日本発のプラグインソフト『DeeComp』が新登場!開発エンジニアに気になる制作工程などを聞いてみた

日本発のコンプレッサープラグイン「DeeComp」がリリースされました。フェーダーだけが並んだ、シンプルなユーザインターフェイスは、現代のクリエイターのニーズが反映されていて、とても使いやすそうな印象です。このDeeCompですが、果たしてどのように作られたのでしょうか?プラグインがどうやって作られるのかなど、素朴な疑問について開発を担当したフランク重虎さんと(株)ふむふむソフトさんに聞いてみました。

物理的制限がないソフトは魔法のような機能も実現

ーーDeeCompは、どのようなプラグインなのですか?

ソフトウェアならではの特性を持ったプロ用途のコンプレッサーです。

ーーハードウェアと比べてソフトウェア・プラグインはどのような特性を持っているのでしょうか?

ハードウェアは電子回路で構成されているので、各部品の物理的な特性が関係します。たとえば、全くノイズを発生しない機材が作れないという話と、一生無くならない電池が作れないという話は同じなんです。その点ソフトウェアであるプラグインは物理的な制限がないので、魔法のような特性が計算で実現できます。同じエフェクターを何台も起動して使えるのもソフトウェアであるプラグインの利点です。ハードウェアなら必要な台数を買わなければいけませんからね。つまり理論上や計算上で可能であれば特性として実現できます。

ーーDeeCompの特徴を教えてください。

まず目につくのは大型の縦フェーダーかと思います。近年ではタッチパネルも普及しており、SONARやFL StudioのようにDAWさえ対応していればマルチタッチで快適に操作できます。小さなツマミが多いコンプレッサープラグインではそうはいきません。そしてアタック、リリースともに0msに設定できる点などもハードウェアを再現したコンプレッサーにはない機能で、とてもユニークなサウンドメイクをできます。もちろんEDMなどで多様されるサイドチェインやハイパスフィルターも装備されています。そして何よりステレオコンプレッサーの操作性ですが、実は内部ではマルチバンドで処理されているため、素早く音楽的で高度なコンプレッションを与えられます。

deecomp-1

ーーどのような用途が考えられますか?

各トラックのアタックを強調してパンチを与えたり、レベルを均一に整えたりといったコンプレッサーの用途を極めて高音質に処理できます。特にアタック、リリースともに0msに設定できるので、バスドラムなどのクリック音を取り除くことも可能です。従来はノイズゲートとコンプレッサーを組み合わせたエンジニアの高度なテクニックでしたが、DeeCompでは簡単に実現できます。また、過大入力による歪みを利用した過激な音作りも行えます。

開発者が少ない日本では情報を得るのも大変

ーーDeeCompを作ろうと思われたきっかけを教えてください。

技術進歩と共に新たな音楽ジャンルが生まれているなか、コンプレッサープラグインに関しては過去の名機を再現したビンテージ・シミュレーションが多かったのがきっかけです。ハードウェアの制限に捕われないソフトウェアの利点を活かしたプラグインをリリースすることがDOTEC-AUDIOの目的です。

ーーDeeCompは、開発のベースになっているハードやソフトはあるのでしょうか?

モデルとなった製品はありませんが、これまでサウンドエンジニアとして非常に沢山のハードウェア、プラグインに触れているので、それぞれの一長一短を元に設計されています。

ーーこれまでもプラグインなどの開発は行われていたのですか?

メインでプログラミングを担当した(株)ふむふむソフトでは、WebブラウザのプラグインなどをC++(汎用プログラミング言語の一つ)で開発することはありましたが、VSTのようなプラグインは初めてでした。しかしPCMの基本的な知識などから一度VSTの流儀が分かれば開発に大きな問題はありませんでした。オーディオ処理は私が担当したのですが、DSPの知識を持ち合わせていたことで、スムーズに進みました。

deecomp-2出典:Steinberg

ーープラグインってどのようにして作られるのですか?

VSTの場合はSDK(Software Development Kit)と開発キットが配布されているので、それを利用して開発することになります。このSDKと「開発環境」と呼ばれるプログラムを作るためのソフトウェアを利用して、最終的なVSTとなるプラグインファイルを作成するわけです。ただこのSDKも日本では本当に情報が少なく、数少ない先人の方々がWebで公開されている貴重な情報を調査、あるいは海外のフォーラムなどを覗いたりして試行錯誤しながら進めました。

「趣味」としても楽しまれるプログラミング

ーープラグインの制作において、苦労した点などはありますか?

