この回からsoundropeに寄稿させていただくことになりましたOTAIRECORDようすけ管理人です。
今後音楽機材屋という仕事柄も含め色々なニュースをお届けしたいと思う。
過熱しているPCオーディオ業界
昨今PCオーディオブームで、パソコンが音楽のプラットフォームの中心になっているのはご存じの事だろうと思う。
パッケージメディアとしての音楽は、アナログレコード、カセットテープ、CD、など様々な変遷をたどってきているが、昨今はそのプラットフォームはパソコンやモバイルなどデジタルデバイスに移行して久しい。
新しいメディアが登場するとそれは驚きをもって迎えられ、それが普及、成熟してくると、そのメディアの楽しみ方も深化したり差別化が行われたりする。
デジタル音楽の楽しみ方として定着しつつあるPCオーディオの世界も例外ではない。
音楽ファイルもmp3など手軽なものから、ハイレゾオーディオという高精細の音楽ファイルを扱う世界も最近話題になっている。
またそれに合わせてハードウェアも進化していて、様々な音楽系メーカーから、いろいろな製品がリリースされていて百花繚乱の状況である。
出典:Marantz
PCオーディオになくてはならないUSB DACとは?
その中の一つとしてUSB DACというものがある。
PC単体でiTunesなど音楽再生ソフトウェアから音楽ファイルを再生した場合は、パソコンの中にあるDAコンバータというものを経由してデジタルからアナログ信号に変換されスピーカーから発音する。
パソコンは音楽を聴くためだけに存在するわけもないので、最初からパソコンに搭載されているDAコンバータは高機能とは言い難いものが搭載されている。
という事は、高音質な再生が期待できないという事である。
そこで、PCオーディオファンに人気、というか定番化しているのがUSBを経由したDAコンバータである。
オーディオメーカーの老舗MARANTZがついにリリースした初のUSB DAC、HD-DAC1
USB DACが各社こぞってリリースする中で、長く日本のオーディオ界の発展に寄与してきたMARANTZがついに動いた形になったのが今回ご紹介するUSB
DAC1だ。
この製品はMARANTZの世界観をPCオーディオ上で見事に結実させた傑作といっても過言ではない。
MARANTZのオーディオに対するエッセンスが封じ込められているし、デザインもMARANTZのファンだったらグッとくるような高級感のあるデザインに仕上がっている。
実際にHD-DAC1を体験してみた
その話題のHD-DAC1を体験してみた。その模様をOTAIRECORD内の動画でレポートしてみたので是非ご覧いただきたい。
[youtube http://www.youtube.com/watch?v=videoseries?list=PLTNfnuUQArIwshoIebpov1WZjrTFdK7QE&w=560&h=315]
出典:YouTube
HD-DAC1についてMARANTZ(D&M) 高山 健一氏にインタビューさせてもらった。
その話題のHD-DAC1について㈱ディーアンドエムホールディングス マーケティンググループ高山健一氏にインタビューを試みた。
–では始めたいと思います。
よろしくお願いします
–本日は、D&Mホールディングス、マランツブランドのマーケティングを担当しております高山さんに、今話題のDAC HD-DAC1について話をお伺いしたいと思います。
高山さん、本日はお忙しい中ありがとうございます。よろしくおねがいします。
はじめまして、高山です。よろしくお願いいたします。どんな質問でもウェルカムです。
–ありがとうございます。ではまず最初に、このHD-DAC1の開発に至った経緯を教えていただきたいです。リクエストが多かったとか?
