過熱する電子楽器リペア、カスタム市場。ghostinmpcに聞く。

 過熱する電子楽器リペア、カスタム市場について考える。

電子楽器と通常のギターやピアノなどの楽器と違うのは、楽器の歴史の長さが違い、構造がいまだに進化し続けている点が挙げられる。

電子楽器はどんどん進化しているので、シンセサイザーやサンプラーなど同じカテゴリの楽器においても型番ごとに構造が異なり、その特殊性が故に、リペアが困難な場合がある。

そういった中で近年音楽業界の中でも注目されているのが、電子楽器の修理リペア業界である。今回は、どういった背景を持って、修理リペア業界が注目されているのかを探っていきたい。

もともとは家電製品だったターンテーブル。

SL-1200

出典:panasonic

DJ用のターンテーブルとしてお馴染みのTechnicsのSL-1200シリーズの生産完了になったのは2010年12月の事である。

そのニュースはDJシーンにとって大きな衝撃となった。

ギターで言えばgibsonやfenderが、ピアノで言えばYAMAHAやSteinway の生産が完了するようなものである。

Technicsはpanasonic社のブランドの一つだが、SL-1200はカテゴリー的にはレコードプレーヤーとして存在していた。同社は旧社名松下電器の頃から大手家電メーカーとして様々な電化製品を作り出し日本の高度成長を牽引して人々の生活を豊かにしてきた。

SL-1200もその中の一つで、アナログレコードを聞くための家電製品として高音質かつ、高い耐久性を備えた家電製品として多くのユーザーを獲得してきた。

DJ達が家電製品を楽器へ変貌させていく。

そのSL-1200を聴くだけのレコードプレーヤー以外の用途で用い始めたのがDJ達である。彼らは2台のターンテーブルをミキサーという音をミックスする機械で曲をつなぎ、人類のダンスシーンに大きな影響を及ぼした。

またDMC DJ CHAMPION SHIPSをはじめとしたDJの大会などから生まれた、単に躍らせるだけではない、カルチャーも存在する。2台のターンテーブルを使用して表現の限界に挑むカルチャー、「ターンテーブリズム」などもDJシーンから産み出された。

DJ達は多くの人を踊らせるために、また、表現の限界を突き詰めるために大変多くの練習を積んだ。その練習の過程で、DJ達の多くはターンテーブルに愛着を持つようになる。そう、それは家族や恋人に相当する物であるのだ。そしてそれは、もうただの家電製品ではなくなっている。楽器としての電化製品なのである。

TechnicsのSL-1200の生産完了が発表された時、多くのユーザーは突然恋人を失ったような気持ちに襲われただろう。その当時私の所属するOTAIRECORDでも、多くのSL-1200ファンからSL-1200との思い出がつづられた感想が寄せられている。

sl1200thx

出典:OTAIRECORD

家電製品から始まったSL-1200が伝説とされる理由とは?

そして今もなおSL-1200はDJターンテーブルとしての標準機の地位を守り続けていて、中古市場は過熱の様相を呈している。

洗濯機やテレビ、電子レンジが生産完了になってもこのような現象が起こることはまずない。SL-1200はpanasonic社の中でも最も愛された型番として伝説としてこれからも語り継がれるであろう。

指示で恐縮だが、DJ $HINの計らいでSHING02と私の3人で、SL-1200の開発に携わった方へのインタビューを行ったことがある。これをお読みいただければ、SL-1200が家電製品から楽器に変貌を遂げて行った過程を理解していただけることだろうと思う。

