コートジボワールを中心に人気爆発の『クープ・デカレ』。ベースミュージックアーティストが感じる魅力とは?

皆さんは「クープ・デカレ」って知っていますか?クープ・デカレとは、コートジボワール最大の都市アビジャンを中心に爆発的な人気を誇る音楽です。先日、このクープ・デカレのビデオミックスが、ベースミュージック・アーティストのXLII(シリー)から届いたのですが、どうやら最近クープ・デカレにハマっているらしく、ビデオミックスまで作ってしまったとのこと。見てみると、だいぶ変則的なリズムが連呼し、それに合わせてダンスする、ひたすらハイテンションな音楽。いきなりフェスにでも引き込まれたかのようなクープ・デカレって?そこで、XLII本人にクープ・デカレについて、いろいろと聞いてみました。

こちらが、XLIIが製作したクープ・デカレのビデオミックス「WELCOME TO ABIDJAN」です。まずはこちらのビデオミックスで、クープ・デカレのリズムとフットワークを体感してください!

XLII – WELCOME TO ABIDJAN

出典:YouTube

ヨーロッパの音楽と融合してフランスで誕生

ーーどのようにしてクープ・デカレを知ったんですか?

自分に良くあるパターンで、面白そうな言葉にすぐ反応しちゃうタイプなんですよ。どこかで「Roukaskas」って言葉を見て、どんな意味なんだろうと思って、いろいろ検索したら、YouTubeで訳が分からないブレークダンスみたいなダンスが出てきて。そのビデオの音楽もめちゃくちゃかっこ良くて、「何これ?!」ってなって。検索してもフランス語だし、ジボワールクレオルだったので、ジャンルすら分からず。とりあえず次々にリンクをクリックしていったら、何となくいろいろと分ってきました。

ーークープ・デカレのどこに興味をひかれたんですか?

いろいろです。いろいろっていうか、全部!全体的にめちゃくちゃかっこ良くない?打ち込みっぽいのに生バンドみたいなノリだし、歌ってると思ったらラップしてるし、そろそろテンション下がるんじゃないかと思ったら上がるし。あと多くの人はアフリカ大陸を全部一緒にしちゃうんですけど、アジアやヨーロッパのように色んな国があります。貧乏な国も金持ちな国も、治安がいい国も悪い国もあるので、ちょっとそういう印象を壊したいなと思っていたタイミングで「クープ・デカレ」に出会って。なので、このビデオでそういう印象を少しでも壊せたらいいなと思います。

xlii-coupe-decale-1出典:しろやま日記

ーーだいぶ陽気な音楽ですが、どんな音楽がルーツになっているんですか?

実はジボワールの音楽じゃなくて、元々はパリで始まったらしいです。クープ・デカレっていう名前自体もかなり新しくて、10〜13年ぐらいの歴史しかないんです。コートジボワールは、元々フランスの植民地で、フランス生まれやフランス在住のジボワール人がたくさんいます。彼らは当時フランスやヨーロッパの音楽をジボワールの音楽と混ぜて、イベントでかけたりして、それで流行ったらしいです。

その音楽がパリからアビジャンに流れて、爆発的に流行りました。クリアなルーツはないですけど、昔のコートジボワールのズーグルー(Zouglou)、ラガ(Ragga)やズーク(Zouk)などの影響が強いですね。ズークは、フランスのカリビアン植民地のマルティニークなどのメインジャンルなので、そちらの影響もあるかもしれません。

出典:YouTube

コートジボワールのベースミュージック

ーーコートジボワールの若い子には、一番人気のある音楽なんですか?

一番人気があるかは分からないですが、クープ・デカレのトップアーティストDJ ARAFATは世界中で有名なコートジボワールのセレブサッカー選手ドログバなんかとテレビのトーク番組に出たり、フランス語圏の国のフェスのヘッドライナーとして出演していたりするので、それぐらいの人気はあると思います。

もちろん、クープ・デカレだけじゃないですけどね。なぜか分らないけど、コートジボワール人は、みんなめちゃくちゃセンスが良くて。実は今アビジャン・ヒップホップなどにもハマってて、めっちゃかっこいいんですよ。ずるいぐらいかっこいいですね(笑)。

ーーアビジャン・ヒップホップっていうのもあるんですか?それまた、気になりますが、どんな感じなんですか?

