soundropeの読者の皆さんは、マスタリングについてどういうイメージをお持ちでしょうか?難解でオーディオマニアの微調整なイメージをもつ方もいるのではないでしょうか。
制作した楽曲が世の中に出るまでには、録音・ミックスなどの工程を経ますが、世に出す前の最後の仕上げがマスタリング。本来は量産用のマスターを作成する工程で、その中で音量や音質・曲間を調整する作業も行います。1990年代から機材の進歩と共にマスタリング技術も進化し、同じ音量でどれだけラウドに鳴らせるか競う音圧戦争なんていうものも起きました。
今日紹介するのは、そんなマスタリングをクラウドベースで自動的に行うサービス(なんてニッチな…)=LANDR。ローンチは去年だったので既に名前をご存じの方もいるでしょう。LANDRはカナダのMixGenius社が開発しており、エレクトロニカ系のベテランアーティスト=Pheekや、PCDJの元祖ともいえるFinal Scratchの開発者=John Acquavivaといった音のプロが関わっています。
最近、そんなLANDRのPheekが作成したミックスダウン用ツールTone Sculptorsが、Abletonのwebサイトで無償配布されました。
Tone Sculptorsはパラメーターの名前がBoom・Air・Bigなどユニーク。シンプルな作りでもっとPunchきかせて少しBigにという具合に直感的な音作りが可能ですが、内部はリバーブやマルチバンドコンプなどを組み合わせて複雑に作り込んだ構造。だから少し負荷はあるものの、どんなソースでもそれなりに良い音にしてくれます。
今回はこのLANDRの実践編として、僕がTone Sculptorsを使用したトラックを制作してマスタリング前後を比較してみましょう。
今回制作した素材は1ループを引っ張って作ったテクノで、下のプレーヤーは2mix(各トラックをステレオにまとめただけ)の状態です。
実際はLANDRのblogにあるようにヘッドルームを-5dB位空けていますが、このサンプルでは音量を揃えるためノーマライズしています。
ちなみにLANDRのblogは大半が英語ながらも面白そうな記事が多く、見つからないようにこっそりと日本語訳されている記事もあります。
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ではLANDRにマスタリングさせてその実力をみてましょう。
LANDRにログインして、素材のファイルをアップロードします。
アップロードが終わるとプレビューが作成されます。プレビュー箇所は自動的に指定されますが、ちゃんとサビ入りやブレイク開けなどの音が大きく変化するところを選んでくれます。
このプレビューを聞きながら、音圧レベルを自分のポリシーに従って大/中/小から選びます。今回は中と大の2つをマスタリングしてみました。
音圧を選んだら後はマスタリング処理してくれるのを待ちましょう。処理が終わるとダウンロードのリンクが書かれたメールが送られてきます。
まずは、音圧戦争に対して中立的な立場の音圧:中から見てみましょう。
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元音のミッドの張りが残っていて、2mixのバランスを保ったまま音量を上げている印象です。ソースからあまり音を変えたくなければ中が無難でしょう。
次は音圧戦争に肯定的な音圧:高です。
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こちらは音圧を上げても歪まないように、全体のバランスを若干ドンシャリにして音圧を上げている印象。ソースによっては潰れすぎることもありますが、今回のソースではこれが一番合っているような感じがしました。
ちなみに音圧:小は、プレビューでほとんど変化がありませんでした。ソースによっては有効な時もあります。
LANDRのウリは、音楽を「聴き分ける」適応エンジンにより曲独自の特性にあわせて微妙な調整を行っていることと、クラウドベースなので様々な楽曲を解析することにより適応エンジンが進化していくところ。
そのエンジンの出来が良いのか、どのソースも高域・低域ともに良い感じに伸びて、安定した仕上がりになります。webサイトの作りやスタジオ機材っぽく無いところとか、マスタリング界のAbleton Liveみたいな立ち位置を感じさせます。キャラは無難・クオリティーもデモやプロモ音源には十分で、僕は自分のレーベルの音源を配布する時に重宝しています。
今時のインディーシーンでは、自分でレーベルを運営からマスタリングまで行うアーティストも珍しくありません。ところが、マスタリングとは音源に対して客観的な視点が要求されるため時として自分と向かい合う精神修行的な部分があります。そういう方々がこの苦行から解放されるためにLANDRを使うのは、今時らしい正しいラクの仕方だと思いました。