自作楽器やカセットテープ・スクラッチ。ユニークな楽器を使ったパフォーマンスが話題のバンド『Mammoth』インタビュー

2016年12月10日に、当メディアのライターとしてもお馴染みのKoyas氏主催のレーベルpsymaticsから1stアルバム「東京都」をリリースしたノイズ・エレクトロニカバンドMammoth。

華道の師範アレキサンダー・ジュリアン、フォトグラファーのどぶ水ススル、Webデザイナーの岡崎ぜったろうの、異なるフィールドで活躍する3人のクリエイターから成るMammothは、意図的に破壊した楽器や玩具、改造したラジカセや自作の電子楽器にフィールドレコーディングした環境音など様々な音を掻き集め、DAWでリアルタイムに紡ぎ合わせる即興アクトで話題を集めています。

ここでは、特異な機材を使ってパフォーマンスを行うMammothのメンバーに、psymatics主催のKoyas氏を交えて、そのカオス的に並ぶ機材をどのように扱って音楽を生み出しているのかを聞いてみました。

ーーMammothのメンバーは、それぞれ異なるフィールドで活躍されていますが、皆さんはどのような経緯でバンドを組まれたのですか?

どぶ水ススル:元々福岡時代からの旧友で、それぞれが東京でデザイナーやったりカメラマンやったり華道の師範やったりと、バラバラに活動していたのですが、一昨年に集まってアートプロダクションを作ったのが始まりです。プロダクションの制作やアートワークとしてWeb制作や広告デザイン、空間装飾などを行う延長で自然と「音楽」というジャンルにも食指を伸ばしていきました。

ーーMammothの作品やパフォーマンスを見ていると、ビジュアル的なアプローチも強いように感じます。Mammothにとって、ビジュアル的な表現はどのような意味を持つのでしょうか?

どぶ水ススル:やはり元々本職はビジュアル(見た目)をクリエイトする側だったので、仕事ではできない見た目の奇抜さを目指すこと、音楽的には「どの機械からどの音が出ているか」を客観的に悟られない様にすることをテーマにしています。

おかげで自分たちもよくライブ中にどこから音が出ているか分からなくなったり、改造ガスマスクで顔面が感電したり、付け髭が邪魔で呼吸困難になったりするんですが、メンバー全員が慌てた時に初めてグルーヴが生まれている気がします(笑)。

あと、自分たちのルーツにHIP HOP / B-BOYINGが少なからずあるので、特にRammellzeeからの影響で見た目の雑多さや派手さポップさを演出している気もします。

ーーかなり特殊な楽器?を使用されていますが、なぜそのような楽器を使用しているのですか?

どぶ水ススル:この手のバンドにありがちな回答ですが、単純にギターやピアノみたいなメジャーな楽器を演奏する技術がないからです。「ターンテーブルのスクラッチでは世界一になれないけど、ラジカセでカセットテープをスクラッチすれば、すぐ世界一になれるじゃん!」みたいな。一休さん的な動機です。

ーーそれでは、パフォーマンスで使用している特殊な機材についてお話を伺いたいと思います。アレキサンダーさんは、どのようなパートを担当しているのですか?。

アレキサンダー・ジュリアン:自分ではテープジョッキーといってるんですが、ラジカセをコントロールして、ウワモノを演奏しています。

ーーラジカセを使ってスクラッチのようなサウンドを作り出していますが、どのように操作しているのですか?

アレキサンダー・ジュリアン:カセットテープのプレーヤーには、テープを回転させる2つの軸があります。その一方の左側が回転軸になるのですが、テープを再生させながら左側の軸を直接手で回してスクラッチのようなサウンドを生み出しています。レコードを使ったスクラッチと同じことをしています。

あとはラジカセを一時停止させるとテープが完全にニュートラルな状態になるんですが、このニュートラルな状態で左右の軸を手動で回して、スクラッチしたりもします。ラジカセを使ったスクラッチには幾つかのパターンがあるんですが、まだまだラジカセならではの特徴を活かしたスクラッチを生み出す余地はあるのかなと思っています。

ーースクラッチに使うネタ(音源)は、どのようなものを使っているんですか?