マランツは10年ほど前から高級CDプレーヤーなどに搭載しているヘッドホンアンプのクオリティにこだわってきていまして、お客様から「せっかくだから専用のヘッドホンアンプをだしてほしい」とうい要望はもうずっと寄せられていたんです。
また同時に、USB-DACの高級機もすでに手掛けていて、その2つのノウハウをベースにすれば、「すごい製品ができるのではないか!」と企画したものがこのHD-DAC1です。ですから、製品カテゴリー名は、USB-DAC/ヘッドホンアンプとなっているんです。
–なるほど、今までのmarantzの培ってきたオーディオのノウハウが結集されている感じですね。実際に私も、手にして試聴させていただきました。(上記動画を参照してください。)
–試聴した結果なのですが、まずは、marantzブランドの系譜をしっかり継承しているあのフェイスがかっこいいです。
そして音の方はもちろん素晴らしい。
しかもその音というのがしっかりmarantzサウンドになっているんです。これで参考定価¥108,000はかなり安いという印象です。
この音質を実現するにあたってこだわった点を教えてください。
ありがとうございます!こだわりは書き切れないほどあるんですが(笑)、代表的な特徴を2つだけ紹介させてもらいます。
–はい、是非聞きたいです
高級オーディオとして考えると、実は「PCはノイズのかたまり」なんです。
つまりPCノイズ対策が、ひとつめのアプローチです。
高品位なオーディオ機器はとてもセンシティブで、いい製品であればあるほど、高周波ノイズの悪影響は音にあらわれます。
ところが、ディスクをいれるCDと違い、USB-DACは、オーディオ機器のようなノイズ対策を施していないPCと接続しなければなりません。
これが大きな問題で、ケーブルを介して大量の高周波ノイズが入ってくるんです。
とても許せないレベルのです!このノイズを除去することが非常に重要で、マランツは、デジタル・アイソレーション・システムという独自のノイズカットテクノロジーを開発することで、ノイズのないクリアな音質を実現しています。
出典:Marantz
もしかしたら、ミニコンポクラスのアナログ回路では高周波ノイズの影響は分からないかもしれません。
逆に言えば、HD-DAC1のアナログ回路は高周波ノイズの影響が明確にわかるほどの透明感や広大な空間表現、そして繊細な余韻を表現することができるとも言えます。
— 高音質なシステムを採用しているからPCのノイズも余計目立っちゃう。だからデジタル・アイソレーションシステムの出番、ということですね。
2つ目は、ヘッドホンアンプです。
出典:Marantz
以前からCDプレーヤーなどでヘッドホンアンプを開発してきたことはすでにお伝えしましたが、HD-DAC1のヘッドホンアンプはわれわれにとって特別です。
というのも、これまで培ってきたノウハウを活かしながら、ホームグラウンドの高級Hi-Fiでも実現できなかった「理想のアンプ」にチャレンジしたんです。
少し技術的な話になりますが、近年マランツが理想としてきたパワーアンプのカタチは、一般的にはひとつの回路で兼用している、「繊細さが求められる電圧増幅」と「パワーが求められるスピーカードライブ(パワーバッファー)」を完全分業したいということでした。
しかもバッファーは無帰還構成で。ところがこれは言うのは簡単で、非常に大きな駆動力を求められるスピーカー相手では、これまでなかなか実現することがかないませんでした。
2006年に発売したペア140万円のパワーアンプ MA-9S2でも実現できなかったんです。ただいずれ発売したい次なるフラッグシップモデルのために基礎開発は続けていました。
そんなとき、このHD-DAC1の開発が決まり、それを知った技術者がスピーカードライブでは実現不可能でも、段違いに駆動力を必要としないヘッドホンであれば、この理想が実現できるのでは!と思いついたのが始まりでした。
そして、ヘッドホンという、これまでとは違うカテゴリーの特性をうまく活用することで、マランツがずっとつくりたかった理想のアンプを実現することができたんです。もちろん口でいうのは簡単で、開発途中の現場は大変な苦労を重ねていました。
–フルディスクリート無帰還型出力バッファーを搭載とあったのですが、こちらはどのようなものなんでしょうか?
