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FEATURE

日本唯一のレコードプレスメーカー東洋化成のエンジニアにレコードの疑問について聞いてみた Vol.1

テクノロジーの進化と共に音楽メディアの形態も大きく変わり、現代ではMP3などのファイルのダウンロードが主流となっていますが、このダウンロードが主流になったことで、形あるモノの価値が再認識され、欧米ではアナログレコードの売上が増大しています。

唯一無二のサウンド・クオリティとちょうどいいサイズ感で現在でも支持されるレコードが、どのような工程で製造されているのか気になるところです。

そこで、日本で唯一のアナログレコードのプレスメーカーの東洋化成にお邪魔して工場を見学し、カッティング・エンジニアの西谷俊介氏にレコードの疑問について伺ってきました。

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レコードの奥深さについて触れられる貴重なインタビューの前半戦をどうぞ!

ーーレコードができるまでの流れを教えてください。

お客様からお預かりしたマスター音源をそれぞれのレコードのフォーマットに合わせて、音量、音質、溝幅などを調整してラッカーディスクに溝を刻みます。このラッカーディスクの表面に液体の銀をコーティングして、表面にニッケルをメッキします。

ラッカー盤からニッケルのメッキの表面を剥いでマスタースタンパーが取れるんですが、これはレコードの溝とは逆の状態になっているので、もう一度このマスタースタンパーに同じようにニッケルをコーティングします。

そして、これを剥ぐと、今度はレコードの溝と同じようなニッケルのマザースタンパーが取れます。このマザースタンパーの表面に再度ニッケルをコーティングして複製したモノが最終的にレコードのプレス機に取り付ける凸版スタンパーになります。

ーーレコード盤になるまでの工程はとても多いんですね。レコード盤には、7inch、10inch、12inchと3つの種類がありますが、そもそもなぜ3つの種類が存在するのですか?

アナログ・ディスクは、10inchから始まっています。10inchは、Standard Playingの略でSP盤と呼ばれますが、レコードでは、25cm、78回転と言うのがスタンダードなんです。

それに対してもっと長時間録音をしようと言うことで生まれたのがLPなんですね。LPはLong Playingの略で、30cm、33 1/3回転でステレオ録音です。

7inchは、EP盤と呼ばれますが、これはExtended Playの略です。Extendedとは、「拡張する」と言う意味なんですが、45回転で溝の幅を拡張させた状態のものをEP盤と呼びます。

それぞれのサイズによって、収録時間に違いがあります。

ーーそれぞれに音質に違いはありますか?

レコードの特性として、外側から内側にかけて再生して行くうちに、高域周波数帯が内周部に向かって減衰して行くので、12inchの外側の方がカッティングをした時の再生力は高いんですね。

同じ条件下で33回転と45回転では、線速度と言うものが変わってくるので、同じ情報をカットするにも保存できる溝幅が変わってきます。比較的45回転の方が音量を入れ易い条件にありますね。その分45回転だと収録時間が短くなってしまいます。

ーーということは、1番音質のいいレコードは、12inchの45回転と言うことになるのですか?

そうですね。12inchの極力外側ですね。これが条件的には1番いいということになります。

ーーそもそもレコードはどのような原理で音が再生されるのですか?

これを説明するにはだいぶ長くなりますよ(笑)。レコードのカッター針と再生針、マイクとスピーカーの仕組みは同じで、レコードだったら針が、スピーカーだったらダイアフラムが振動するんですね。

この振動板に取り付けられた電極(ニクロム線)が固有状になってマグネットの側の磁界を通ることで振動を電波に変えることができます。これはマイクも同様です。ヘッドフォンでしゃべってもマイクと同じ効果を得られるのは、そう言う原理からです。

これと同じ原理で、ダイアフラムを揺らす感覚でカッターヘッドを揺らすことでカッティングができます。そして、これを再生させ針が溝を読み取ることで、振動する音を電気信号に変換してレコードが再生されます。

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ーーレコードの溝は、高音、低音で違いがでるのですか?

高域周波数帯は、かなり細かいギザギザしたノコギリのような振幅の溝になり、低域が多いものに関しては、横振幅の大きい緩やかなカーブを描いた溝が掘られます。

なので、低音域が多い曲になると左右の振幅が大きくなり、録音のスペースを失うことになるので、長時間の録音ができなくなります。

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ーーレコードの再現可能な周波数帯域は何Hzから何Hzなのですか?

これは条件と再生針と再生システムによってだいぶ変わってくるんですけど、LPの場合の最もカッティングに適した再生特性は、上は10kHzから下は70Hzぐらいです。この範囲であれば、LPのカッティング周波数帯で無理なく制作することができます。

レコードでは、デジタルで言われる20kHz以上の音を最初からカッティングすることは難しいのですが、たとえば20kHz以上を再生できる再生針なら、再生中のノイズとの倍音によって20kHz以上の音が遮断されることなく再生されます。

これがCDの場合では、20kHzでカットされてしまいます。たとえば、ほんの少し20kHzを超えるくらいの音ならば、あまり気にならないかもしれませんが、20kHzを超える音の量が多い曲に関しては、多くの音がカットされてしまうので違和感を感じてしまいます。

レコードのカットできる範囲と再生できる範囲は、使用するプレイヤーによって変化してくるので、そこがレコードのおもしろさでもありますね。

ーーレコードにすると音が良くなると言われたりもしますが、それって実際はどうなんでしょうか?

時代によって音の良さの定義は変わるので、音がいいと言うのは言いがたいんですが、デジタルの音との違いが人間の耳にとっては優しく感じると言うことはあるかもしれないですね。

ーー結局はマスター音源のクオリティが良くない限りは、レコードにしても良くなることはないと言うことなんですよね?

そうですね。マスター音源としては、全盛期はアナログテープからのカッティングだったんですね。82年以降からはCDなどのデジタルメディアが出てきて、今はデジタルメディアからアナログディスクへカットすると言う方法が、主流になりつつあります。

そもそもアナログディスクの弱点を解消するためにデジタルメディアが出てきてるので、いろいろな面でアナログメディアに比べて、デジタルの方が優れている部分って言うのがあるんですね。

それをどのようにレコードに収めるかって言う部分なので、正直クライアントさんの好みって言う部分も大きいと思いますね。

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ーー音質に関してはクライアントさんの意向に合わせると言う作業になってくるということですね。

そうですね。意向に合わせつつ希望も聞いているのですが、物理的に希望に沿えない部分がある場合は、お互いの妥協点を見いだして音を決めて行くと言う感じですね。

レコードの原材料とプレス機

ここでちょっとレコードの原材料とプレス機について紹介します。下の画像は、レコード盤の原材料の塩化ビニールです。左が12inch、右が7inchのものです。この原材料は、複数の塩化ビニールの粒を練り合わせて製造されます。

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練り上がり直後の塩化ビニールを記念に頂いたのですが、これがムチャクチャ熱い(笑)。
この塩化ビニールとレーベルを下のプレス機にセットしてプレスするとレコード盤が完成します。

こちらは7inch用のプレス機です。

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こちらが12inch用のプレス機です。

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職人のみなさま、お仕事中にご対応頂きありがとうございました!これからも渾身のプレスをお願いします!!

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Vol2では、レコードを作成する際のマスター音源の制作における注意事項など、他では聞けない貴重な内容となっておりますので、ぜひチェックを!

インタビューVol2をチェック

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