レコードへの関心が高まる中、秘かに盛り上がりをみせているメディアがあります。それはカセットテープです。カセットテープは一般の人々が手頃にレコーディングできるメディアとして、CDでのライティングが主流になるまで活用されてきました。
このカセットテープの歴史と現状について、40年間レコーディングエンジニアとして活躍し、現在はShellacのメンバーでもあるSteve Albiniが行った講演が、海外メディアの「THE 405」で掲載されていたので、以下に紹介します。
カセットテープから生まれたサブカルチャー
1970年から1990年頃までは、「録音産業」と「音楽産業」という言葉は同義語でした。そして、音楽をリスナーに届ける手段としてレコードとラジオが最も重要なメディアとして存在していました。80年代から90年代には、これらのメディアにMTVとビデオが加わりました。当時の全てのバンドは、このようなメディアにレコーディングされることを望んでいました。しかし、音楽業界が一大産業として存在していたにも関わらず、ほとんどのアーティストはデモ音源だけでなく、レコードをリリースするという経験すらできませんでした。
しかし、カセットテープの登場がそのような状況を全て変えました。70年代の半ばに、TascamとFostexがカセットテープ用の4トラックレコーダーを市場に投入し始めたことで、全てのアーティストが自分達のレコーディングスタジオを持つことができるようになりました。アートワークも施せるようになったカセットテープはアーティストにとってレコードそのものでした。70年代のパンクバンドは、音源のレコーディングから販売までを全て自分達で行っていました。カセットテープレコーディングとその流通により、カセットテープのサブカルチャーが確立されたのです。
出典:Foter
同じようにカセットテープが重要な役割を果たしたジャンルがヒップホップです。ヒップホップは、カセットテープのマルチトラックレコーダーが発売されるまで、ブロンクスやプロジェクトパークのDJ達によるアンダーグランドなライブパフォーマンスに過ぎませんでした。しかし、携帯用のカセットテープレコーダーの登場により、彼らのライブ音源が人々の手から手へと渡っていくようになりました。ヒップホップのレジェンド的なアーティストのGrandmaster Flash、Grand Wizard、Theodore 、Fearless Fourなどは、レコーディングと流通に全く費用をかけずに有名になりました。
アンダーグラウンドのエッセンスを共有するためのツールへ
時代を早送りして現代を見てみると全ての状況が変わりました。今やデジタル音源が主流で、レコードやカセットテープは時代遅れのメディアです。YouTubeにアクセスすれば、どんな音楽でもあります。ミュージシャンも、BandcampやSoundcloudを利用することで、自身の音楽を直接リスナーへ届けることができます。
Sean BohrmanとLee Rickardによって2007年に設立されたカリフォルニアのBurger Recordsは、何百もあるカセットテープレーベルのひとつです。しかし、様々なジャンルのアーティストの音源をリリースしているこのレーベルは、商業的な側面をあまり持ち合わせていません。Sean Bohrmanは、カセットテープの魅力について「CDに比べて50%も価格が安く、車の中で何度も聴けて、ポケットにすんなり収まります。」と語ります。Burger Recordsは、カセットテープを店頭で$5、オンラインで$6で販売しています。
全ての音楽がこのように手頃な価格だったなら、リスナーが、ミュージシャンを窮地に追い込んでいるデジタル音源を選択することもなかったかもしれません。彼らはまた、デジタル音源に対して、否定的な意見を持っています。「アーティストはリスナーに1曲目から最後までの全ての曲を聴いてもらいたいと考えます。しかし、デジタル音源を聞くリスナーは独自のプレイリストを作り、最初の10秒が気に入らなければ次の曲にスキップしてしまいます。」カセットやレコードはデジタルメディアに比べて、曲をスキップするのに手間がかかるため、1曲目から最後の曲までを通して聴いてもらうには最適なメディアなのです。
Burger Recordsの他にも、OSR Tapes、Spooky Town、Hooker Vision、Night People、Gnar Tapesなどの多くのカセットテープレーベルがあります。彼らに共通するのは、アンダーグラウンドのエッセンスをしっかりとくみ取り、人々に共有したいという点です。彼らの狙いは、資本主義的な利益の追求への反抗でもあります。
レコードストア・デイとカセットストア・デイの出現で、このことがよく理解できるでしょう。カセットストア・デイは、リスナーにカセットの文化はまだ生きていると訴えかけ、多くの著名なアーティストが再びカセットテープに興味を持ち始めているとも言います。Flaming Lips、Animal Collective、Haimなどの、カセット限定で音源をリリースするレーベルも現れました。メインストリームから少し外れたところにいるアーティスト達は、こういったハンドメイド的なアプローチを始めています。カセットストア・デイが目指しているのは、メジャーレーベルのようになることではなく、カセットテープというフォーマットを愛する人々が常に居てくれることなのです。
今年はカセットテープの製造量が増えるかもしれません。あるフォーマットは、それが与えてくれることへの欲求が高まり、それが初期段階で若者の興味を引き付けた時に大きく成長します。カセットテープは幸いにも、それらの状況を必要としていません。カセットテープだけが持つ特性により現在まで残ってきた訳で、それを必要とする人たちが利用してきたのです。現在のカセットテープレーベルは、とても良好なバランスを保っているように思えます。それは、カセットテープのリバイバルの明確な証拠として十分だと考えます。
カッセトテープには、現代のようなクリアなサウンドを求めることはできませんが、その真逆をいくカセットテープへの需要が高まっているのは、レコードやアナログ機材への注目が高まっている理由と全く同じです。人間の欲求とはおもしろいものですね。時代は繰り返す事を考えると、そう遠くない未来に現代のデジタルファイルがリバイバルする時代が訪れるかもしれませんね。
トップ画像出典:Foter
参照:THE 405