アレキサンダー・ジュリアン:フィールドレコーディングしたものや、ぜったろうが作ったサウンドなどを使っています。テープに貼っているラベルはギミックで、適当に”熱闘甲子園”とか書いて、お客さんに興味を持たれるようにしています(笑)。DJもお客さんにレコードのラベルをチェックされるじゃないですか。なのでその辺を意識していますね(笑)。

ーーテープから音を出す時は、プレビューしていないのですか?

アレキサンダー・ジュリアン:一応なんとなくの頭は用意しています。レコードにステッカーを貼ってマーキングするように、テープに印を付けたりすることもありますね。

ーー市販されているテープもセットされていますが、テープを掘ったり(探したり)もするんですか?

アレキサンダー・ジュリアン:ここにセットされているのは、亡き母がよく歌っていた”博多子守唄”のテープですね。このテープをスクラッチして、亡き母とコミュニケーションを取れれば良いなと思って、使っています。

ーー今使用されているラジカセがベストなんですか?

アレキサンダー・ジュリアン:この2台のAIWAのラジカセがマストな機材ですね。すごくタフで、スクラッチしまくっても壊れないんです。一度だけ壊れたことがあって電気屋さんに持って行ったんですが、使い方を説明したら、そりゃ壊れるよっていわれてしまいました(笑)。

ーーテープを使ったスクラッチは、何かにインスパイアされて始めたのですか?

アレキサンダー・ジュリアン:昔からテープというメディアが好きだったので、磁気テープをフィジカルに擦るというのが、ターンテーブルに近いのかなと思って始めました。テープはCDと違って見えるメディアという感じがするんですよね。

ーー海外では、テープを使ったスクラッチのカルチャーってあるんですか?

アレキサンダー・ジュリアン:スタイルは違いますけど、フランスに機械から自分で作って、カスタムしたカセットテープを、おかしな使い方している「TAPETRONIC」という変態はいますね(笑)。

ーーカセットテープってどこで買っているんですか?

アレキサンダー・ジュリアン:基本的にはヤフオクで買っています。国内のカセットテープの売上げは地味に伸びているみたいで、元々おじいちゃんおばあちゃんのカラオケ需要により一定の売上げがあるようなのですが、そこに最近のカセットブームが相まってといった感じです。

カセットブームの影響から、最近ではMaxellも復刻版を出したりしています。でもメタルテープは作れないみたいで、めちゃくちゃ値段が上がっていますね。

ーーその他にMammothのライブで外せないという機材はありますか?

どぶ水ススル:電磁波を拾うコイルのマイクがあるんですが、これをスピーカーに近づけてハウリングさせて、その音をファズを通して鳴らしています。

このマイクはどんな電磁波でも拾うので、例えば携帯からも拾えますし、特にカメラの電磁波から生まれる音が良いですね。カメラをズームさせた時や、フラッシュを焚いた時の電磁波から生まれる音は、すごく良いですね。

ライブ中にカメラで撮影しながら音を出しつつ、写真作品としても使用しています(笑)。

ーー基本的には、いろんな機器を試して良いものは取り入れていくという感じなんですか?

どぶ水ススル:そうですね。あとはマイクを直接ポータブルレコーダーに入力して、電磁波のフィールドレコーディングをしたりもしますね。電車に乗ると、身の回りが電磁波で溢れていることがよくわかりますよ(笑)。

このマイクは、元々電話の音を拾うように使われていたみたいです。

岡崎ぜったろう:昔TVでやってた、加トちゃんケンちゃんごきげんテレビの探偵もののコントがあったじゃないですか。そのコントの冒頭のボスから電話がかかってくるシーンで、使われていたマイクと同じですね(笑)。

どぶ水ススル:このマイクは、子供の実験コーナーみたいなところで売られていて、いろんなものにくっつけられるし、これが一番良いですね。

ーーどぶ水さんは、その他にどんなものを使ってライブしているのですか?