音語り SL-1200ロングインタビュー

SL-1200インタビューOTAIRECORD

出典:OTAIRECORD

ミュージシャンの電子楽器に対する思いからリペアカスタム市場が産み出される。

この様に多くの人々に愛されたターンテーブルをはじめとする楽器としての電化製品の市場から自然派生的に登場してきたのが、電子楽器のリペア及びカスタム市場である。

ギターやピアノなどアナログ楽器と違い電子楽器というのはその型番一つ一つの構造は型番によって独特になっている。

だから、リペアにはそれなりの知識が必要とされるのである。

しかし、楽器が故に電子楽器だとしても、この型番でないとだめだ、とこだわるミュージシャンは多い。

電気楽器修理、カスタム市場はそういった背景の中から登場した。

修理カスタム業者は高度な知識とリテラシーを持ちあわせ、特定の型番を愛するミュージシャンたちにとって希望となっている。

今回は、ダンスミュージックにおけるトラックメイキングの歴史には欠かせないサンプラーを中心に修理やカスタムを行っている会社に焦点を当てる。

今なお多くの愛好者がいるサンプラーの代表格AKAIのMPCシリーズ。

トラックメイキングにおけるサンプラーの代表格は、AKAIのMPCシリーズである。

MPCは現在も生産されているがAKAI社でも旧品番はサポートが終了している物も数多く存在している。しかし、旧品番のMPCもいまだに愛好者は多く、この品番じゃないとダメ、というミュージシャンも数多く存在している。

それは、便利であれば良い、高機能であれば良いという概念に収まらない、愛着が根源に存在する。自分が愛着を持った機器をずっと使って行きたい。という思いを抱いているミュージシャンは少なくないのだ。

現在トラックメイキングの市場は活況を呈しており、様々な便利な機材がリリースされているが、ミュージシャンにとって、便利であれば良い、という次元を超越した愛着を持った特定の品番を愛するミュージシャンが数多く存在しているのは、現在の楽器市場において一つの特徴と言えるであろう。

MPCの修理・カスタムを行っているghostinmpc。

ghostinmpc

出典:ghostinmpc

今回紹介するghostinmpc社はそんなAKAIのサンプラーを修理やカスタムする業者として数年前から世界レベルで話題になっている日本の会社である。

高度な専門知識を持ち、また確かな技術で多くのミュージシャンの希望となっており、また、世界に一台しかないカスタムモデルを次々に生み出して熱い視線を集めている。

ghostinmpcは、どのように考え、どういった思いで、修理、カスタム業務を行っているのか、オーナーにインタビューをしてみた。

サンプラーのリペア、カスタムカンパニーghostinmpcのオーナーのインタビュー。

MPCカスタム

出典:ghostinmpc

–本日はよろしくおねがいします。いきなりですが、お店の名前の由来はなんでしょうか?なんか「ghostinmpc」って気になってたんですよね。

2015年で立ち上げから5年目に入るのですが、屋号を考えていた頃に士郎正宗の「功殻機動隊」にハマッていたのと、その概念的な部分での元ネタであるアーサー・ケストラーの「ghost in the macine(機械の中の幽霊)」に影響を受けたのが由来です。必要に迫られて何とか考え出した、という感じですが・・・

意味合い的な所では機材に新たな命を吹き込むというか、壊れて打ち捨てられている様な機材でもメンテナンスやカスタムを施して唯一無二の存在に昇華させる様な、そんな感じです。

roland SP-555カスタム

出典:ghostinmpc

そういう由来があったのですね。このカスタム事業というのは最初どういった形で始められたのでしょうか?

ghostimpcを名乗る前は個人的に趣味で機材のペイントや改造を行っていました。

アメリカで有名なFORATというカスタムショップがあるのですが、そこでカスタムペイントされたMPCを見て興味を持ち、DIY的感覚で始めたのがキッカケです。

やっているうちに技術的な面で満足できなくなって、どうすればFORATレベルの物ができるのか試行錯誤しているうちにそれなりの物ができるようになってきて、その頃に周りの助言もあって商売にする事に決めました。

内部の電気的な事も元々得意ではあったので、修理や改造も併せて行っていけば需要はあると思ったんです。

MPCカスタム

出典:ghostinmpc

–昔の音楽機材をサポートできるところが少なくなっている現状がありますのでユーザーとしてはうれしい限りですね。
持ち込まれる利用者は年齢的にはどれくらいの方が多いのでしょうか?30代中盤から40代ってところですか?

カスタムペイントに関しては若い方のほうが多いかもしれません。
修理やメンテナンスは20代から40代まで様々です。稀に女性の方もいます。

ただ、やはり年齢によって持ち込まれる機材に変化があって、若い人はMPC1000とかMPC2500等の比較的新しい機種が多くて、E-mu SP1200とかMPC3000、MPC60のビンテージ機材になるとある程度年齢が高い方が多い印象です。

まだ少数ですが海外からもカスタム依頼があります。

MPCカスタム

出典:ghostinmpc

–持ち込まれる機種はどういったモデルが多いですか?

