今回は長年ミュージック・プロダクションの第一人者として活躍しているAlexkidが、サンプルのレイヤーやMPCの秘密など、ビートメイキングのテクニックを紹介します。
1. MPC独特のグルーヴは作り出せる
MPCのグルーヴは都市伝説のようなものだと思います。MPCシリーズのなかでも人気の高いMPC3000やMPC60には、波形編集機能が無かったためにカットや編集に曖昧さ=ズレが生じていました。このズレこそがMPCのグルーヴの正体だと思います。クオンタイズした後でも音がズレるのは、スプライスされていたことに起因します。DAWソフトのディレイをミリセック単位で調整することで、MPCのグルーヴを再現することができます。
かなり細かいテクニックですが、ディレイタイムを0-4ミリセックで設定します。ハイハットではディレイタイムを増加させ、スネアでは減少させます。Abletonのスウィングやグルーヴ機能と組み合わせることで自然な音に仕上がり、いかにもPCらしい整ったグルーヴではなく、ヒューマナイズされたグルーヴを得ることができます。
2. レイヤーと位相を制御して音に存在感を加える
サンプルのレイヤリングはビートメイキングの一般的なテクニックです。例えば、キックサンプルのアタック感が好みでも厚みが足りないと感じる場合、レイヤーすることでアタック感のある重厚なキックを作ることができます。ここで時折問題になるのが位相です。キックをレイヤーしてベースが薄く感じたら、それは位相の問題です。
位相に問題がある場合は、ディレイを使って補正します。レイヤーさせる2つのトラックのトラック・ディレイ機能の数値をベースの存在感が増す数値までシフトさせます。ベースのサウンドが前に出てきた状態が、位相が正確であることを意味します。
反対に、音同士が互いに打ち消しあう状態を逆位相と呼びます。2つのサンプルを逆位相にして、ユーティリティツールで位相を反転させると位相が整います。2つのキックをレイヤーする場合は難しくありませんが、3つのキックをレイヤーする場合は少し手間取るかもしれません。
3. MIDI同期時のズレを理解する
ここで紹介する内容は、PCと外部ハードウェアをMIDI同期させて制作を行うビートメイカーには知っておいてもらいたい内容です。ドラムマシンなどの外部ハードウェアへMIDIを送信する場合、PCのクロックがオーディオを優先するためにタイミングにズレが生じます。
ハイハットで実験してみるとタイミングのズレが分かりやすいと思います。一定のリズムでハットを鳴らしてループを作成し、作成したループと同じパターンを作成します。2つのループをレイヤーしてみると、異なる周波数が聴こえてタイミングがズレているのがわかると思います。タイミングにズレがない場合、異なる周波数は聴こえないはずです。PCと外部ハードウェアをMIDI同期させる場合、タイミングのズレを理解しておくことで、イメージ通りのサウンドを作り出すことができます。
4. ボリューム調整で洗練されたビートに
人間の耳はシンプルな音を好みます。バスドラム、ハイハット、スネアなどの音数が多いビートでは、リスナーは疲れてしまいます。いくつかの軸となる音だけを前に押し出し、他の音はボリュームを下げて奥の方へ配置します。
かなり複雑に構成されたビートでも、エレガントに、シンプルに見せるように心がけてください。簡単ではありませんが、上手く調整することで洗練されたビートが生まれます。多くの場合、音のボリュームが鍵を握っています。
5. 必要のない周波数をカットしてメリハリをつける
必要のない低周波数はフィルターやEQで削ぎ落とし、音の核となる部分だけを残します。ハイハットにはハイパスフィルターを加え、低域を全てカットします。音の核となる部分以外でブーストさせたい帯域がある場合は、帯域の幅を広めに設定してEQを調整します。ポイントは、サウンドのバランスを考えつつ、低域を不必要に膨らませないことです。スネアも同様に調整を行います。但しスネアに低めのバンプを加えると、素晴らしい結果を得られることがあります。
Alexkid:マルチ・インストゥルメンタリスト、作曲家、リミックス・アーティスト、DJ、サウンドエンジニア。AlexkidのSoundcloudはこちら。
記事ソース:LANDR