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高音質なレコードを製作するために知っておくべき5つの基礎知識。サイズや収録時間などの適正とは?

soundropeが手がけるダブプレートサービス「CUT&REC」で、カッティングエンジニアを担当している橋本です。職業柄、レコードに関する質問をよく受けます。確かに身近に聞ける人はそう多くないでしょうし、ウェブ検索してみても、情報はあまり見つかりませんよね。

そこで、エンジニアとして活動するなかで得られた経験を元に、レコードの発注時に役立つ基本的な知識について紹介していきたいと思います。ダブプレートやレコードを作ってみたいという方は、ぜひご活用ください。

1. サイズによって何が違うの?

レコードには、7インチ/10インチ/12インチがありますが、その違いは、収録時間と音質です。収録時間については見ての通り、12インチが最も長く収録できます。しかし音質の違いについては、あまり知られていないかもしれません。12インチレコードを聴くとわかりますが、レコードの溝が内周部(内側)に進むにつれて、音質が低下していきます。経験上、内周部で特に影響を受けるのが4kHz以上の帯域で、この帯域の音量が失われてしまいます。

ではなぜ内周部では、音質が低下するのでしょうか?円とは不思議なもので、レコードの内周でも外周でも、1回転に要する時間は同じです。しかし、レコード1回転あたりの距離は、内周の方が短くなります。距離が短いということは、溝1周分の収録面積が狭いということですね。逆にレコード1回転あたりの距離が長い外周は、溝1周分の収録面積が広くなります。

レコード1周分に収録できる曲の長さは同じでも、曲を収録する面積にゆとりがある外周の方が、音質的にも良いというわけです。よって、溝面積を広くとれる12インチが音質的に最も優れているということになります。

では、7インチと10インチの音質はどうでしょうか?もちろん、面積が広い10インチの方が、7インチに比べてより外側から収録できるので、音質的に勝ります。しかし、12インチに比べると、良音で収録できる範囲は少なくなります。12インチの音質が低下する内周部の面積と同サイズの7インチは、どこの場所に収録しても音質的に劣ります。

2. 厚さ(重さ)で音質は変わるの?

CUT&RECでは、1.5mm盤と2mm盤を取り扱っています。1.5mm盤は一般的なレコードの厚みと同じで、2mm盤はいわゆる重量盤と同じです。レコードの厚みがある分、2mm盤の方が重いということになります。

よく重量盤の方が音が良いという話を耳にしますが、厳密には少し違います。重量盤は、レコード自体の重みがある分、回転が安定します。回転が安定することで、ピッチの揺らぎを抑えることができ、より忠実に曲が再現されます。このことから、”重量盤=音が良い”という認識が広まったのではないでしょうか。

リスニング用のレコードであれば2mm盤に分がありますが、レコードをプレイするDJの場合は話が変わってきます。2mm盤に比べて軽い1.5mm盤は、レコードを操作した際のレスポンスが良く、DJ的には扱いやすいのです。特にスクラッチを行うDJにとっては、重い盤よりも軽い盤の方が操作しやすく、1.5mm盤の方が重宝されるというわけです。

レコードの厚み(重さ)=レコードの回転の安定。用途に応じて、チョイスしてください。

3. 33回転と45回転、どっちが良いの?

一般的なレコードの回転数には、33回転と45回転があります。回転数による違いは、ズバリ音質です。どちらが音質的に優れているかというと、それは45回転です。ではなぜ45回転の方が、音質的に優れているのでしょうか。

33回転と45回転では回転スピードが異なり、45回転の方が速く回転します。同じ曲を33回転と45回転でカッティングした場合、回転スピードが速い45回転の方が、溝が長くなります。この話どこかで聞き覚えありますよね?そう、最初の章で説明したレコードの内周と外周の話と同じで、溝の長さが長い45回転の方が収録面積が広くなり、音質的に優れているというわけです。

Photo : Hiro Ugaya

良音だからといって45回転にすべきかというと、そういうわけでもありません。ここでも、DJの場合は話が異なります。特にスクラッチを行うDJの場合は、33回転がオススメ。45回転の状態でレコードを触ってみるとわかる通り、33回転に比べて抵抗力が強いのです。抵抗が強いということは、レコードを操作しづらいというわけで、33回転の方が適性ということになります。

また、長時間の音源を収録する場合は、溝面積を稼がなければならないので、必然的に33回転ということになります。回転数も、用途に応じて選びましょう。

4. レコードに最適な収録時間は?

