生産終了から5年経った今でも、多くのDJやクラブで使われ続けているTechnicsのターンテーブルSL-1200シリーズ。筆者もSL-1200 MK3を20年以上使ってきましたが、トーンアームを支えるアームベースがぐらつき始め、針飛びが気になるようになってきました。ついに買い替え時がやってきたターンテーブルですが、SL-1200シリーズの中古品をチェックしてみるも状態の良いものが見当たらず。。Technicsへのこだわりはありますが、中古品はタイミングです。そこで、現行品のターンテーブルの購入も検討してみることにしました。
現行品のターンテーブルのなかで気になっていたのが、CDJで高い信頼性を誇るPioneer DJのPLX-1000です。そこで、Pioneer DJからPLX-1000を借りて、SL-1200 MK3と比較してみました。
SL-1200シリーズの凄いところ
1972年に初代のSL-1200が発売されてから2010年までに、全世界で350万台も売れたSL-1200シリーズ。その特徴は、次の通りです。
- レコードの溝を確実に捉えるトーンアームの滑らかな動き
- DJプレイに最適なトルク(ターンテーブルの回転力)
- ハードなプレイや機材に適さない環境でも壊れにくい耐久性
- 機能美を追求したシンプルなデザイン性
機材にとっては決して良くない環境のクラブでもトラブルが少ないSL-1200は、現場やDJの信頼性が高く、ターンテーブルの定番としての地位を確立してきました。
タフさの証明になるかはわかりませんが、バトルDJの世界No.1を決めるDMC World DJ Championshipの1991年の大会では、ターンテーブルでDJが回る(6:04あたりから)というパフォーマンスもありました(笑)。ちなみにSL-1200シリーズは、DMC公認のターンテーブルとして使用されていて、チャンピオンに送られるゴールドのSL-1200は、バトルDJの憧れでした。
出典:YouTube
SL-1200にそっくりなPLX-1000ならデザイン的にもハマる
借りてきたPLX-1000をSL-1200 MK3と並べてみると、筆者のDJセットにしっくりはまりました。一台だけ買い替える場合、左右のターンテーブルのデザインのバランスが気になりますが、SL-1200にそっくりなPLX-1000ならいい感じです。
早速レコードを再生。聴き比べてわかったそれぞれの特徴
それでは、SL-1200 MK3とPLX-1000を比較していきましょう。いきなりですが、最も気になる音質からチェックしてみます。今回の比較で使用する機材は、次の通りです。ちなみに、検証に使うSL-1200 MK3は、トーンアームが壊れていない正常なものを使用しています。
- ターンテーブル:Technics SL-1200 MK3
- ターンテーブル:Pioneer DJ PLX-1000
- カートリッジ:Stanton Groovemaster II Pro
- DJミキサー:Ecler Nuo 2
現代のレコードを代表して、今年Warp RecordsからリリースされたAphex Twinのアルバム「Computer Controlled Acoustic Instruments Pt2」に収録されているDiskhat ALL Prepared1mixedで聴き比べてみます。ライセンスの関係上、聴き比べた音源を聴いてもらうことはできませんが、オリジナルとは別のミックス・バージョンがAphex TwinのSoundcloudページに、アップされています。
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出典:Soundcloud
ここでは、トラックの周波数帯ごとの出力情報を表示してくれるWaves Paz Analyzerを使って、SL-1200 MK3とPLX-1000で録音したサウンドを解析してみました。
SL-1200 MK3の場合
こちらがSL-1200 MK3でAphex Twinの「Diskhat ALL Prepared1mixed」を再生させた場合の周波数帯ごとの出力情報です。
PLX-1000の場合
こちらがPLX-1000でAphex Twinの「Diskhat ALL Prepared1mixed」を再生させた場合の周波数帯ごとの出力情報です。
違いが出た周波数帯を黄色い丸で表していますが、視覚的には違いがわかりませんね。。違いがないということは、SL-1200 MK3もPLX-1000も同様の周波数レンジで再生されているといえます。
しかし、実際にそれぞれのターンテーブルで聴き比べてみると、その音質の違いがよくわかります。SL-1200 MK3は中低域に厚みがある、いわゆる太いサウンドで、PLX-1000は高域に伸びがあり、解像度の高い音質となっています。
次に、70年代のレコードで音質を比較してみます。70年代の代表として、Kool & The Gangの名曲「Jungle Jazz」でチェックしてみます。
SL-1200 MK3の場合
こちらがSL-1200 MK3でKool & The Gangの「Jungle Jazz」を再生させた場合の周波数帯ごとの出力情報です。
こちらがPLX-1000でKool & The Gangの「Jungle Jazz」を再生させた場合の周波数帯ごとの出力情報です。
PLX-1000の場合
Aphex Twinの「Diskhat ALL Prepared1mixed」に比べて、Kool & The Gangの「Jungle Jazz」の方が、視覚的な違いが分かりやすいですね。「Diskhat ALL Prepared1mixed」と同様に、SL-1200 MK3の中低域の厚みと、PLX-1000の高域の伸びを実感することができました。
この他にも、テクノ、ヒップホップ、エレクトロニカ、ドラムンベース、ダブステップ、ジャズなどのレコードを聴いてみましたが、中低域に厚みのあるSL-1200 MK3は、デジタル音源が主流になる前にリリースされた昔のレコードとの相性が良く、解像度の高いPLX-1000は、デジタル音源が主流になってからリリースされた現代のレコードとの相性が良さそうです。
