前回のジューク・シーンを紹介した記事で、シカゴアーティストのマスタリング前のトラックは、思いのほかあっさりしたサウンドが多いことを紹介しました。今回から、トラックを完成させる最終工程のマスタリング前の作業「ミキシング」における「こってり・あっさり論」についてお話をしていきたいと思います。
音を詰め込み過ぎるのはいけないこと?
まず「あっさり・こってり」というのは突き詰めれば様々な「隙間」が起因して起こる現象です。
例えば、ドラムのパターンを作成して、納得いくまでミキシングをやり込んで「バッチリ!」と思ったドラムに、ボーカルやベースやギターを重ねていくと、バッチリだったはずのドラムがなぜかパッとしない、と言うことがあります。ん?となって、ドラム以外のトラックをミュート機能を使って一時的に消音してみると、やっぱりドラムはいい感じ。DAW経験者ならば大半の人が経験したことがあると思います。
この現象の原因を簡潔に説明すると、「録音/再生機材には音を詰め込める限界がある」ということが言えます。
出典:Foter
なんかチョー難しい数学みたいな話とかするのはどうかと思うので、ちょっと無理して「分かり易さ重視」でこのことを説明してみたいと思います。
例えば、ぬいぐるみを箱に詰めるとしたら、箱の大きさに応じて詰められるぬいぐるみの数は変わります。ぬいぐるみは「詰め込めばたくさん入る」ので、できる限り多く詰め込むことが目的であれば、パツパツに詰め込めば良いでしょう。しかし、ぬいぐるみを「可愛いらしい姿のままで詰めて下さい。」と言われたら、ぬいぐるみのサイズや形をパズルのように考えて並べなければなりません。ここで言うぬいぐるみが「音」です。可愛いらしい姿のままでと言うのが「作り込んだドラム」という感じで、詰め込めば詰まっちゃうのですが、原型はとどめられない、だから綺麗に並べましょうね、というお話です。
日本特有の環境が引き起こす「こってり」問題
ここまでお読みいただけると分かるかと思いますが、「あっさり・こってり」はジュークに限った話ではなく、マルチトラックで作られる音楽全般に言える話です。前回、日本のジューク・シーンを取上げましたが、この問題は特に日本人が落ち入りやすいんじゃないか?と僕は思うのです。
シカゴやデトロイトのアーティストのトラックは、帯域的に見て音の配置がとても上手です。この要因としては、 MPC などの古いマシンを使って制作することも多く、DAW 環境に比べて再生帯域の狭いサウンドが用いられたりするからです。結果、音の分離が良く、各音声が際立った仕上がりで、「あっさり」するわけですね。
出典:YouTube
音楽のトレンドを多く生み出すア
しかし、このように多様な音楽を
例えば、オーソドックスなビック
「こってり」になりがちなトラックを「あっさり」聴かせてくれる日本のアーティストの例としては、ザ・マッドカプセルマーケッツやコーネリアスが挙げられます。ザ・マッドカプセルマーケッツは、ラウドロックとテクノなどの電子音楽をミックスさせることで、海外でも高い評価を得たバンドです。
https://www.youtube.com/watch?v=OuyGNMjlZ6s
出典:YouTube
コーネリアスは様々な音楽嗜好が織り混ざっていて、音楽的にもミキシング的にもとてもハイセンス。全ての楽器のアタックや周波数が「重ならない」ようにぴったり収まっていて、それぞれの音が浮き出してくるような感じがしますね。
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出典:Soundcloud
ザ・マッドカプセルマーケッツとコーネリアスについては、ミキシングセンスはもちろん、帯域バランス的にもバッチリな音をはめていて、とてもお手本になるアーティストです。多くのクリエイターは、ここに学ぶことは結構あるんじゃなかな?と思います。
今回は、帯域全体で隙間を縫って音を配置することで、
トップ画像出典:Foter