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母国で起きた革命にインスパイアされたEP。XLIIが語る作品に込めた思いとウクライナの音楽シーン

以前に、コートジボワールを中心に盛り上がりを見せるベースミュージック「クープ・デカレ」について語ってくれたアーティストのXLII(シリー)。現在は日本を拠点に活動を続ける彼は、11歳まで故郷のウクライナで過ごしています。そのウクライナで2013年11月21日から2014年2月23日まで続いた「善意の革命」を覚えている方も多いと思いますが、彼は今年の1月にこの革命に捧げる作品「Like Dew In The Sun」をリリースしています。XLIIが、この作品に込めた思いと、ウクライナの音楽シーンについて聞いてみました。

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いつか人類が一つになることを夢見て

ーー「Like Dew In The Sun」には、どのような思いが込められているのでしょうか?

ウクライナ生まれですが、小学5年生ぐらいから一人でイギリスに住んでいました。20歳の頃から東京に住んでいます。いろんなところに住んで、いろんな言葉を話して、いろんな文化を浴びて、いろんな人に出会って、気付いたことは、人間同士の違いは外見だけです。中身は一緒。

一昨年に、ウクライナの東部で戦争が発生したんですが、戦争は悲しいというより恥ずかしかったです。ウクライナ人としてじゃなくて、人間として恥ずかしかったです。お互いに似てることを無視して、違いだけに集中して戦う。

国境と言葉と見た目を利用して、壁を作ろうとする人もいますが、その壁は全部頭の中だけです。地球上の全人類はお互いの文化と特徴を大事にして、一つになって、人類として幼稚園を卒業する日がまもなく来ると信じて作ったのが「Like Dew In The Sun」です。

ーー作品は、ダークな世界観のなかに人々が奮い起つパワーのようなものを感じたのですが、その辺は意識されたのですか?

意識はしていないけど、そうかもしれませんね。かなり変わった作品なので、そのように聴こえるかもしれませんが、自分の中ではダークでもハッピーでもなく、世界の現実をイメージして作りました。短い間隔で暗さと明るさをシフトさせて、気持ちの落胆と発奮を表現しています。

革命を象徴するシーンにインスパイアされたサウンド・トラック

ーー収録曲の全ては、ウクライナ革命の何かしらのシーンに影響を受けて制作されているそうですが、それぞれのトラックは、どのようなシーンに影響を受けているのですか?

この作品を作るきっかけになったウクライナ革命のシーンのサウンド・トラックとして作った曲が多いです。実はそれぞれのシーンの動画もあります。

Shardsは、この曲を作った当時の2015年の雰囲気を表しています。ニュースやSNSを見ると、戦争の疲れを感じながらも、未来のために前を向いて頑張るというような意識が強かったので、その想いが伝わる曲を作りました。暗そうに聴こえますが、意外とポジティブな曲です。

Incursionは、混乱状態を表しています。革命が終わってから数日後にウクライナ南部のクリミア半島に所属不明の軍が現れ、クリミア半島がロシアに占領されました。同じタイミングで、ウクライナ東部のドネツク地区に同じような軍が現れました。国民もメディアも政治家も何が起こってるか理解できず、革命の勝利が恐ろしい混乱状態に変わりました。そのような混乱状態を表現するために、この曲は4/4と5/4拍子で作っています。

出典:YouTube

Barricadesは、真冬のキエフにバリケードが現れ始めた時のサウンド・トラックです。公園のベンチやタイヤなどに雪を入れた袋を重ね、それらに水をかけてバリケードが作られたのですが、その時の人々の冷静な様子を見て、感動と希望、そして恐怖を感じました。この曲では、その気持ちを表現しています。

出典:YouTube

革命の終盤に当時の大統領が、ヘルメット禁止、5人以上の集まりは禁止、3台以上の車の走行禁止、畑禁止、ソーシャルメディア禁止などの恐ろしい法律を通して、国民を迫害しました。同じタイミングで、モスクワからスナイパーがやってくるという噂が広がりました。

デモに参加した人々は、大統領の特別部隊とスナイパーに見えないようにマイダン広場の周りでタイヤを燃やし、黒い煙の壁を作りました。Apocalyptic Freedomは、その時の黒い空と炎に包まれた地獄のような光景を表したサウンド・トラックです。

出典:YouTube

Soul And Bodyは、デモが始まって最初に作った曲です。デモが始まった時にYouTubeでこの動画を発見して、凄く興味を持ちました。これまでに起きたデモと革命は雰囲気が重くて恐怖を感じましたが、ウクライナの場合はみんなの希望とポジティブさに感動し、人々の明るい未来を感じました。

出典:YouTube

ーー一時期に比べてウクライナ情勢の報道が少なくなりましたが、現在のウクライナはどのような状況なのでしょうか?

父の話によると、経済的に凄く厳しいようです。50%以上のインフレで元々生活に余裕がない人達が、さらに困窮したようですが、自分と子供の未来のために「頑張るぞ!負けないぞ!いい国を作るぞ!」という若者がたくさん増えていて、ポジティブなこともたくさんあります。

マフィアとつるんでいた警察官も排除されているし、政治家はメディアと腐敗防止局に厳しく取り締まられているし、これからのウクライナに独裁はないと思います。

ーーアートワークはウクライナのデザイナーがデザインされているんですよね?

