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モダン・ファンクの第一人者Dam Funkが愛用するヴィンテージ・ドラムマシンのサウンドをAbleton Liveのフリー音源で再現

連載一回目となる本記事では、Dam-Funkのサウンドを特徴づける要素の1つ、「ヴィンテージ・デジタル・ドラムマシン」について考察します。ここでは、Dam-Funkの2ndアルバム「Toeachizown」に挿入されている「Mirrors」のビートをAbleton LiveのDrum Rackを使って再現してみたいと思います。

出典:YouTube

今回のポイントは、次の通りです。

  • メインの使用機材はデジタル・ビンテージ・ドラムマシン(Oberheim DX, Sequential Circuits TOM, LinnDrum, Simmons Clap Trap)
  • Ableton Liveに最適化されたDrum Rackのパックがフリーで手に入るのでこれを活用できる
  • ピッチを上下することで大きくサウンドが変化する
  • ヴィンテージ機材特有の音の悪さ(低いビットレートなど)がかっこよさの一つ
  • デジタル・ドラムマシンを使ったファンクの長い歴史が、実はある

Dam-FunkはTR-808やTR-909といったアナログ音源方式のドラムマシンよりも、「デジタル音源」のドラムマシンを愛用しています。デジタル音源方式というのは、簡単にいうとサンプラーです。ただし、自分でサンプルを変えることができないサンプラーです。つまり、多少の変更を加える事はできるものの、同じドラムサンプルを鳴らすしかないので、あまり変化がありません。

…と今まで私は誤解していました。全世界のデジタル・ドラムマシン・フリークの皆様、申し訳ありません。デジタル・ドラムマシンにはデジタル・ドラムマシンだけの良さがあることに、やっと気づくことができました。今回、デジタル・ドラムマシンの面白さを全面的にフィーチャーいたしますので、何卒、お許しいただければとおもいます。

ではまず、Dam-Funkの2作目のアルバム「Toeachizown」から「Mirrors」を私なりにコピーしたサウンドをお聞きくください。全く同じ、というわけにはいきませんでしたが、コード、ベース、ドラムのフレーズは再現できたかなと思います。

Dam-Funkが所有するドラムマシンの名機

さて、過去の雑誌記事やYouTube、Webの有志の情報によると、Dam-Funkは以下のデジタル・ドラムマシンを所持しているようです。

  • Oberheim DX
  • Sequential Circuits TOM
  • LinnDrum
  • Simmons Clap Trap

他にも、次のドラム・サウンドのための機材も持っています。

  • Korg Rhythm 55B(リズムボックス/アナログ音源・プリセット式)
  • Akai MPC 2000-XL(サンプラー)

そして彼は主に「Sequential CircuitsのTOM」という機種を使用しているようです。

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出典:Matrixsynth

彼が使用している機材が判明しているのだから、同じ機材を使えば同じ音がするはずだ、と私は誤った考えをしていました。デジタル・ドラムにはTR-808のような個体差もないし、Abletonに付属しているこれらの機材を模したサンプリング音源を使えば、再現できるはずだと。しかしやってみると、かなり苦労をしました。またその作業を通して、デジタル・ドラムにはデジタル・ドラムならではのサウンドの作りこみがあるのだということに気づくことができました。

Liveに最適化されたフリーの音源からビートを作る

ではAbleton Liveで準備を始めましょう。まずは Ableton Liveが無償で提供しているパックから、有名ドラムマシーンをサンプリングしたDrum Rackを手に入れます。この中にDam-Funkが使っているものをエミュレートしたと思われる名前のキットが、多数含まれています。

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  • Kit-Trax Classic → Sequential Circuits DrumTraks(同社TOMにサウンドが似ているはず)
  • Kit-DMX Classic → Oberheim DMX(同社DXに似ているはず)
  • Kit-LD Classic → LinnDrum

Dam-Funkが使用している機種ドンピシャのものはこのキットにはあまり含まれていません。どうやら彼は各社の「有名機種を微妙にはずした」マイナーな機種を好んで使用しているようです。モデリングしたソフトがないか探してみたのですが、みつかりません。こだわりなのでしょうか?

