そのサイズ感と手軽さで人気を集めるガジェット楽器「volcaシリーズ」。リズムマシンやシンセなど、多彩な製品がラインナップされたvolcaシリーズの中枢的な存在として、4チャンネルのアナログ・パフォーマンス・ミキサー「volca mix」が、リリースされました。
このvolca mixを中心としたvolcaシリーズだけのセットアップで、どんなことができるのか?そのパフォーマンスの可能性に迫るべく、Ricardo VillalobosやRichie Hawtinなど、クラブシーンを代表するDJに高い評価を受ける女性アーティストAkiko Kiyamaさんが、volcaシリーズを使ったパフォーマンスにチャレンジ。
volcaシリーズだけで、即興パフォーマンスを披露してくれたAkiko Kiyamaさんは、実際にどんな機能を使ってパフォーマンスしていたのでしょうか?ここからは、volca mixを中心としたvolcaシリーズの魅力や可能性について、本人に伺います。
Akiko Kiyamaの音楽的背景
ーーまずはAkiko Kiyamaさんについて少し教えてもらいたいと思います。普段はどのような活動をされているのですか?
音楽制作とライブがメインです。あとは最近、Kebko Musicというレーベルを始めたので、そちらの運営も行っています。
ーージャンル的には、どんな音楽になるのですか?
Akiko Kiyama名義では、テクノやミニマルにフォーカスしています。別名義の「Aalko」としても活動しているんですが、そちらはジャズやクラシックに、エクスペリメンタルな要素があったりと、ジャンルレスな音楽です。
ーー音楽はいつ頃から始められたのですか?
4歳の頃から、クラシックピアノをやっていたんですが、当時はあまり好きじゃありませんでした。中学に入ったころにロックを聴き始めて、エフェクト音にはまって、ギターを始めました。
ギターをやっていくうちに、フランジャーやコーラスなどの空間系エフェクターが好きになったんですけど、それらを多用したロックバンドって、あんまりいなかったんです。むしろエレクトロニックな音楽に、面白いと思えるものが多かったんです。当時は97年くらいで、UKがすごく熱くて、ラジオでWarpやNinja Tuneなどを聴き始めました。
ーーエレクトロニックな音楽にはまってからも、ギターはやっていたんですか?
中学くらいまでは自己流でやっていたんですけど、その後はあまりやらなくなりました。むしろベルリンに行ってから、暇な時間にやりたいなと思って、遊び程度にやっていた感じですね。
ーーどのようなアーティストに影響を受けましたか?
びっくりしたという意味では、やっぱりビョークですね。一番影響を受けたアーティストといえば、Coldcutですね。
ーーColdcutの作品から、テクノの要素を感じた部分もあるのでしょうか?
それはあんまりないですね。当時はテクノを聴いても、特に面白いとか、そんな感覚がわからなくて、二十歳になってクラブに行くようになってからですね。クラブで聴くならテクノが良いんだなというのがわかって、そこからテクノの面白みがわかるようになったという感じです。
ーーベルリンにいらっしゃったとのことですが、いつ頃からですか?
24歳からベルリンに住み始めて、そこから7年半ほど暮らしていました。日本でも2、3年活動して、手応えがなかったわけではないんですけど、どうしても90年代から活躍されているアーティストの知名度を超えられなかったりというのもあって、もう少し海外に目を向けた方が良いかなと。
ーーすぐに音楽活動をされたのですか?
