするというスタンスで取り組んだので。7月予定のEPのリリースを機に、ちょっとずつやっていく予定です。

ーーなるほどですね。それでは今後の活動も楽しみにしています。本日はありがとうございました。

オフィシャル・ウェブサイト
psymaticsウェブサイト:http://psymatics.net/
R N S T ウェブサイト :http://rnst.jp/
Bay Area Patrol視聴/購入
Spotify:https://open.spotify.com/album/7FothkmDTDnAkz8VXpCMO2
Apple Music:https://itunes.apple.com/jp/album/bay-area-patrol-single/1397870166
bandcamp:http://psymatics.bandcamp.com/album/bay-area-patrol-2
Google Play:https://play.google.com/store/music/album?id=Bu4au6mzkelkmoyyqauweiir65q