もう一つ、彼の特徴的なクラップに使われている機材「Simmons Clap Trap」をモデリングしたDrum Rackも手に入ります。これはAbleton公式のものではありませんが、Abletonの協力メーカーの一つなので、その品質は信頼できるものです。

これらの無償で手に入るパックは、Drum Rackの形式で提供されていますから、最初からAbleton Liveに「最適化」されています。サンプルをアサインしたり、音色を変化させるためにエフェクトをアサインしたり、といった作業を全くする必要がなく、快適に使用できます。

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キックやスネアといった各音色に、既にピッチやボリューム、アタック、ディケイなどを変更するパラメータが用意されていますね。これを一から自分で設定するのは手間がかかります。Abletonという広く使われているフォーマットだからこそ、多くのサードパーティーが専用のパックを展開しており、こういった利便性を享受することができます。

またDrum Rackを使うと、MIDI編集画面に音色名が表示されるので、打ち込みも簡単になります。これはやはり専用音源ならではのアドバンテージです。

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さて、実際に使う音源は「Kit-LD Classic」にしました。これはLinnDrumのモデリング音源だと思われますので Dam-Funkが多用しているという「Sequential Circuits の TOM」とは異なるメーカーのドラムマシンです。

なぜこれにしたかというと、TOMと同じメーカーから出ているSequential Circuits DrumTraksをモデリングしたと思われる「Kit-Trax Classic」をいくら編集をしても、似た音にならず、結局一番似ていたのは「Kit-LD Classic」だったからです。

本当にTOMをDam-Funkが使っているのか、いないのか、実際のところはわかりません。ただ、彼の制作方法が、基本的にはドラムマシンもシンセもDJミキサーにつないで一発録音、ということを考えると、エフェクトによる大幅な音色変更はしていないはずですから、ドラムマシンの素の音に限りなく近いはずです。

だとすれば、いくら加工しても似てこなかったKit-Trax Classicよりも、最初から音が似ていた「Kit-LD Classic」のほうがベターであろうと判断しました。

デジタル・ドラムマシンを使ったファンクの歴史

では、ここでデジタル・ドラム・サウンドの「歴史」をみてみましょう。group_inouなどで活躍されるエンジニア、松竹剛さんのサイトが参考になります。「ドラムマシン丸出しファンク10選 」これを見ていただくと分かる通り、ファンクにおいて 「LinnDrum」 を使う伝統がわりとあるわけです。

そして音色といい、フレーズといい、この記事で紹介されているような音源から強い影響を受けていることが、本人も述べていることですが、改めて感じられますね。Dam-Funk本人の作品だけではなく、こういったドラムマシン・サウンドを使ったファンクを掘っていくのも勉強になるのではないでしょうか。

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出典:Matrixsynth

こういったドラムマシンが使われている背景の一つには、予算削減もあるようです。荘 治虫さんの『808 Music Handbook – ザ・808読本』によればマーヴィン・ゲイがはじめてドラムマシンTR-808を使ってヒットさせた「Sexual Healing」の制作秘話として、予算がなくミュージシャンを集めることができなかったためにTR-808を使ったということが書かれています。

マーヴィン・ゲイといえば誰もが知っているミュージック・レジェンドですが、やはり落ち目の時期もあったわけで、その時期に予算にあわせて使われたのがドラムマシンだったわけですね。

予算がなかったから使わざるを得ないアーティストがいたかと思えば、好んでドラムマシンを使ったアーティストも当然います。後期、アース・ウィンド・アンド・ファイアーはドラムマシンを一時使っています。もっと前にはスライ&ザファミリーストーンが「Family Affair」でリズムボックスを使っています。予算がないからドラマーを差し替える、というネガティブな目的はなく、純粋に新たしいサウンドとしても使われていたわけですね。