まだ、そこまで詳しくはないですけど、Kiff No Beatってバンドが個人的にかなりキテます。とくにCa Gate Coeur(むかつくわ!という意味)とかTu es dans painは、アメリカのメジャーヒップホップに大きな影響を受けたトラップ的なトラックなんですけど、シンセとフックにめっちゃハマりますね。この前、この曲をクラブでかけたら、いろんな人に「あの曲なに?」って聴かれました。

このKiff No Beatは、前にちょっとだけクープ・デカレもやったりしてて、そういうのを見ると、ジャンルは違っても、好きになった音楽をやるのって、どこの国でも一緒なんだなって思いますね。少し前のトラックですけど、Tia Blackberryのシンセのサウンドとビデオもシンプルでかっこいいですね。

出典:YouTube

あとはFlow2oufっていうアーティストが先日リリースしたトラックもアメリカのメジャーヒップホップの影響が強くて、かなりおもしいですね。アフリカの多くの国はアメリカみたいに裕福じゃないから、ゲットーに住む人達もたくさんいます。それが、アメリカのゲットーで生まれた音楽に影響を受けて、フランス語圏のコートジボワールでそういう音楽やってるのって、意味深く感じますよね。意味を持たせるために、あえてやってるのかなと思いますけど。。。(笑)

ーークープ・デカレとアビジャン・ヒップホップのシーンはリンクしていたりするんですか?

いろんな場面でリンクしているとは思います。ここ数年、日本でも同じようにヒップホップが、ダブステップやエレクトロ、そしてレゲエなんかとクロスオーバーして、それらをまとめてベースミュージックと呼ぶようになりました。

もちろんヒップホップはヒップホップだし、ダンスミュージックはダンスミュージックだけど、トラップ的な今っぽいヒップホップを、ベースミュージックとして認識しててもおかしくない。むしろ普通かも。そういう意味では、クープ・デカレはおそらくコートジボワールのベースミュージックといえると思います。

そのようなシーンがあって、いろんなアーティスト、音楽がつながる。Teddy BenzoやKedjevaraのトラックにフィーチャーされてるBANA C4なんかもヒップホップのトラックの方が多いと思います。今は、世界中どこでも同じですよね。西アフリカのヒップホップミックスも作ろうと思ってるので、その時はまたよろしくお願いします!(笑)

出典:YouTube

生演奏と打ち込みがミックスされた難解なリズム

ーークープ・デカレはコートジボワール以外の国でも流行っているんですか?

フランスもそうですけど、フランス語圏の他のアフリカの国でもかなり流行ってるらしいです。ビデオを注意深く見てくれた人は、もしかしたら気づいたかもしれないですが、このミックスでも一曲目のTeddy Benzo feat. Bana C4は、実はフランスやベルギー系のコンゴ人なんです。ジボワール人よりもうちょっと固いですね。

その次のToofanっていうバンドとコラボしたことのあるKollinsは、コートジボワールから2つくらい離れたトーゴのアーティストなんです。トーゴ自体は天国みたいな国で、美しいビーチがあってのんびりしたライフスタイルを送ってるみたいなんですけど、ToofanやKollinsの雰囲気はかなり柔らかくて、かわいくて、トーゴっぽさが出てますよね。

その他にも、隣のマリとブルキナファソにもクープ・デカレのシーンがあるみたいです。ちなみに、Tal BのHalalaっていうトラックはオススメです。マリ語でラップしてるから、やっぱ雰囲気が違いますね。英語圏のガーナやナイジェリアにも、どんどん流れていってるらしいです。

ーーボーカルは、歌とラップが混ざり合ったような感じですが、基本的に何を歌っているんですか?

フランス語喋れないし、クレオルもかなり混じってるから、正直分らないけど、かなりシンプルな内容っぽいですよ。良く聴く繰り返しも多いし、ダンスのガイド的な内容もかなり多いみたいです。DJ ArafatのGbobolorとか聴くと「左左左!」「右右右!」「ゾンビーウォーク!」的なこといったりもしてるって友達が言ってました(笑)。

DJ LEOの曲は基本的に人生の素晴らしさ。毎日仲間と食べて、遊んで、飲んで、踊って、最高じゃーん!?みたいな内容らしいです(笑)。あとは愛とか、かなり普通の歌詞も多いみたいですね。

出典:YouTube

ーー生演奏のようなリズムが常に鳴り続けていますが、クープ・デカレのリズムの特徴を教えてください。

正直そこは自分もかなり気になってて。フランス語だし、YouTubeに「How to make Coupe Decale」とか一切ないので確実なことは言えないですけど、自分の耳で聴いたことと、YouTubeなどで見た自分の印象だと、生と打ち込みが混じった感じがメインっぽいですね。

トラックのBPMは、基本的に137とか140とかキレイに揃ってるので、間違いなくDAWは使ってますね。多分スタジオでいろいろ録って、その後コピペしたり合わせたりしてるんじゃないかなと。それで、ほぼ全曲にドラムブレークが入ってて、その上にヒューマンビートボックスみたいに同じリズムをハメてるのもフリースタイルっぽい。全体的にアドリブが多いと思います。

特徴は、個人的には、リズムの謎な難しさですね。簡単そうに聴こえて、作ろうと思ったんですけど、普通に無理でした(笑)。特に変なタイミングでひたすらスネアのダブルタップなんかは、かなり不思議ですね。キック以外ほとんどオッフグリッドだし、ぶつかってるようなぶつかってないような微妙なラインのリズムもいっぱいあって、おもしろいです。

クープ・デカレが辿る進化

ーー個人的にはビデオの21分位からの「フクシマ、フクシマ」連呼してるトラックがお気に入りですが、XLIIのお気に入りのトラックはどれですか?