最初の章でも話した通り、最も大きな12インチが、長く収録できます。それでは、12インチに最適な収録時間とは?エンジニアとしては、音質的に影響を受ける内周部に収録するのは避けたいですし、なるべく大きな音量で収録してあげたいというのが本音です。しかし、音量を大きくするには、隣り合う溝同士が接触しないように溝幅を広くする必要があり、結果、1曲あたりの溝面積が広くなります。隣り合う溝同士が接触すると針飛びの原因になるのですが、12インチのシングル盤に比べてLP盤の音量が小さいのは、そのためです。

溝が左右に蛇行する低域の音量が大きな曲(クラブミュージックなど)は、音量を上げることで、隣り合う溝同士が接触してしまうことが多く、そのために、低域の音量を下げざるをえないケースもしばしばです。最も収録時間が長い12インチですが、より良い音質と音量で収録するには、片面8分以内がベストといえます。

続いて10インチ。考え方は12インチと同じで、内周部は極力避けたいので、より良い音質と音量で収録するには、片面4分以内が最適です。どこの場所に収録しても音質的に劣る7インチ。音量的な観点からいくと、4分以内であれば、それなりの音量で収録することができます。

ここまでの話をまとめると、最も良音で収録できるのは、12インチ/45回転/片面8分ということになります。この条件なら、通常より大きな音量で収録される、いわゆるラウドカットも可能です。

5. 入稿ファイル形式はどうすれば良いの?

前章までは、レコード自体のお話でしたが、最後は入稿する音源のファイル形式について紹介します。ここは完全に私個人の主観になります。まずは非圧縮のWAV/AIFFと、MP3などの圧縮形式の音質的な違いについて。音質は、WAV/AIFFの圧勝です。MP3などの圧縮形式ファイルの場合、音の伸びと広がりがありません。またレコードの特徴ともいえる立体感が生まれづらく、2次元なサウンドになってしまうので、MP3での入稿は極力避けたほうが良いです。

次に、ビット深度による音質的な違いについて。16bitと24bitの音質を簡単に説明すると、16bitは粗く、24bitはクリアな印象です。しかし、16bitの音が悪いというわけではありません。好みの問題ですが、よりレコードっぽい粗さのあるサウンドをお望みなら16bitを、より繊細なサウンドをお望みなら24bitがオススメです。

Photo : Hiro Ugaya

最後に、サンプリングレート(44.1kHz,48kHz,96kHz)による音質的な違いについて。

44.1kHz

44.1kHz以上の非圧縮ファイルは全て、音に立体感がでます。しかし48kHz以上の非圧縮ファイルに比べると、音が”のペー”として粗くなる印象です。これは、音の粒立ちが劣っているからで、その分音に丸みが出てレコードっぽいサウンドになるので、音質的に悪いということではありません。なので、今風のハイファイで音圧高めの曲を落ち着かせたいという場合は、44.1kHzもありだと思います。ちなみに、44.1kHz以上の非圧縮ファイルであれば、レコード本来の音質を楽しむことができます。あとは好みの問題ですね。

48kHz

48kHzは、一つ一つの音に力強さがあります。わかりづらいかもしれませんが、音の密度がアナログの波形に丁度収まる感じがして、レコードとの相性の良さを感じます。また、アナログとデジタルのハイブリット感があり、個人的には最も好みです。音に力強さがある48kHzは、クラブミュージックにオススメです。

96kHz

96kHzは周波数レンジが広く、音の密度が高い印象です。これは、レコードに収録しても96kHzの特徴は失われていないともいえますが、音の情報量が多すぎるせいか、音痩せしてしまいます。音の密度が高い96kHzは、繊細さが求められるクラシックなどには良いかもしれません。

入稿時のファイル形式については、子安氏によるこちらの記事で詳しく紹介されているので、ぜひチェックしてみてください。

いかがでしたか?レコードを作るなら音が良いに越したことはないですよね。ここで紹介した内容は、レコード製作時にきっと役立つ情報かと思いますので、ぜひ参考にしてください。

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