どうしてもクラブ・ミュージックの文脈ではTR-808だけがクローズアップされがちですが、こうして見ていくとデジタル・ドラムもバリバリに使われているわけです。(このあたりのことは当時、音楽を聴いていた方には、当たり前だ!と言われてしまうかもしれませんが…)もっといえばポップミュージックの文脈では、LinnDrumのようなデジタル・ドラムがメインなわけです。

ピッチ・コントールだけでサウンドは劇的に変化する

ではデジタル・ドラムの歴史をおさえたところで、再度、Abletonで作業をしていきます。Dam-FunkのMirrorsになるべく似るよう、調整したのが次のトラックです。

まずはドラム音源を用意しましょう。Abletonでの音色の読み込みは簡単で、左側の「ブラウザ」から「Kit-LD Classic」をドラッグするだけです。

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するとドラムの各音色が1画面で見渡せる「Drum Rack」がトラックに挿入されます。

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「Drum Rack」の「矢印」マークをクリックすると、対応するドラム・サウンドが再生されます。

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ドラムの音色名、ここでは例として「Kick LD」をクリックしてみると、黄色くなって、右側には音色をコントロールする専用の画面があらわれます。

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この音色コントロールの専用画面を操作性して音色を作っていきます。

デジタル・ドラムにおいて操作できるのは基本的に「音量」と「ピッチ」です。特に「ピッチ」が重要です。何故かというと「ピッチ」つまり「音高」を上げ下げすると、同時に「音色」も変わるからです。試しにピッチを極端に下げてみてください。するとピッチが下がったことよりも「音色」が変化したことに気が付きませんか。

デジタル・ファンクのかっこよさはヴィンテージ特有の音の粗さにあり

極端にピッチを下げると、ビットレートが下がったようなサウンドになります。実はこのビットレートが下がったような「音質の悪さ」は、デジタル・ファンクにおける「かっこよさの一つ」だと私は思います。

一般的なCDのビットレートは16bitですが、LinnDrumは12bit、その他のドラムも基本的には12bitが多いようです。bit数が低いと、独自のバリバリとしたパワーのある音になります。さらにピッチを下げることで、その性質は強調されます。こういった音が悪くなる仕組みは、今のDAWではなかなか再現できないわけです。だからこそ、Dam-Funkはビンテージ・ドラムマシンの実機を未だに使っているのではないかな、と今回の検証を通して感じました。

今回のドラムにおいては特に Crash Cymbalのピッチを大幅に下げ、Dam-Funkのトラックに近づけています。音が下がると同時に、音色の変化が起きて、荒々しい音に変化しています。

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他にもクラップのピッチも微調整しています。

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スネアも少しあげています。

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実際に作業をするとわかるのですが、たった半音変えるだけでもかなりサウンドが変化します。これは Dam-Funk には限らず、サウンドメイクにおいて大きなテクニックです。ピッチの変更に加えて「Glue」という値も変更しています。「Glue」はコンプレッサーの主にスレッショルドをコントロールしています。今回はキック、クラップにとくに強めにかけています。

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フレーズはこのようになっています。フレーズについてのは考察は、次回に行いたいと思います。

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今回のおさらい

  • メインの使用機材はデジタル・ビンテージ・ドラムマシン(Oberheim DX, Sequential Circuits TOM, LinnDrum, Simmons Clap Trap)
  • Ableton Liveに最適化されたDrum Rackのパックがフリーで手に入るのでこれを活用できる
  • ピッチを上下することで大きくサウンドが変化する
  • ヴィンテージ機材特有の音の悪さ(低いビットレートなど)がかっこよさの一つ
  • デジタル・ドラムマシンを使ったファンクの長い歴史が、実はある

次回はドラムのフレーズに注目していきます。

ではまた!

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