最初の3ヶ月間はなんにもやることがなくて、来ちゃったけどどうしよって感じでした。当時、主流だったMyspaceからレーベルにデモを送ったり、コンタクトを取ってみたりして、そうこうしてたらブッキングが入るようになりました。そのうちに、アルバムを作ってみないかっていうレーベルが現れたのでアルバムを制作して、そこからツアーという流れでしたね。
ーーアーティスト活動とともに、レーベルも運営されているんですね。
テクノを作ろうと思って制作していたら違う形の音楽ができちゃって、そういった曲が何曲か溜まっていったんです。音楽的には好きだったんですけど、クラブではちょっとプレイできないかなという曲が多くて。売れるかもわからなかったので、自分のレーベルからリリースすれば文句も言われないかなと。
ーーテクノを制作していくなかでできた、異なる音楽を別名義でリリースされているんですね。
副産物的にできた曲をAalko名義でリリースしています。
ーー曲作りにおいて、どんなものにインスピレーションを受けますか?
インスピレーションとは違うかもしれませんが、作りたい気持ちを溜めるようにはしていますね。忙しく過ごしていると音楽を作りたくなりますし、逆に暇な時間を過ごすと、音楽をやるのも面倒くさくなることもあります。そういう時はショッピングに行ったりだとか、友達と遊んだりとか、それを一通り終えて、音楽に戻ってくるということはありますね。
ソフトでは得られないハードウェアの魅力
ーー普段はどのような機材を使って、制作やライブを行われているのですか?
Ableton Liveをメインで使っていて、録音や編集などの作業をAbleton Liveで行っています。最近は、シンセサイザーを録音して使うことも多いので、KORGの”monologue”や、Make Noiseの”Pressure Points”もお気に入りです。
ーー基本的に音源はハードウェアを使用されているのですね。
そうですね。ハードウェアのサウンドを、Ableton Liveにオーディオ録音して、それを切り貼りして使うことが多いです。オーディオを切り貼りした時に、音がズレてしまうことがあるんですが、そのズレ感をうまく使えると嬉しいなって思っています。綺麗にシンクしている音楽よりは、なんかちょっともっさりしているというか、ズレがある方が面白いかなと思ってやっています。
ーーハードウェアの役割も重要そうですね。
音楽的な完成度でいうとDAWを使った方が、安心だし安定するし、クオリティが高いのかなと思うこともあります。でも、ハードウェアのリアル感と、もうちょっと直感的にコントロールできるところが魅力ですね。
ーーvolcaシリーズのみでパフォーマンスしてみて、いかがでしたか?
良い意味での緊張感っていうんですかね。ピアノの発表会でピアノを弾くのと同じように、楽器に対する慣れというか、楽器を演奏している感覚に近いものがあって、その緊張感やスリルはソフトウェアでは得られないところかなと思います。
ーービートはvolca beatsで作られていましたが、どのようにパターンを作成したのですか?
ビートの打ち込みは、ステップモードで行いました。パフォーマンスでは、ディレイのような効果が得られる”STUTTER”をキックを抜いた時に使ったりして、パターンを変化させています。パフォーマンスでは、かなり重宝した機能です。
ーー音色の加工は、行っていないのですか?
キック、スネア、タム、ハットは、ピッチやディケイのパラメータが搭載されているので、それらを直感的にコントロールして、音色の加工をしています。
ーーvolca beatsで、お気に入りの機能はありますか?
STUTTERですかね。スネアやハット、タムなどにSTUTTERを加えて、ビートをぐちゃぐちゃにしてループを作るのも面白いと思います。エクスペリメンタル系の音楽でも使えそうですね。
ーーvolca keysはどのパートで使われていたのですか?
volca keysは、ベース+ノイズという感じですね。volca mixの各チャンネルにLO/HI CUTノブが搭載されているんですが、パフォーマンスでは、このノブと組み合わせて音作りをしています。ローをカットするとノイズっぽいサウンドで、ハイをカットするとボワっとした感じのベースが鳴るようにしています。
ーーベースの加工はvolca mix主体だったんですね。
ベースのパターンを作る時に、モーション・シーケンスで、フィルターのパラメータの動きを録音しています。ベースのノイズ感を強めたり弱めたりすることで、1ループのなかでグルーヴを作っていきました。モーション・シーケンスは、手軽にパターンを変化できるので、面白いですね。
ーーvolca kickを多用されていましたが、どのように使っていたのですか?