ふむふむソフト開発担当:とにかくVST SDK等の情報の少なさです。前述のとおり、日本でVST開発をされていらっしゃる方が本当に少なく、さらにちょっと古い情報だったりもしますから、最初の形にするまでは結構大変でした。

フランク重虎:音響部分に関してはフィルターを重ねることにより発生する位相のずれの修正など実際の回路と違う考え方が必要でした。あとは道具であるため何度も使用して使い勝手の良いUIと機能を厳選したことです。

ーーたしかに海外は日本に比べて、プログラミングの文化が盛んな気がしますが、どうして海外ではプログラミングが盛んなのでしょうか?

ふむふむソフト開発担当:やはりコンピューターに関する多くの新技術は、まず最初に「英語でのドキュメントによる説明から始まる」ということが大きいと思います。そういう状況ではどうしても英語圏の方が有利になりますし、プログラマー同士での議論や交流もやはり英語ベースになりますから。

あと職業としてプログラミングを行っている人口は日本も決して少なくないとは思うのですが、「趣味」としてプログラミングを楽しんでいる人は、例えばアメリカより比率は少ない、という印象はあります。この辺りはホビーに対するスタンスの違いで、もしかしたら「楽器の演奏」などにも通じるものがあるかもしれません。


hackNY / Foter / CC BY-SA

プラグインへのニーズとその方向性

ーー現代のクリエイターは、プラグインにどのような要素を求めているのですか?

楽器もエフェクターも頭に描いたサウンドを直感的な操作で取り出せる、ということに尽きると思います。そのため最近は用途を限定して、少ないノブを回すだけで複数のエフェクターを組み合わせた効果が得られるプラグインが増えています。一方であるクオリティを超えるとそれでは大雑把すぎてイメージに近づくことがかえって難しくなります。この双方のバランスを求めてると感じます。

ーー現在、アプリやウェブのマスタリングサービスなど、誰でも手間をかけずにマスタリングできる環境が整っています。そのなかで、プラグインはどのような役割を担っていくと思いますか?

手間をかけずにマスタリングできるような環境は、手間をかけずに音を整えられるプラグインによって構築されています。たとえば過去の名機を再現したビンテージ・シミュレーションのプラグインでは過去の機材同様に熟練した手作業が必要となりますので、その全く逆の誰でも簡単に使えて、難しいテクニックやエンジニアのノウハウを自動的に行ってくれるようなプラグインが大きな役割を持ちます。

ーー今後プラグインはどのように進化していくと思いますか?

前述とも重なりますが、プラグインの進化はコンピュータ技術の進化と比例の関係にあると思います。各社により過去の名機はほぼ再現できたと思いますので、今後はプラグインのない時代にはできなかったことが進化に求められると思います。

ーー今後もプラグインはリリースされていくのですか?今後の予定などありましたら教えてください。

無料配布するプラグインをまず一つ予定してます。リリースは9月中ですね。どのような物かは楽しみにお待ちください。目から鱗だと思います。その他DeeCompと相性の良いシリーズを作りたいと思っているので、それに繋げるためにも、まずはDeeCompを成功させたいですね。

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インタビューからは、日本のプログラミングや音楽系ソフトウェア開発の現状が理解できます。趣味としてのプログラミング文化がそこまで大きくない日本では、開発のための情報を得るのが難しくて、苦労するんですね。そのような状況のなかで、現代のクリエイターのニーズに応えるDeeCompを開発されたエンジニアさんにはリスペクトです。DeeCompを使用したサウンドは、上部のSoundcloudで聴けますので、参考にどうぞ。

シンプルな操作性で、エフェクターの扱いに慣れていない人でも安心なコンプレッサープラグインDeeCompの価格は、130ドル。現在はリリース特別価格として、99ドルで販売されています。気になる方は、Dotec-Audioのウェブサイトをチェックしてみてください。

メーカーサイトで詳細をチェック

株式会社ふむふむソフト

2006年7月設立。業務委託でのアプリ開発やWebサービス開発等を中心に、企画、制作、執筆活動など多方面にわたって業務を行う。VSTプラグインのようなWindowsアプリ開発はもちろん、Androidアプリ開発なども得意とするソフトウェア開発会社。
ウェブサイト:http://www.fmfmsoft.co.jp/

フランク重虎

音楽作家、サウンドエンジニア。クラブミュージック、J-POP、CM、サントラ等の幅広い音楽作家として複数の名義で活動。DAWの登場以前より電子工学と音楽分野の知識を元に自作エフェクター、シンセ を制作する。個人としては「VALKILLY」「VALKIRIA」とサイバーパンクをコンセプトにしたグ ループのリーダーとしても活動中。