CDなどのフィジカルメディアにみる売上げの減少や、音楽制作予算の削減など、音楽家を取り巻く環境が大きく変化しています。Jazztronikとして活動する野崎良太さんが中心となって集合した音楽家集団「Musilogue(ムジログ)」は、そのような状況に対応すべく、音楽家主導で多岐にわたる活動を行っています。
変化が求められる現代音楽家の新しいあり方を追求するMusilogueとは?その気になる活動内容について、主宰の野崎良太さんに伺ってみました。
音楽家による音楽カルチャープロジェクト「Musilogue」
ーーMusilogueではどのような活動を行われているのですか?
Musilogueのメンバーは、音楽家(ミュージシャン、作曲家、クリエイター)で構成されています。音楽ジャンルはバラバラで、ジャズ的なことが全くわからないクラシックのミュージシャンもいれば、打ち込みしかできないクリエイターもいます。
Musilogueに賛同してくるメンバーで、普段は一緒に演奏しない出会わないような音楽家同士を、僕が半ば強制的にくっつけて(笑)、こんなことやったら面白いんじゃないかということを作品にしています。
僕はその作品をアーティスト・シリーズと呼んでいるんですけど、去年の6月から現在まで7タイトルをリリースしていて、今年もすでに10タイトルぐらい動いています。これが現在Musilogueの中で一番動いているプロジェクトになります。
ーーわずか1年足らずですごいタイトル数ですね。
僕が10代、20代の頃は、音楽カルチャーがすごく盛り上がっていたんですね。そんな昔のような盛り上がりが少ない今がすごく退屈で。僕の場合、後で振り返った時に、面白いことをやれたなと思えることが重要なんです。
実際にMusilogueの様な活動を始めなければ生まれなかったことも沢山あるし、それを喜んでくれる人たちがいるので、頑張って何年か続けてみようと思っています。
Musilogue1作目:Ichiro Fujiya & Takeshi Kurihara 「Elephant and a barbar」
ーーライブは定期的に行われているのですか?
毎月のように色々な会場でやっています。Musilogueから、何かしらのチームが出演してライブを行うようにしています。
ーーライブでのバンド編成は決まっているのでしょうか?
作品ごとのチーム制なので、一応バンド名みたいなものがついている人達もいます。その作品だけで終わるチームかもしれませんが、その作品のライブをやるときはそのチームのメンバーで集まりますね。
ーーMusilogueでの野崎さんのポジションは、プロデューサーになるのでしょうか?
はじめは、どの作品も丸々プロデュースをやろうと考えていたのですが、あんまり自分が入りすぎると結局Jazztronikの作品になってしまうので、今はほどほどのところまでにしています。
僕の周りには沢山音楽家がいます。新たに出会う人達も沢山います。そんな人達にMusilogueの趣旨を伝え、賛同してくれる人達の音楽活動にプラスになることをアイデア出しするのが僕の一番の仕事ですかね。
必ずしもアルバムという単位での作品をリリースすることが全ての人に向いているというわけでもないので。音楽カルチャーとして新しく感じることができるプロジェクトやイベントを考えていくのも僕の役割ですね。
ーーMusilogueの活動は、とても実験的な要素が強そうですね。
Musilogueの活動は、金銭的な部分だけでなくて、音楽家としてのモチベーションにつながる部分も大切にしたいんです。そういった側面から、音楽の研究なんかもしています。
もちろん金銭的な部分での成功も大切ですが、それ以上に、面白い音楽カルチャーがなくなり音楽家のモチベーションが下がることの方が、音楽業界にとってマイナス影響が大きいと思うんです。なので、仕事から離れて音楽研究ができるMusilogueみたいなプロジェクトがあっても良いんじゃないかと思っています。
ーー音楽の研究もされているのですね。実際にどんなことを行われているのですか?
研究で最も衝撃的だったのが、和楽器ですね。日本の楽器なのに全然知らなかったので、Musilogue4作目の”Hizuru”では、どんな西洋楽器が和楽器に合うかということを追求してみました。西洋楽器と和楽器を合わせて成功している作品が少ないことからも、そもそもとっても難しいことなんですよね。
これまでの純邦楽で聴かれた和楽器を、現代の音楽においてどのように昇華させるかを、和楽器奏者と一緒にスタジオで研究しました。
ーーMusilogueは、広範囲にわたる音楽プロジェクトといった感じですね。
そうですね。音楽カルチャープロジェクトですね。最終的には、Musilogueのメンバーが音楽を教えるような、アカデミックな分野にも活動を広げていきたいと思っています。例えば、Musilogueのメンバーが先生として音楽を教えて、その教え子がMusilogueのメンバーとして音楽制作できるような環境を作りたいですね。
活動の根底にある新たな音楽プラットフォーム構想
ーーメンバーは、どのようにして集まったのですか?
