16個のパッドの可能性は無限大。パフォーマンスバトル『ACHIEVEMENT』の出演者が語るフィンガードラムの魅力

ヒップホップを起源とするラップ、DJ、ダンスのバトルは存在しますが、トラックメイカーのバトルは、世界的に見てもほぼ皆無。しかし、昨年の9月に名古屋で開催された「Beat Grand Prix」により、トラックメイカーの新たな表現の場が誕生。そして、このカルチャーを後押しするようにパフォーマンスバトル「ACHIEVEMENT」が、2015年12月20日に大阪のクラブTRIANGLEで開催されました。

ACHIEVEMENTとは?

ヒップホップは、ソウルやファンクなどの音楽をサンプリングしてトラックが作られてきました。サンプリングから音楽を作り出すヒップホップなどのトラックメーカーに愛用されてきたのが、AKAIのMPCシリーズです。サンプルを楽器のように演奏できるドラムパッドは、パフォーマンスにも活用され、フィンガードラムという新たなカルチャーを生み出しました。

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出典:Foter

このドラムパッドを駆使したパフォーマンスバトルが「ACHIEVEMENT」です。「ACHIEVEMENT」は、ドラムパッド搭載型サンプラーの「AKAI/MPC」か「NATIVE INSTRUMENTS/MASCHINE」を使用して5分間のパフォーマンスを行い、その楽曲性、パフォーマンス性、エンターテインメント性を競い、勝者を決します。

異なるスタイルがぶつかり合う異種格闘技戦

決勝には、予選を勝ち抜いた12名のトラックメーカーが出場。コアな男子だけの世界と思いきや、パッドを叩きまくるフィンガードラム女子や、この日が初パフォーマンスという小学6年生の男の子など、出場者の顔ぶれも様々です。

これが定番というスタイルが確立されていないパフォーマンスバトルでは、フィンガードラムだけでパフォーマンスを行う正統派から、誰もが知っている有名なトラックやおもしろフレーズを使ったエンターテインメント性重視のスタイルまで、それぞれがオリジナルのスタイルを持っていて、異種格闘技戦ともいえる振り幅の広さが、見ていてとても新鮮でした。

出典:YouTube

そして、初代「ACHIEVEMENT」のチャンピオンに輝いたのは、MPCの講師も行っているというKO-ney。フィンガードラムの安定感はもちろんですが、パフォーマンスの構成力が大きく評価されていました。

フィンガードラムの魅力とは?

16個のパッドだけで多彩な音楽を表現してしまうフィンガードラムは、トラックメーカーの限界にチャレンジする素晴らしいカルチャーです。このエンターテインメント性の高いフィンガードラムと、そのパフォーマンスを支える音素材=サンプリングの魅力について、「ACHIEVEMENT」で印象に残ったトラックメーカーに聞いてみました。

ACHIEVEMENT初代チャンピオン「KO-ney」

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KO-ney:やっぱり、音楽知識がなくても曲を作れちゃうところですね。計算ではない偶然的な事故で凄くかっこいい曲ができちゃうのが魅力です。パッドはドラムだけでなく、指先ひとつでいろんな楽器を奏でられるところが醍醐味なので、これから始める人もドラムだけではなく、いろんな楽器を演奏して楽しんでもらいたいですね。

わずか1年で超絶スキルを身につけた「SHOGUN BEATZ」

本格的にフィンガードラムを始めて、わずか1年で3位に輝いたSHOGUN BEATZ。優勝は逃したものの出場者から最も評価が高かったのがSHOGUN BEATZで、フィンガードラムシーンを代表するアーティストAraabMuzik直系の高速フィンガードラムのスキルは一番でした。

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ーー サンプリングのおもしろいところって何ですか?

SHOGUN BEATZ(以下、S):自由さですかね。オリジナルの音源を自分なりに加工したりして遊べるところが楽しいです。

ーー フィンガードラムの魅力って何ですか?

S:シーケンスを流しながらドラムを叩くところから始めたんですが、やっていくうちにサンプルを全てバラバラにして演奏したらどうだろうと思って、そこから頭だけコードが鳴るサンプルとドラムを一緒に演奏するのが楽しくなっちゃって。やっぱり、パッドだけで自由に表現できるのが魅力です。

音楽理論を元にした高い音楽性が武器の「Marks Neralt」

個人的に楽曲性がツボだったMarks Neraltは、音楽理論に関する本の出版を手掛けているそうで、なんとフィンガードラムに関する著書「RHYTHM AND FINGER DRUMMING」も出版しているとのこと。

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ーー サンプリングのおもしろいところって何ですか?

Neralt:ピアニストだと、クラブでは絶対に映えないんですよ。クラブにはビートが必要なんです。でもドラマーだけではクラブミュージックは作れないんですよ。じゃぁ、TR-808や909をクラブに持ち込んでも、ハーモニーがないから成立しないんです。クラブで、即興でサウンドを形成しようと思ったら、これしかない。要は一人でバンドを形成できるところが、おもしろいですね。

出典:YouTube

フィンガードラム・シーンの未来「Sasuke」

初パフォーマンスにして見事2位に輝いた、小学校6年生のSasuke。どうしたら小学校でフィンガードラムに興味を持つのかが気になり、Sasuke君のバックグラウンドについて聞いてみました。

ーー 音楽を始めたきっかけは?

