Ableton主催のカッティングエッジな音楽とテクノロジーのカンファレンス【Loop訪問記 後編】

soundrope読者の皆さん、こんにちは。10/30から11/1にかけてベルリンで行われた、世界中のアーティストやエンジニア・プログラマーなど様々な参加者が集まり、ワークショップやトークセッションを行うカンファレンス「Loop」の模様をお伝えする記事の後編。前回の記事では、Loopの第1日目までを紹介しましたが、今回はいよいよ本格的なプログラムが始まる2日目と3日目の模様を紹介します。

Loop2日目

Loopでは大小含め6会場でプログラムが行われており、全てを見て回ることは不可能なので1つのプログラムを途中まで観て別のプログラムへ移動するという人もいます。日本のこの手のカンファレンスに比べるとノリは大分緩くて、友達との会話の延長線みたいな感じです。

Live Coding。制限時間を決めて目の前でプログラムを組む
Live Coding。制限時間を決めて目の前でプログラムを組む

ただ、海外のドキュメンタリー映像によくある喋りっぱなしが多いので、日本人にはちょっとキツイ部分もあります。内容や切り口は面白いのですが、見せ方の技術に関しては日本の認定トレーナーも負けてないレベルだと思いました。
他には身体を楽器のインターフェースとして使うとか調理で音楽を作る面白そうなワークショップもあったのですが、こうしたワークショップは人気があってすぐ定員に達していました。

この日もっとも興味深かったのが、King Brittによる子ども向け音楽教育のディスカッション「Practice what you teach」。アメリカは貧富の差が激しく、両親が共働きで工場を掛け持ち勤務してやっと暮らせるという貧しい家庭もいます。そうした家庭の子どもには、女をはべらかして大金を持っているギャングスターが憧れになり、犯罪に手を染めてしまう負の連鎖があります。

Loopでもっとも印象的だったプログラム「Practice what you teach」 子ども向け音楽教育についての話し。

そこでKing Brittは地域コミュニティーの受け皿として、そうした家庭の子どもにヒップホップやエレクトロニックミュージックを教え、レコーディングをしたり、子ども達にレーベル運営をさせてコンピレーションやリリースパーティーを企画させたりという取り組みをしています。レーベル運営までさせるのは実践的で良いなとえらく感心しました。

このプログラムは多くの認定トレーナーやCEOのGerhardも観ていて関心の高さを感じることが出来ました。昔のAbleton Liveは、DJがお手軽トラックメイキングするツールというちょっとチャラいイメージがありましたが、実は将来を見据えてこのように教育に力を入れる方向に大きく変化しています。こうした動きは日本に伝わってきていませんが、それを広めるのもAbleton認定トレーナーの役目なのかもしれません。

2日目の昼のプログラムが終わった後は、Abletonのオフィスで認定トレーナーのピザパーティーが開かれました。僕の記憶では20カ国から31名来ているそうですが、国籍もキャラも実にバラバラで明らかにヒッピーの人もいたりして面白かったです。皆Liveが大好きで、社員も認定トレーナーも単なるいちユーザーの目線でLiveの話をしています。

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その後、Prince Charlesで行われた夜のプログラムに行きましたが、火災報知器が誤作動して一旦全員追い出され警察が入ってきたりして疲れたので早々に帰宅。この日はハロウィンでしたが、渋谷の狂乱と比べるとかなりおとなしかったです。

Loop 3日目〜クロージング〜

3日目になるとだいぶ顔見知りが増えてきて、会場にいる人全員が知り合いかのような妙な連帯感が出てきます。3日目のプログラムで印象的だったのは、Patatap & Typatoneによる「building A/V instruments for the web」。ミュージシャン/プログラマーのPatatap=ショーンがwebブラウザで動く音源を作る方法を解説するものなのですが、発想もさることながらプレゼンテーションの仕方が一番上手で面白かったです。ショーンは名古屋在住のアメリカ人でナイスガイでした。彼のwebサイトで色々遊べます。

会場の外。ベルリンは空の色がきれい。
会場の外。ベルリンは空の色がきれい。

こうして3日間にわたるLoopは全てのプログラムを終えていよいよクロージングへ。最後はホールにてGerhardやAbleton product team等がクロージングのキーノートを行いました。その模様は動画でも公開されています。

https://vimeo.com/144372872

出典:Vimeo

ここでAbletonはこれから子ども向け音楽教育に力を入れるとの取り組みを話し、Live 9.5とPush 2が明日登場することを発表します。Push 2やAbleton Linkのデモを行い、Ableton Linkに協力したKORGの坂巻さんがVIPとして紹介されていました。面白いのはPush 1を下取りに出してPush 2を30%オフで購入できるトレードインで、下取りに出されたPush 1は再整備され、Liveのライセンスと共に子ども向けの教育機関に寄付されます。キーノートが終わるとスタンディングオベーションで拍手の嵐でした。

Push 2の発表を終えたGerhard。よく見るとスタンディングオベーション。

僕はこのキーノートを見て、1999年に5色のiMacが発表された幕張メッセのMac World Expoに行ったことを思い出しました。当時はiPhoneところかiPodも出る前で、インターネットもダイアルアップ。しかしソフトウェア音源が登場し始め、音楽制作にも革新的な何かが起こりそうな予感のある熱い時代でした。この時代に高価なMacintoshを使うのはクリエイターが多かったので、Mac World Expoにも、単なる展示会を超えた妙な連帯感と革新的な何かが生まれているというワクワク感がありました。それから年月を経て一回りしたのか、Loopにもこうしたワクワク感が感じられました。Loopは、Abletonだけでなくエレクトロニックミュージックの未来も示唆しているような気がしました。

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3日目のプログラムが終わると、ベルリンにある国立劇場のHKWでTim Heckerらによるクロージングコンサートが行われました。国立劇場だけあって踊るのではなく椅子に座って観るTim Heckerのライブは、本人の姿が見えず蛍光灯を横にしたような照明にひたすらビートレスの音。しばらくすると皆眠り出しますが、段々音数と照明が増えていくと目が覚めて、また音数と照明が減ると眠り出すという繰り返しで、雰囲気は厳かなのですが良い意味で面白い終わり方でした。

会場の外に出るドアの近くにあるシャウトボード
会場の外に出るドアの近くにあるシャウトボード

このAbleton Loop、いずれは世界各地で開催したいそうですが、果たして東京での開催は実現するのでしょうか?! どうなるか楽しみです。