今回は、マスタリングエンジニアの格言『garbage in, garbage out』(ゴミを入れれば、ゴミが出てくる)を避ける方法について紹介します。
リスナーの視点に立って考える
最新の編集・修正ツールと無限のトラック、そして誰でもいつでも音楽が作れる時間制限がない現代においては、「完璧なミックス」を求めて編集作業に没頭し、ドツボにはまってしまいがちです。しかしリスナーはミックスを聴くのではなく、音楽を聴いています。ミックスの間違いを探そうと意気込んで音楽を聴く人はほとんどいないはずです。
- 可能な場合はなるべく制作から離れて、休憩をとりましょう。リフレッシュが大切です。
- 楽曲中の何かしらの音が突出して聴こえる場合は、ミックスの修正が必要です。
- 特に気になる箇所がなく、聴いていて素直に楽しいと感じたらミックスは完了です。次のプロジェクトに移りましょう。
ミキシング前にトラックの理解を深める
ミックス作業を始める前に、ラフなフェーダーアップのバージョンを作成して数日間聴いてみましょう。聴いているうちに、ミキシングのアプローチやアイデアが浮かんでくるはずです。音楽がミックスを先導するということを忘れないでください。そうすることで自分の癖が出にくくなり、ミキシングのマンネリ化を防ぎます。ラフバージョンを聴く時はパソコン以外で聴くようにしましょう。またプロデューサーとしてではなく、一音楽ファンとして聴くことで、自分のミックスを理解する手助けになります。
ミキシングをアレンジとして考える
ミキシングはアレンジメントとオーケストレーションの延長です。多くの要素が詰まったミックスを編曲する場合、EQやコンプなどで加工する前に、本当に全ての要素がそこにある必要があるのかを再考してみてください。個々のパートにスペース(間隔)とタイムオフ(休み)を加えれば、1つ1つの要素のインパクトは自然に増します。
さらに、類似した音ではなく、補足する音を選ぶように意識してください。(例えば、柔らかく持続的なサウンドに、短くてアタック感のあるサウンドをレイヤーするなど)ミキシング作業は、音楽的なアレンジメントを加える作業と考えてアプローチしてみてください。
ミックスの確認ツールとしてのLANDR
時には休憩して、LANDRのアルゴリズムが、あなたのミックスをどんな風に変化させるのかを確認してみるのもありだと思います。これにより、ミックスの問題点を見つけることも可能です。LANDRが行ったアンケートによると、ミキシングの問題点を確認するためにLANDRを利用するユーザーが多くいるそうです。
環境を変えてリスニングしてみよう
最高級のモニタリング環境(スピーカーやヘッドフォン)を整えることも重要ですが、特に予算に限りがある場合は、PCのスピーカーやイヤフォン、カーステレオや音響設備の整っている友達のスタジオなど、日常生活に沿った環境で自分の音楽を聴いてみるのもオススメです。
これらの環境であなたのトラックが良く聴こえるのであれば、ミックスは最良な状態といえます。もしも、ある環境で違和感を感じた場合は、しっかりとメモを取ってミックスを修正をしましょう。基本はこの繰り返しです。
実験しながらミックスを楽しもう
ミックスによる音のバランス、その定義などは方程式の一部分でしかありません。ミキシングはまず楽しむことが大切です。
多くの実験をして、たくさん失敗してください。あなたの声にグラニュラーシンセを通してリバーブ(エコー)を加えてみたり、パッドシンセでドラム音にボコーダーを加えてみたり、ビブラフォンのディレイをリバースしてトレモロを加え、それをまたリバースしてディレイを加えてみるのも良いかもしれません。
お気に入りのサウンドが生まれなかったとしても何度でもやり直すことができますし、最高のシグネチャー・サウンドを作り出すことができるかもしれません。但しクライアント案件では、クライアントの好みに合わせるようにしてください。
録音レベルは控えめに
24bitが主流となった今、ノイズフロア問題は過去のものとなりました。レベルメーターを真っ赤に振り切りながらミックスしたり、レコーディングしたりする必要はありません。不必要にクリッピングポイントを超えた録音は、あなたの録音をクリッピング領域に押しやってしまいます。
平均レベル -18dB FS(またはフェーダーでピークレベルが約-10DB FS)をターゲットとして、音割れ状態にならないようにします。そしてリミッターに頼ったりフェーダーを下げ続けたりすることのないよう、ミックスに十分なヘッドルームを確保しておきます。
もしも曲の音を大きくする必要がある場合は、スピーカーのボリュームを上げてください。音圧を上げる作業はマスタリングまでとっておきましょう。結果としてあなたのミックスはより開放的で、緻密かつ疲れない音になるでしょう。
フェーダーのオートメーションを利用する
コンプレッサーは、行き過ぎたピークを抑えてメリハリを与えるには良いツールです。しかし、曲のレベルを設定するために、ボリューム・フェーダーを静的(スタティック)に保ちながらコンプに頼ると、躍動感の無いミックスになってしまいます。
すべての要素間の基本的なバランスを設定したら、フェーダーを自動化してみてください。オートメーションを利用することで各要素が自然で音楽的に一体化します。
全てのパーツを組み合わせてミキシングを
トラックのソロ機能は、ノイズをクリーンアップしたり、トラック間のバランスを確認するために効果的ですが、ソロモードでパーツごとにEQやコンプレッサーを加えるのは避けましょう。最近のミックスの傾向として、すべてのパーツの音量をフルに持ち上げがちですが、これではミキシングで1つのトラックにまとめたときに要素同士がぶつかり合ってしまいます。
ミキシングは、全体的にまとまるように各パーツを調整する作業です。ソロで聴くと音が薄く小さいパーツでも、メインのパーツと一緒にミキシングすることで、絶妙に絡み合い効果を発揮します。
フィルターを活用しよう
すべてのパーツにフィルターを加えてしまいましょう。すべては言い過ぎかもしれませんが、多くのパーツに、多用してみてください。ハイパスおよびローパスフィルターはミックスにおけるあなたのベストフレンドになり得ます。トラックのローパス(時にはハイパス)をロールオフすると、トラックに大きなスペースを生みだしてくれるはずです。
ソロでパーツを聴いた時、もし音が薄く聴こえたり、変に聴こえても心配しないでください。全体で聴いてどう感じるかが最も重要なのです。
Sacha-Léo Shenkier:LANDRコミュニティ・マネージメント所属
記事ソース:LANDR