Sasuke(以下、S):ダンスを始めたのがきっかけで、ダンスの現場で見るDJや、お父さんの弟がDJだったこともあって、DJを始めました。DJは、YouTubeとかで検索して勉強しています。

ーー トラックを作ったのはいつ頃から?

S:本格的に作り始めたのは、ここ2年くらいなんですけど、幼稚園の頃からお父さんのパソコンを借りて、GarageBandとかで遊んでいました。元から入ってる音素材を重ねるだけで、簡単にかっこいい曲ができるところがおもしろかったです。

ーー 今日のパフォーマンスではどんな音源を使ったの?

S:Maschineに入っているサウンドの他に、レコードからサンプリングしたものやSoundcloudからダウンロードしたものも使っています。YouTubeからもサンプリングしていて、これを使ったら盛り上がるんじゃないかとか考えてます。サンプリングは楽しいですね。

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ーー 今後の目標は?

S:いろいろ好きなので、歌ってみたりとか、自分で作った曲でダンスしたりドラムを叩いたりとか、なんでもできる世界一のアーティストになりたいです。できれば新しいジャンルを作りたいです。

Sasuke君には今後もオリジナルのスタイルに磨きをかけて、新たなジャンルを確立してほしいですね。

このような個性的な出場者をジャッジしたのが、tofubeats、熊井吾郎、XLIIの国内のクラブシーンで活躍する3名のアーティスト。ライブでも会場を盛り上げた彼らの中から、tofubeatsさんと、熊井吾郎さんに、「ACHIEVEMENT」の印象などを伺ってみました。

機材の制限を超えたパフォーマンスに刺激 -tofubeats-

ーー 今日の出場者のパフォーマンスを見ていかがでしたか?

tofubeats(以下、t):僕もMPCから音楽制作を始めたので、パッドの演奏に凝っていた時期もありました。今は、その頃に比べて機材も新しくて、サンプリングして演奏するという手法もここまできたかと感じます。制限がある楽器ともいわれるMPCが、ここまで自由に使われるのを見れて、自分の制作にも刺激になります。

ーー サンプリングのおもしろいところって何ですか?

t:時間っていうものを操作することが一番で、自分で時間を操ることは音楽を作ることと一緒なのですが、それを一番体感して勉強できるのがMPCだったりサンプリングのおもしろさだと思います。もう一つは楽ということですね。楽というのは、いきなり完成に近づいたりとか、自分でどこまでやるかを決められて、音楽がどうやってできているのかを段階的に知ることができるということです。そういう意味では、自分の音楽に影響を与えてくれましたし、人の音楽の時間の使い方などが分かるところがおもしろいと感じます。

ーー 今後のフィンガードラム・シーンにどのようなことを期待しますか?

t:ここまでしかできないと思っていた機材が、ここまでできるんだって覆してくれる人がいっぱい現れて欲しいなと思います。

出典:YouTube

ドラムパッドだからこそ生まれる個性 -熊井吾郎-

ーー 今日のパフォーマンスを見ていかがでしたか?

こんな叩き方するのとか、このネタ持ってくるかみたいな、いろんなタイプのプレイヤーが出てきてくれました。ピアノを弾いても今日のバトルのような違いは出せないと思いますが、ドラムパッドだからこそあんなにも個性が出るんだなと、改めて思いました。

ーー サンプリングのおもしろさはどこにあると思いますか?

全く関係のない音楽が融合するところや、自分が好きな曲を再構築できて、好きな曲が好きだけで終わらないところが良いですね。

ーー 今後のフィンガードラム・シーンに求めることはありますか?

皆さん上手いんで、怖いっす(笑)。競技みたいにならずに、DJ的感覚というか、体を揺らせるようなトラックを作る人が、もっと出てくるとおもしろいんじゃないかと思いますね。

指先から生まれる可能性は無限

今回初めてパフォーマンスバトルを体験しましたが、出演者それぞれにスタイルが異なり、オリジナリティがぶつかり合う会場の空気はとても新鮮で、フィンガードラムシーンの魅力を実感することができました。

わずか16個のドラムパッドだけを使うフィンガードラムですが、独自のサンプルを自在に組み合わせて生み出されるパフォーマンスの可能性は無限大で、改めてサンプリングの自由度の高さを感じました。

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「ACHIEVEMENT」では多くの刺激的なパフォーマンスを見ることができましたが、このようなトラックメーカーによるバトルは、まだまだ発展途上です。また、MPCやMaschineなどは、最新の機能を搭載して、常に新しいパフォーマンスの可能性を引き出してくれます。

出演者の多くは、フィンガードラムを軸にパフォーマンスを構成していましたが、エフェクトなどの機能をフルに使ったパフォーマンスなど、まだまだ多くの可能性が秘められていると感じます。今後は、最新のテクノロジーを駆使した、とんでもないパフォーマンスを見せてくれるアーティストが出てくることを期待したいと思います。

今後もトラックメーカーにフォーカスした大会は、東京と名古屋で開催される予定です。今回参加できなかったトラックメーカーも、アーティストとしてのチャンスを掴むいい機会になるかもしれません。今後の情報には、要チェックですね。

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