やっぱフクシマでしょ!あのトラックはバイブスも良いし、映像もめちゃくちゃかっこ良くて、オシャレだし、それで、世界中に「フクシマ!フクシマ!フクシマ!」っていうニュース吐き続けて。もう「怖い/危ない=福島」みたいな雰囲気になってたけど、Zepekegnoがあんな軽くて、楽しそうに「フクシマ」を歌ってくれて、明るさが戻ってきた感じがしますよね。「福島めっちゃいいところですよ。」って世界の皆にどうにか理解してもらいたいな。

出典:YouTube

ノリ的には、GervinhoのFoumalouってトラックは、音も映像もめちゃくちゃ雑で、アレンジが他と比べてシンプルなのに、すぐにハマるし、2分ちょっとのトラックで無駄が一切なくて良いですね。あとは、やっぱりDJ ARAFATのGbobolor。ARAFATは何やっても全部かっこいいから、ずるいです。ちなみにイントロの謎の映像もARAFATが仲間と遊んでる映像です(笑)。

ーー今後、クープ・デカレを自分のトラックに取り入れたりしますか?

取り入れたいけど、やっぱり難しいですよね。その場にも居ないし、その文化もネットでしか見たことないから、多分クープ・デカレを作ろうとしたら、全く関係ない音が出るかもしれません。でも、いっぱい聴いて、いろいろと凄く勉強になりました。

特にリズムの打ち込みとアレンジは本当に本当に勉強になります。この数年どのジャンルでも全部同じアレンジになってて、8小節8小節4小節16小節とか。。。クープ・デカレを聴くと、2小節3小節7小節6小節6小節4小節12小節1小節1小節半半半とかなってて。。。もう本当に「なんじゃこりゃ?!」ってなります。

ただ、よく聴くと、不自然さはないんですよね。全てがあのタイミングで完璧に聴こえるので、そこはやっぱり取り入れたいですね。どうやって不自然そうなアレンジを自然に聴かせられるの?ってところはクープ・デカレの一番勉強になるところです。来年は、アビジャンに行って皆に会ってみたいです。

ーー今後、クープ・デカレはどのように進化すると思いますか?

他のジャンルと同じように盛り上がって、デカくなって、流行って、お金が増えて、昔の良さを失って、消えそうになって、復活して、元に戻ってって感じで、生き続けていくんじゃないですかね。

でも、自分みたいな実際にそのシーンに一切関係ない人が発見して、どんどん現地から離れていって、FootworkやZoukやKuduroやMoombatonのように広がる可能性もあるんじゃないかと思います。アフリカに行ったことがなくて、シーンに一切関係ない人が作ってみたら、クープ・デカレが生まれるかどうか分らないですけど、何かおもしろいものが生まれるのは間違いないと思います。

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インタビューから、ウェブが発達した現代では、世界中どこの国でも同じようなシーンが存在して、それぞれがリンクしながら、発展を続けているというのがよく分かります。アフリカの音楽を起源にアメリカやヨーロッパで誕生した音楽が、アフリカに帰還して、さらなる進化を遂げる。インタビュー中で紹介した、ZepekegnoのFOKOCHIMAでは、日本の民謡の要素が取り入れられていますが、まさかそんなトラックがアフリカにあるなんて想像すらしていませんでした。

このような流れを見ると、今後は、その音楽の起源の地から遠く離れた場所で、独自に理解された新しい音楽が誕生するということも珍しくないのかもしれませんね。そう考えると、まだまだおもしろい音楽に出会えそうな気がします。音楽のジャンルレス化は、今後さらに進んでいきそうです。

XLII (XXX$$$ | Civil Music | Raid System)

xlii-coupe-decale-1

ロンドンのキーレーベルCivil Music, Ninja Tune等からのリリース、日本ではCHEHON、SHINGO☆西成、DJ KENTAROとのコラボやリミックスで世界を股にかけて活動中のXLII。現在DJ SARASAとのユニットXXX$$$(エクセス)のトロピカル暴動サウンド爆発のライブにも注目が集まっており、2015 ULTRA JAPANのメインステージではその本領発揮が期待される。

XLII OFFICIAL WEBSITE:http://xliimusic.com/