カスタムペイントではMPC2000XL、MPC1000が多いです。修理でもMPC2000XLが一番多いですね。

次はE-mu SP1200で、他に修理できる所がなかなか無いという事でよくご依頼を頂いています。

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出典:ghostinmpc

–カスタムや修理をするうえで何か楽しいエピソードがあったらお聞かせください。

全て自己流で突き進んできたので遠回りする事も多いです。
一発勝負的な所も多々あるし、儲かるかと言えばそうでもない(笑)。

ただ、自分で考えたアイデアやお客さんがデザインした物が実際に形になっていく瞬間っていうのは格別で、それを独り占めできる嬉しさはあります。

勿論お客さんにとっても同じ事ですが、プロセスを目の当たりにしているのは自分だけですから。

修理に関しては「そういえば新品の頃はこんな感じでした!」みたいに喜んで頂けたりして、そういう反応も嬉しいです。

SP-1200カスタム

出典:ghostinmpc

–自身の音楽機材に対する思いとか、どんな思いで「ghostinmpc」をやられているのかを教えてください。

電子楽器、電気で動く物、その電気とはいえ自然現象の一つで、半導体にしろどんな電子部品にしろ、そもそも地球上にある物で作られている訳で、それを人間があれこれデザインして特定の役割を果たす様にしているのが機械。

機械は機械でしか無いのかもしれないけど、それを使う人間にとってはデジタルだろうがアナログだろうが関係無く愛着とか色々な感情があって、その先に「やっぱコレじゃないと」っていう、その思いがあってこそ成り立つ商売だと思っています。

元は量産品だからルックスも全部同じハズなのに、カスタムされた機材を他の人が見て驚いて、そうやって人の目を引く事でまた新しい依頼に繋がっていったり、その辺の連鎖はとても面白いです。

何というか、何故こんな物が存在しているのか?みたいな、ミュータント的な存在感を放つ物ができたら面白いですね。

最近オンラインストアーで一点物のカスタムMPCの販売も始めたので、色々貯めていたアイデアを実現させていくつもりです。あとは海外での反応が良いので、その辺も受注をスムーズに行える環境を作っていかないとな、と思っています。

yamahaカスタム

出典:ghostinmpc

–これからの動きがますます楽しみですね。最後に全国のMPC及びヴィンテージ機材ファン、カスタマイズファンにメッセージをよろしくおねがいします。

現行品は勿論の事、メーカーサポートの終了した機材等も修理やメンテナンスの対応が可能ですので、少しでも永くその機材と付き合って行くお手伝いができればと思っています。

その上で外観も自分好みにカスタマイズして、愛情を深めて貰えれば何よりです。

デザインに関しても大まかなアイデアを頂ければこちらでブラッシュアップしてご提案できますので、MPCに限らずどんな機種でもお気軽にお問合せ下さい。

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プロフィール:

ghostinmpc

ghostinmpc

出典:ghostinmpc

国内、海外問わずAKAI MPCシリーズを始めとする音楽機材のカスタマイズ、修理やメンテナンスを行うカスタムショップ。
メーカーサポートの終了した古い機材も対応可能。また、オンラインストアーでは一点物のカスタムMPCや交換用パーツ、MPC3000用ウッドパネル等のオリジナルパーツを販売。
これまでにカスタムを手掛けた主なアーティストはsequick(JAZZY SPORT)、Grooveman Spot(JAZZY SPORT)、budamonk(JAZZY SPORT)、ROCK-Tee、mabanua(Ovall)、DJ大自然、tom h@ck、8ronix、DJ ISO(MELLOW YELLOW)、OMSB(SIMI-LAB)、KILLER BONG(BLACK SMOKER RECORDS)、BABA(BLACK SMOKER RECORDS)、JUCO(Fullmember)、等々。

official web site: http://ghostinmpc.com/
online store: http://store.ghostinmpc.com/

トップ画像出典:ghostinmpc