作品のアイデアがウクライナ革命の時に生まれたので、アートワークをウクライナのデザイナーMyroslav Fareniukに頼みました。彼のデザインはストリート性が強いんですが、どこかソ連らしいミニマリズムも感じたので、今回のプロジェクトと相性がいいかなと思いました。

このシンプルなアートワークには、いろんな意味が隠れています。人類がいろんな文化や意見を持っていたとしても、結局、同じ太陽の下にいるということを表しています。人間の貪欲や不信や憎しみなどの「悪意の遺伝子」が、日に照らされた露のように蒸発して消えていく。太陽が上がり夜の闇が消えるように、私達人類が明るい朝を迎えることを表しています。

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アブストラクト色の強いウクライナの音楽シーン

ーーウクライナの音楽シーンの現状について教えてください。

経済的に厳しくなったので、機材を買ったり、海外のアーティストを呼ぶことが難しくなり、3年前と比べたら若干元気はなくなりましたが、音楽のクオリティーとメッセージ性、そして意識が高くなっているので、これからはもっと面白くなると思います。

日本ではウクライナについてあまり話題になりませんが、ヨーロッパでは音楽とアブストラクトなアートで有名な国なので、いろいろと掘り下げると面白いですよ。

Dakha Brakhaは、僕の小学生時代の友達が関わっていて、ウクライナ土着のフォーク・ミュージックを意識した、ネオ・フォーク的なバンドです。ダークで鳥肌もののアーティストです。

出典:YouTube

Okean Elziは、ウクライナで最も人気のロックバンドです。数百年前からウクライナ語が禁止されていて、最近までウクライナ国内でもウクライナ語は無学の田舎者という印象が強く、若干ダサいイメージがありました。

彼らがデビューした頃は、ウクライナ語を使用してメジャー・デビューすることは非常に難しかったのですが、彼らのおかげで15年ほど前からウクライナ語の印象が変わり、ウクライナ語のバンドやドラマが増えました。そして、都会でもウクライナ語を話すことが恥ずかしくなくなりました。

リードシンガーのヴァカルチュックは、音楽的にも社会的にも素晴らしい活動している人で、ウクライナ人全員に愛されています。「ウクライナの心と魂」とも呼ばれていて、この曲は特に印象に残ります。

出典:YouTube

Koloahは、数年前に知り合ったキエフの友達です。元々は、トラップやクラブ向けのベースミュージックを作っていましたが、最近はアブストラクトなトラックを手がけていて面白いですね。

出典:Soundcloud

The Erisedは、現代っぽくて気持ちいい音楽です。ロンドンのHospitalからリリースしています。

出典:Soundcloud

ーー世界中のリアルを見てきたと思いますが、平和と言われる日本の社会や文化については、どのように感じていますか?

日本は素晴らしいところだと思います。こういう国は他にないかもしれませんね。日本は最も長く住んでいる国ですが、最近では自分の意識に日本の影響を強く感じます。生まれながらのコアと心は持ち合わせていますが、日本の素晴らしい部分を感じ取ってから本当に人生が変わりました。どんなにつまらなくて興味がない仕事でも、きちんとこなそうとする心には、毎回感動しています。

そして、日本の助け合いの気持ちと、他の人のために尽力する姿勢も他にはないと思います。もしかすると自然災害が多いことが、理由かもしれませんね。もちろん他にも理由はたくさんあると思いますが、自然災害が多いことで、日本人には「みんなで頑張ろう!」という心が自然に備わっているのかもしれません。他の国の人たちにも、その心を感じてもらいたいですね。

日本では「日本人は平和ボケしている」という言葉をよく耳にしますが、国と社会が平和を重んじているからこそ平和なわけで、平和ボケしているわけではないと思います。これからも世界の見本として、このピュアな平和ボケのままでいてくれたら、地球上の全ての人々に平和の希望がありますね。

ーー日本での日々の生活からインスパイアされて音楽を作ることもあるのですか?

もちろんです。日本に来てから、ゆっくりと音が変わっていきました。昔はイギリスの影響から、暗くて、渋い音でしたが、最近は明るい曲も多いし、元気な音楽もいっぱい作っています。自分の人生を映し出していて、明るくて、毎日楽しい生活を送っています(笑)。

ーーアーティストとして、今後ウクライナにどのような影響を与えていきたいと考えていますか?

正直自分は「ウクライナ人」っていう気持ちはほとんどないんです。ウクライナに行く時、外人として見られることが多くて、ライブのフライヤーには、絶対「From Japan」って書かれて、デザインが日の丸にカタカナっぽいフォントです(笑)。昔は地元がないことがちょっと悩みだったりしたけど、ここ数年はローカルに感じるところがたくさんあることに気付いて、東京と地球は地元になりました。

だからウクライナに何か影響を与えていきたいっていうよりは、日本や世界で、チェルノブイリとシェフチェンコ以外のことを知ってもらえたら、ウクライナには一番ポジティブな影響になると思います。だいたいの人はウクライナのことを何も知らないので、ウクライナ人はその悪いイメージの罹災者です。現地に行くと、雰囲気は全然違います。明るくて、自由で、クリエティブな人が多いし、人間として暖かいです。

出典:YouTube

以前に紹介したコートジボワールのクープ・デカレのミックスも同じ気持ちでした。クープ・デカレに強い影響を受けて、みんなに知ってもらいたかったから。さらに日本に関してもそういう気持ちが強いです。日本には、素晴らしいアーティストやミュージシャン、数え切れない文化と料理があります。世界中の人に「侍」と「忍者」と「寿司」以外のことも知ってもらえたら、嬉しいです。

全人類が、お互いの文化や特徴を受け入れて、理解して、大事にしたら、地球は最も楽しい惑星になると思います!

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