キックとして使ってはいますが、いわゆる四つ打ちなどのキックではなく、もう少しシンセっぽい感じですね。キックを1オクターブ上げて、音程感のあるサウンドにしています。
パフォーマンスでよく使った機能は、タッチFXですね。この機能は、シーケンスを走らせながら、キックのオクターブを上げることができるんです。通常”ドン・ドン”と同じ音程で鳴るところを、2回目の”ドン”のオクターブを上げたりできるので、メロディー的な要素を加えることができます。
アクティブ・ステップも面白いですね。パフォーマンスでは、最初16ステップでキックをループさせているんですが、途中から8ステップにしたりして、ループの長さを変えています。
実は、パフォーマンスの途中で操作を間違って、ループの長さが7ステップになったりしているんです。そこから16ステップに戻すとループのアタマがズレて”ドミソ・ドミソ”だっだのが”ミソド・ミソド”みたいな感じになるんですけど、その偶然性が面白いですね。イメージを超えたパターンを作ることもできます。
volca mixで広がるパフォーマンスの可能性
ーーvolca mixの使用感はいかがですか?
もともとフェーダー好きで、ライブの時もフェーダーがないと安心できないんです。volca mixには、チャンネルごとにボリュームフェーダーがあるので、心強いですね。エフェクトのセンド・ノブも搭載されているので、パフォーマンスでは、volca kickの音だけにmini kaoss pad 2Sのディレイを加えたりしています。
特徴的なのは、LO/HI CUTですね。右に回すとローカット、左に回すとハイカットというようにフィルターとして使えるので、とても便利ですね。
ーーLO/HI CUTと組み合わせることで、表現の幅が広がりそうですね。
かなり広がりますね。例えば、volca kickをベースとして鳴らしたい場合、ノブをローパス側に回すことで、分厚いベースを生み出すことができます。
ーー各チャンネルごとにセンド・ノブが付いているところも、柔軟性があって良さそうですね。
すべての音にエフェクトを加えると、曲が間延びしてしまう感じがあるんですが、センド・ノブが各チャンネルに備わっているおかげで、かなり実用的にエフェクトを使えると思います。
ーーmini kaoss pad 2Sでは、どんなエフェクトを使用されていたのですか?
スムース・ディレイという、ディレイを使っていました。これはよく使うディレイなんですけど、音程が変化して面白い効果が得られるので、気に入っています。パフォーマンスでは、このディレイをvolca kickに加えています。
ーーvolca mixはシンプルですけど、機能的なんですね。
ミキサーに関しては、実はわかっていないノブもあるんですけど、volca mixには自分でもわかるノブのみが備わっているので、安心して使えました。シンク機能も搭載されていて、再生ボタンを押すだけで、すべてのvolcaシリーズがシンク再生されるので、すごくわかりやすいです。
電源が供給できるのも良いですね。重いライブ機材がとにかく嫌で、乾電池すら気になってしまうんです。volca mixを使うと、全てのvolcaシリーズに電源を供給できるので、だいぶ楽になりますね。
ーースピーカーも搭載されていて、モバイル性も高そうでうね。
スピーカーがあることで、気軽にいろんな場所で制作できますね。友達と一緒に、1人一台のvolcaを使ってジャムるとかは、いかがでしょうか(笑)。
ーー最後にvolca mixの魅力を教えてください。
volca mixには、各チャンネルに、LO/HI CUTノブやセンド・ノブ、ミュートボタンなどが備わっていて、volcaシリーズを演奏する上で、表現がより豊かになると思います。あとは小さいので、気軽にお友達とセッションしたり、そういう時にはシンクや電源などこの一台で完結できるので、そこも素晴らしいですね。
Akiko Kiyamaウェブサイト:https://kebkomusic.bandcamp.com/
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korg/volca mixウェブサイト:http://www.korg.com/jp/products/dj/volca_mix/