僕と一緒にライブやレコーディングを行っている音楽家がほとんどです。あとは、ネット上でメンバー募集の告知をすることもあるんですが、そこでつながった音楽家もいます。
ーーネット上でメンバー募集の告知もされるんですね。
“もっと様々な音楽活動に参加したい”っていう音楽家は多いんです。例えば、まだ第一線で活躍できない音楽家でも、Musilogueのメンバーになり、ある程度のレベルまでMusilogueのシステムの中で現場的なことを学ばせて。ここまでできるようになったら、こういう音楽家と一緒にやらせてみる、みたいなサイクルを作りたいと思っています。
ーー勉強中のミュージシャンが、現場でライブすることもあるんですか?
始めて一年も経たないプロジェクトなので、そこまで多くはありませんが、 レコーディングに参加してもらうことはあります。これからは、そういった音楽家のライブ演奏の機会を、もっと増やそうと思っています。
ーー現在Musilogueのメンバーは、何人ぐらいいるんですか?
この前、Musilogueの一斉送信メールのアドレスを見てみたら、100人ぐらいいましたね(笑)。
ーーMusilogueを始めるきっかけを教えてください。
僕のような活動を行っている音楽家は、作曲やプロデュース、ドラマや映画、CMなどの音楽制作と、いろんなタイプの仕事があります。でも、基本的にはオファーを待っているだけというか、受け身なんですよね。その受け身の部分に不安を覚える音楽家も多くいます。結婚や出産などの環境の変化により、「これでいいんだろうか?」と考えてしまうのも当然です。
そのような状況で活動していくなか、音楽家が自分主導で何かを生み出しそれをビジネスにするのって可能なのかな?と考えたのがMusilogueを始めるきっかけです。それも疑問を抱きながらやる音楽ではなくて、自らが楽しみながらやれる音楽で。
当初Musilogueでやろうと思っていたのは著作権登録を行わない音楽を販売し、それを動画コンテンツなどで利用してもらうということでした。CMやウェブ用に音楽を必要としている人達が、すぐに聴けて使える、そんな環境を整えてみたいなと思ったんです。それもなるべくしっかりした音楽をMusilogueメンバーの手で作りたいなと。
例えば、ギタリストがすべての楽器を弾くことはできないじゃないですか。だったら、Musilogueに賛同してくれているベーシストやドラマーなどに協力してもらいまずは曲を完成させる。そしてそれを自分達の作品として聴いてもらう。
それがマッチすれば、今まではオファーを待っているだけだったミュージシャンの前向きな仕事になるんじゃないかなと。ただ、すでに著作権フリーをうたったサービスは沢山存在しているので、差別化を図るために、品質はもちろんカルチャー的にも面白いものにしたかったんです。
そこで、曲を作っているミュージシャンにスポットを当てて、バックボーンみたいなものを伝えたいと考えました。そうすることで、使う側にも安心感が生まれるだろうし、この音楽家の曲を買っているんだなっていう感覚も生まれるんじゃないかと。
そのようなプラットフォームを構築するためには、たくさんの作品を作ることが重要なんです。
日本人にしか表現できない音楽を世界へ
ーー作品を聴かせてもらいましたが、ここまで語っていただいた通り、ジャズを軸に多ジャンルとの融合が図られた実験的な曲が多いですね。
レーベルとしてのイメージでいうと、理想は高いですが、ECM*みたいになれれば良いなと。ECMからは、民族音楽やクラシック、そして現代音楽もリリースされていますが、そういう位置にたどり着きたいですね。
出典:ECM Records
*1969年西ドイツ(当時)ミュンヘンに、マンフレート・アイヒャーにより設立されたレコード会社。ジャズを中心に、現代音楽やワールドミュージックなどをリリース。
ーーなるほどECMですね。確かにしっくりきました。ただそれが実験から始まっているという、そのこだわりがすごいですね。
今のレコーディングって、特に打ち合わせもないままミュージシャンを集めて録音して終わり、ということがほとんどです。でもMusilogueは、皆でああじゃないこうじゃない、なんて言いながら作品作りに向けたリハーサルからやっています。
ーー作品を通して日本を強く感じたのですが、その辺は意識されていますか?