音質的には、粗くてアナログ的なサウンドならSL-1200 MK3、現代的なクリアなサウンドならPLX-1000といった感じです。
DJのパフォーマンス性を左右する性能を比べてみる
DJ用のターンテーブルは、音質とともにDJのポテンシャルをフルに発揮できる楽器としての性能もとても重要です。ここからは、DJプレイに影響をあたえる性能についてチェックしてみます。
スタート/ストップ・ボタンのレスポンス
長年使用してきたので劣化はありますが、SL-1200 MK3のスタート/ストップ・ボタンを押した時の、曲の立ち上がり具合と、止まる感覚には、Technicsならではの絶妙なレスポンスがあります。ここでは、上記の聴き比べとは別のレコードを使って、スタート/ストップを試してみます。
PLX-1000の方が、曲の立ち上がりと止まるスピードが早く、レスポンスが良いですね。しかし、レスポンスが早ければ良いというわけではなく、ちょうどいい絶妙な動きが求められます。そのちょうどいい感は、DJそれぞれに好みが違うので、良し悪しはつけられませんが、どちらもDJのポテンシャルを発揮できるクオリティを誇ります。
ターンテーブルを回転させるトルクの強さ
トルクといわれるターンテーブルの回転力も、強すぎず弱すぎないSL-1200の絶妙なトルク感じがいいんです。PLX-1000のターンテーブルにレコードを乗せて、レコードをコントロールしてみましたが、SL-1200 MK3のトルクと同じような感触で、レコードも扱いやすいです。
ピッチをコントロールするピッチフェーダー
レコードのBPMを合わせるピッチフェーダーの性能も重要なポイントです。SL-1200のピッチフェーダーは、滑らかにピッチを可変できます。同様にPLX-1000のピッチフェーダーの動きも滑らかですが、ピッチ可変の解像度が高いのも特徴です。
またPLX-1000には、ピッチフェーダーの可変幅を切り替えるボタン(±8、±16、±50)も搭載されているので、幅広い音楽表現ができそうです。フェーダーの解像度と音楽表現が広がる機能性で、ピッチフェーダーはPLX-1000の方が良い感じです。
ターンテーブルの性能を表すトーンアーム
カートリッジをセットするトーンアームの性能は、DJのパフォーマンスを左右する大きなポイントです。DJの大敵、針飛びにも関係するトーンアーム。抜群の安定性を誇るSL-1200シリーズのトーンアームですが、果たしてPLX-1000のクオリティは?
PLX-1000のトーンアームの性能をチェックするために、カートリッジをShureのM44-7に変えてスクラッチしてみましたが、決して上手くはない筆者でも針飛びすることなくスクラッチすることができました。PLX-1000のトーンアームは、SL-1200 MK3と同等のクオリティを持ち合わせているといえます。
スクラッチなどのパフォーマンス性については、日本のトップDJがPLX-1000の使用感について語る動画を見る方が説得力が高いので、こちらをチェックしてください。スクラッチなどのパフォーマンス性が気になる方は、DJ Kentaroのプレイを見ると、性能の高さがわかると思います。
出典:YouTube
ここまで比べてきたDJのスキルをフルに発揮するための性能については、SL-1200 MK3もPLX-1000も同等のポテンシャルを持っているといえますが、総合的にみるとより繊細なコントロールが可能なPLX-1000の方が優れているように思います。
もしもの機材トラブル。サポートについても比べてみる
SL-1200の中古品を購入するリスクとして考えられるのは、機材トラブル時の修理サポートについてです。生産終了したSL-1200が壊れたらどうすればいいのかは、気になる点です。
今回ターンテーブルが壊れてしまったため、Panasonicの修理サポートに連絡してどこまで修理できるのかを聞いてみました。 たとえば、SL-1200のトラブルで多いのが、オーディオと電源のケーブルの断線や接触不良です。この程度のトラブルなら、Panasonicの修理サポートで直ります。
しかし、筆者のようにトーンアームが壊れたり、ターンテーブルを作動させるモーターなどの駆動部品が壊れた場合、それらのパーツがないために修理することはできないそうです。
現行品のPLX-1000は、トラブルに対応してもらえる窓口がありますが、もう一つ有利な点があります。PLX-1000は、オーディオと電源ケーブルが着脱可能なので、たとえばケーブル系のトラブルの場合、自分でケーブルを買って直すこともできます。
PLX-1000の仕様なら、グレードの高いオーディオケーブルや、電源ケーブルに変えることで、音質の向上も期待できますね。
壊れないことが一番ですが、修理や機能性を考えると、PLX-1000のサポート環境は安心です。
固定観念を捨てて、最適なターンテーブル選びを
じっくりと検証した結果、それぞれの違いが良く理解できました。音質は好みの問題なので、どちらが良いとはいえませんが、SL-1200 MK3とPLX-1000の音質特性は、異なります。アナログ的な味のあるサウンドならSL-1200 MK3、現代的なクリアなサウンドならPLX-1000という聴き方もありですね。
アナログ的なサウンドが好みな筆者は、音質的にはSL-1200 MK3が好みなのですが、ケーブルのカスタマイズやDJミキサーのEQ調整で十分に表現できる範囲なので、個人的にはあまり大きな問題ではありません。それよりもDJとして大切な、パフォーマンスをフルに発揮できる性能と、サポート対応を考えると、SL-1200 MK3からの買い替えは、PLX-1000がファーストチョイスになりそうです。
もしもターンテーブルの買い替えが必要になった場合、SL-1200シリーズへの信頼感が大きく、その他のメーカーのターンテーブルは眼中にないというDJも多いかもしれません。しかし、求める要素によっては、同等のポテンシャルを持ったPioneer DJのPLX-1000が最適なケースも多いのです。ターンテーブルの購入を検討しているDJは、固定観念にとらわれず、自身のスタイルに合わせたターンテーブル選びをオススメします。
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