他には発信機系の機材とか、ライブ中に困ったら絶叫していますね(笑)。あとは、サーキットベンディングというか、発音するおもちゃにアウトプット端子を付けたものを使っています。おもちゃの音をコンパクトエフェクターに入力して、グリッチさせたりして加工しています。

岡崎ぜったろう:改造系でいえば、CASIOのコンパクトなキーボードがあるんですが、このシリーズってサーキットベンディングのポイントがわかりやすいんですよね。どのキーボードを買っても同じルールで改造できるんです。キーボードにノブとかを付けてコントロールすることもできるんですけど、内部回路の配線をリアルタイムに変えてバグらせていくみたいな使い方をよくやりますね。

でも、触りどころが悪いと壊れてしまうということもあります(笑)。なので決死の覚悟で、いじってます。あとは、ギターのピックアップマイクをオルゴールに付けて、音を鳴らしたりとか。

どぶ水ススル:僕も単純にバネにピックアップマイクを付けて使っています。以前に、ピックアップマイクを直接口に付けてライブしたことがあったんですけど、静電気がすごくて大変でした(笑)。

岡崎ぜったろう:ライブ中にメンバーから、ボリュームの調整を依頼されたりするんですけど、その時はどぶ水に肩を叩かれて、ビリビリするっていわれて(笑)。さすがに僕は静電気まで制御できないから、我慢してもらいました(笑)。

どぶ水ススル:後でわかったんですけど、髪を下ろしているとビリビリ来るんですよ。髪を上げているとビリビリ来ない(笑)。

ーー他に面白機材はありますか?

岡崎ぜったろう:じゃあ、ファミコン行ってみましょうか。ファミコンを音源として使うために肝なのが、カセットなんですね。このカセットには、ファミコンに搭載されている音源をMIDIでコントロールできるカートリッジが搭載されています。

オリジナルのファミコンにはRF端子が搭載されているんですが、ファミコンから直接音を出すためにRF端子をAV端子に改造しています。

Koyas:ファミコンにはPSG音源が内蔵されていて、ファミコンの音は3和音までで作られているんですよ。それらの音を合成して、それっぽい音が作られているんです。

岡崎ぜったろう:ファミコンは、オーディオインターフェイス経由でAbleton Liveと連携させていて、一般的な外部音源をコントロールするのと同じように、LiveのMIDIトラックでファミコンを演奏しています。

4つのMIDIチャンネルを切り替えて異なる音を鳴らしているんですが、僕が多用しているのは4チャンネル目のノイズっぽい音ですね。このノイズ音にLiveのエフェクターを加えて、発音させています。

ーー考え方としては、シンセサイザーのオシレーターのようなものですよね?

岡崎ぜったろう:そうですね。そのサウンドにLiveでフィルターを加えたりして、音を作成しています。

ーーここまで紹介してもらった個性的な楽器を含め、使用する楽器の全ての音は、どのようにまとめられているのですか?

岡崎ぜったろう:オーディオインターフェイスを経由して、最終的にAbleton Liveにまとめています。Liveに入力された音のボリュームを調整したり、エフェクトを加えたりして、出力しています。

ーーこれだけの機材が並ぶと、パフォーマンスするのがとても楽しそうだなと思いますが、制作やパフォーマンスをしていて、最もテンションが上がる時や、面白いと感じる部分を教えてください。

どぶ水ススル:テンションが上がる瞬間は、制作やライブでの高揚感もそうですが、わりと音から離れた場所にエクスタシーを感じることが多くて。基本的にMammothはアウトプットする音や演出に意図をもたせないように心掛けているのですが、観た人や聴いた人が勝手に解釈して展開していって、次の仕事に繋がっていくような状況を、メンバー同士俯瞰で見て不思議な気持ちになるのを楽しんでいます。

psymaticsさんからリリースのお声をかけていただいたり、和田ラヂヲ先生がジャケット絵を描いてくれたり・・・
「マンモスがひとり歩きしている!」っていって。今回リリースしたアルバムも「第三者の解釈」を集めたイメージ、「マンモスのひとり歩き」の集大成だと思っています。

今年のAbleton Meetup Tokyoアニバーサリーイベントで行われたライブでは、ノイズ色が強いパフォーマンスで、会場のオーディエンスを釘付けにしていたMammoth。そのイメージのまま1stアルバム「東京都」を聴いてみると、意外にもアンビエント色の強いトラックが多数含まれており、良い意味での裏切りを覚えました。

ノイズとエレクトロニカを軸に展開されるMammothの1stアルバムは、リスニングにもオススメ。ぜひチェックを!

Mammoth “東京都”特設サイト

Mammothオフィシャルサイト