そうですね。日本人だと欧米の作品がかっこよく見えて、そっくりなものをやりたがるんですが、結局のところ欧米の人たちは日本人が真似た欧米っぽい音楽は聴かないんですよね。
例えば、スペイン人の女性ボーカルをフィーチャーした僕の曲で、スペイン語圏で大ヒットしたものがあるんですね。そのとき海外の人たちに、この曲は良いけど、なんで日本の音楽をやらないのって訊かれたんです。この曲がヒットしたのはラッキーだったけど、基本的には聴かないよっていわれたんです。彼らからすると日本人がスペインやキューバの音楽をやっても、良いとは思うけどなかなかピンとこないと。
演奏が上手な日本人はたくさんいるけれど自分たちが聴きたいのは、日本人がやってる日本人にしか作り出せない音楽だ、ということを一人だけじゃなく沢山の人にいわれました。
そもそも概念として染み付いちゃっているものがあるんですよね。日本人として異国の文化に憧れるのはすごくありますけど、逆にその異国としての日本の文化に憧れてもらえるような作品を日本人としてリリースすることも大切なんだと思っています。
例えば、アニメとかゲームとかってあからさまに日本の文化じゃないですか。だからあんなに海外の人が飛びつくわけで、あれは外国にはない文化ですからね。Musilogueがあの規模になれるとは思わないですけど。面白いのは僕らが自然に作り上げた作品に対して海外の人は自然と日本的要素を感じてくれるんですよね。これは、これまでのMusilogueのリリースを通して感じたことです。
全く和楽器を使ってない曲でも、すごく日本的な間を感じるといわれたり。そういうのってあるんだなって思いました。海外に向けて日本の面白い音楽をリリースしているレーベルといえばMusilogueだよねって、そういわれるところまではやっていきたいですね。
Musilogue 7作目:Yurai「88888888」
ーー楽曲における日本的要素については、日本人にも向けられているのかなと感じたのですが、いかがでしょうか?欧米の文化に憧れるが故に、日本の良さを見落としてしまうというのはありがちです。そんな見落としがちな部分を日本人に対しても、再認識させているのかなとも感じました。
おそらく、Musilogueがリリースしている作品の内容は、今の日本国内のレーベルでは、どこもあまりやらないことだと思うんです。実際には、できる人材はたくさんいると思いますが、既存の方法で作品を作る・売ることしか考えていないからできないだけなんです。
様々な人たちに自分のビジョンを話すことでそのビジョンが伝わる人には伝わります。そういった人たち同士で新しいことをどんどんやっていった方が良いんじゃない?っていうテーマ性はありますね。これは音楽だけじゃなくて、今の日本のクリエイティブな部分すべてにおいて思っていることですけども。
ーー今後も、Musilogueレーベルから作品のリリースを重ねられていくのですか?
もちろんです。 明日はエレキ・チェロとチェロによる作品のレコーディングが控えています。そもそも音の相性は良いのかというところから始まります(笑)。
ーー研究しながら、タイトルを重ねられていくのですね。
面白い音楽家がたくさんいますからね。形に残すのってすごく重要で、形に残さずにやってるのって、あんまりよくないと思うんです。その時の自分たちの技量や、今何ができるのかもすごくわかるから、作品は重要なんです。
最近では、今までの作品のリミックス版も製作しています。それはそれで今の音楽にとって重要なところなんで、そういうリミックスワークもしっかりやっていきますよ。
ーー最後に、今後のMusilogueの活動について教えてください。
これからも、毎月のようにアーティスト・シリーズのリリースは続けていきます。新たな試みとしては、実験的に著作権登録のない音楽を、知り合いの会社だけに、使ってもらおうかなと思っています。今月か来月あたりから1年間実験的にやってみてその動きがどうなっていくのかを見てみたいなと。
あとは、アカデミックな部分ですね。ある程度の音楽技術がある人が、もう1ランク上に行くために何をすれば良いかをテキストにまとめていて、それをアカデミックな部分で活用していきたいなと思っています。
また、JASRACの理事も務めていた元エイベックス・ミュージック・パブリッシング社長の谷口さんと、著作権に関する勉強会も開催しています。1年半前から始めた活動なんですが、毎回たくさんの音楽関係者が集まります。今後も、著作権に関する現場からの疑問の解消に役立つよう、そちらの活動にも力を入れていきたいですね。
ーー野崎さんの活動は、本当に多岐にわたっているのですね。Musilogueをはじめ、今後の活動を楽しみにしています。本日はありがとうございました。
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