はい、少々難しい話ですので、誤解をおそれずに噛み砕いて説明させてもらいます。
まずバッファーとはスピーカーを駆動するという大きなパワーを必要とする仕事だけでなく、防波堤の役割もします。
というのも、スピーカーやヘッドホンを駆動するためにアンプから電流を流すと、逆にスピーカーやヘッドホンが発電して、音に対して不要な電気(逆帰電力)をアンプに送り返してきます。
その逆起電力をアンプ内部に取り込まないための防波堤がバッファーなのですが、通常このバッファー回路は電流帰還型という回路の方式をつかうことが一般的です。
電流帰還というのは、たとえて言えば女性のお化粧のようなもので、一度流した電流をひっくりかえしてチェック(帰還)することで、間違った動きを先回りで補正し、きれいな信号を送り出すという便利な方式です。
無帰還とはその名のとおりチェック(帰還)を行わず、そのまま送り出すという方式です。
どちらがいいということは常に議論になっているのですが(何十年も!)、無帰還型はダイレクトに信号を送るためスピード感があり、音がイキイキとする傾向があります。
ただそのかわりに、回路を非常に上手に組み上げないと悪いところも同時にでてしまうため、両立させることは大変なのです。
そして、フルディスクリートとは、オペアンプと呼ばれる便利なワンチップICを使用せず、手間はかかるのですが、個別の選別パーツをつかって、回路をつくることで、独自のこだわりが実現できるというものです。
つまり、「フルディスクリート無帰還型出力バッファー」というのは、わたしたちにとってとてもやりがいはあるが、ほとほと苦労させられた、HD-DAC1の看板回路なのです。
–「フルディスクリート無帰還型出力バッファー」は想像を絶する苦労の上に開発されたシステムなのですね!
はい、わたしは応援していただけですが(笑)このアンプの苦労話なら飽きるほどきかされました。
— HD-DAC1は、どのようなユーザーさんに使ってもらいたいとかってありますか?
どんな方でも結構です。
HD-DAC1は、これがマランツの音だ!と自信をもってお伝えできますので、マランツを知らない方でも、よくご存知の方でも、ぜひ手に取って試していただきたいと思っています。
— そうですね、実際に音を聞かせてもらったのですが、原音に忠実でジャンルを選ばない気がしました。
marantzとしては、今後DACやヘッドフォンアンプにどんどん力を入れていくという方向性ですか?それとも元来のオーディオ製品を変わらず軸に進めていく感じなのでしょうか?
今回、HD-DAC1を製品化してつくづく感じましたが、ヘッドホンやDAC好きのお客様も、Hi-Fiマニアの方々に負けず劣らず、オーディオ好きな方々ばかりですね。
もちろん従来のHi-Fi製品も手を抜かずに取り組んでいきますが、また新しいアプローチができるヘッドホン、DAC業界も私たちにとっては大変、面白く魅力的です。
どちらもどんどん提案していくことになるでしょう!
–実際にHD-DAC1が発売されて、marantzの今までのユーザー層とはまた違う層の新しいユーザーさんのフィードバックがあったりすると思いますが、HD-DAC1が市場に出た後のフィードバックというのはいかがな感じなのでしょうか?
いつもそうですが、発表直前というのは本当にドキドキするものなんです。
どういう反応をいただくかわからないからですが、とくにHD-DAC1は新ジャンルでしたし、技術サイドの苦労も知っていましたので、寝れないくらいでした。
蓋を開けてみればマランツがようやく出してくれた!という歓迎メッセージをたくさんいただきましたので、挑戦してよかったと胸をなで下ろしました。
あとデザインに関して悪くいわれたことは、これまで殆んどありません。これは私の経験上驚くべきことです。
–そうですね、ほんと遂にって感じで注目度が半端ないですよね!忙しい中インタビューに応じていただきありがとうございました。最後に、改めてHD-DAC1に興味を持っている方にメッセージをお願いします。
マランツ渾身の製品です!とくにこの「フルディスクリート無帰還型出力バッファー」は、HD-DAC1で実現したからといって、すぐにHi-Fiに転用できる技術ではありません。
なぜならやはり、大電流を必要とするスピーカー駆動では難しい技術だからです。
このマランツが考える理想のアンプ回路を体験していただけるのは、Hi-Fiの次なるフラッグシップか、ヘッドホンアンプカテゴリーだけではないでしょうか。
音を聴いていただければ、きっと、これまでにない感動がみつけられるはずです。
— 高山さん忙しい中ありがとうございました。
本日は、ありがとうございました。
MARANTZ(D&M) 高山 健一
1976年生まれ
2001年 日本マランツ株式会社 入社
2002年 マランツ 国内営業部 東京営業所 配属
2002年 株式会社ディーアンドエムホールディングスに統合(デノン、マランツが合併)
2008年 マランツ 国内営業部 広島営業所 所長
2010年 D&M(デノン&マランツ)国内営業部 中四国営業所 所長
2011年 国内営業本部 マーケティンググループ マランツブランド マネージャー
2014年 プロダクトプランニング(商品企画)を兼任
トップ画像出典:Marantz