夏だ!野外だ!ライブしよう!

悪天候続きの7月も終わり、ここにきてようやく夏本番到来、野外で遊ぶのが楽しい季節になりました。今年になって野外パーティーなどでも、ラップトップを使ったエレクトロニックなライブアクトが増えてきた印象があります。今回はそのライブについて書いてみたいと思います。

ラップトップライブの歴史〜Ableton Liveの登場

僕の記憶では、1990年代の終わりあたりからラップトップを使用したライブが出現してきたと思います。この時代のPCはCPUが500MHz程度なので、ハードウェア音源を鳴らすMIDIシーケンサーとして使うか、オーディオトラックを再生する程度の処理能力しかありませんでした。しかし、ハードウェアだけで同じことをやると大規模なシステムになるので、ラップトップのお陰でクラブなど小さな会場でもライブ出来るようになってきました。

そんな中、2001年にオーディオ素材をループさせることに特化したAbleton Liveが登場しました。リリースされた当初はMIDIも使えず大して売れませんでしたが、2004年に発売されたバージョン4でMIDIが搭載されてから飛躍的にユーザーを増やします。この頃にはCPUも1.5GHz程度になり、徐々にソフトウェア音源やエフェクトを使える可能になり、ライブでラップトップを使っている光景を目にすることが増えてきました。

abletonlive2live.l出典:Ableton

2010年を過ぎるとCPUは2GHzを超えてコアも4個に増え、全てをラップトップ内部で完結させるには十分なマシンパワーを備えるようになりました。その次はそのソフトウェア音源を楽器のように演奏できるコントローラーのNative Instruments / MaschineやAKAI Professional / APC40、Ableton / Pushなどが登場します。また、KORG / Volcaシリーズなどライブ向きな小型のテーブルトップシンセが登場し、最近ではモジュラーシンセも普及してきて、こうしたハードウェアとラップトップを組み合わせて使う人も増えてきました。

rural_60photo by jiroken

現在のラップトップを使ったライブの例としては、雑誌「サウンド&レコーディングマガジン」2015年7月号の”ハードで刻むマシン・グルーブ頂上対決”で特集が組まれています。YouTubeに僕とSeihoさん・O.N.O.さんの3人が実際にハードウェアを使ってパフォーマンスしている動画があり、誌面の方にはその動画でどういうシステムを組んで何をしていたのか手の内が細かく掲載されている面白い特集です。

こうしてみてみると、ラップトップを使ったライブは近年になってようやく演奏出来るようになって来た状況で、まだまだ歴史は浅く発展の余地はありそうです。

野外パーティー「rural」に出演

rural_24photo by jiroken

ちょうどこの記事を執筆中に野外パーティーのrural 2015に出演するので、このライブについて書いてみようと思います。
今回出演するruralは、フジロックの会場から山を1つ越えた新潟県津南町の山の中で7/18-20の3日間にわたり繰り広げられる野外パーティー。企業が主催するコマーシャルな「夏フェス」とは違って、個人により主催されているこだわりとDIY感覚溢れるパーティーです。ruralには2年前にも出演していますが、今年はライブが倍以上に増えていました。

僕が会場入りしたのは初日の7月18日の昼間。出番は翌日の20:30なので出番まであと32時間あります。野外パーティーの場合は日が落ちてしまうと視界がきかなくなるので、明るいうちに会場を一通り回って地理を把握したり知り合いを探したりするようにしています。

メインステージでは、最近日本でも使われ始めているVOIDというイギリスのメーカーのスピーカーを使用。見た目がアニメっぽいようなそうでないような感じですごいですが、音のキャラは低域がクリアでパワフル、中域から上は柔らかめで抜けが良く、意外とジャンルを選ばないキャラです。

IMG_3945photo by KAMI

また、野外パーティーは山間部で行われることが多いため天候が変わりやすく、熱中症になったり夜の雨に凍えたりして時に過酷な環境になります。また、このエリアの梅雨明けは8月上旬なので雨の多い時期でもあります。ライブの前に限界を迎えないよう、遊びたい気持ちを抑えて休息を取ります。

ライブ当日~機材は少なめに

さて、2日目になりました。この日は20:30から本番なので体力をセーブしつつ、大体2時間くらい前から機材のセッティングをします。普段のクラブの現場では、オープン前に会場入りしてサウンドチェックしますが、僕が出演するIndoor Stageは72時間音が鳴りっぱなしのため事前のサウンドチェックは不可能。そのため機材をセッティングしたらぶっつけ本番でライブを行います。いずれにせよPAエンジニアとの連携が重要になってくるので、要望を伝えたりしてコミュニケーションをとるうちに仲良くなったりしてきます。

今回、僕のライブは90分間のセットで、左下からAbleton Suite 9がインストールされた Macbook Pro、Ableton / Push、AKAI Professional / APC40mk2に、中央にシンセのWardolf / Rocket、その右にリズムマシンのAKAI / Rhythm Wolfがあります。ruralは夜間真っ暗に近い状態になるので、明るいうちに機材のセッティングをしました。

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機材をなるべく減らすため、オーディオ・インターフェイスはUSBハブ機能のあるNovation / AudioHub 2×4を使用し、その上にジェスチャーでコントロールするLeap Motionを乗せています。

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使用機材などは、事前にテックライダーと呼ばれる機材のリストや配線などセッティングをまとめた図を提出します。このテックライダーを通して、僕がどんな機材を持ち込んで何を必要としているのかPAエンジニアやイベントのオーガナイザーに伝えることができます。

KOYAS テックライダー 2015 07

ライブをやる時について回るのが大量の荷物。ライブ機材は移動の度に何度も組んではバラすので、なるべく簡単なセッティングにしたいところ。機材が多くなると機材の置き場所が足りなかったり、マシントラブルなどのデメリットがありますし、セッティングだけで体力を消耗します。個人的な経験では、機材のセッティングに30分もかかる場合は機材が多すぎかもしれません。

陽も落ちていよいよ本番

こちらの写真はライブ直前のものですが、この暗さでセッティングするのはちょっと大変です。左端にラップトップがありますが、画面が明るいと顔が下から照らされて見た目がよろしくないので、画面は輝度を最小限まで落としています。こうした現場では、手元を照らす小さなライトが必要な時もあります。明るいライトだと使いづらいので、100均で売っているようなUSB接続のライトがちょうど良く、今回は奮発してIKEAのJANSJÖというUSB接続のライトを使いました。

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僕のライブはAbleton Liveのセッションビューを使って、楽曲をいくつかのトラックに分解して、それぞれをDJのようにミックスしたり、シンセの音色を変えて展開を作るアプローチをとっています。また、これらのトラックの上に、Pushでハードウェアの楽器を演奏するといった即興の要素も入れられるようにしていて、曲の尺を柔軟に変えられるよう、Ableton Live内でループするシーンと展開するシーンを分けてつくっています。

以前シンセをコントロールするのに紹介したLeap Motionは、今回AKAI Rhythm Wolfの後段にインサートしたマルチエフェクターのVSTプラグイン=Sugarbytes Turnadoに割当てています。片手で様々なエフェクトをコントロールできるようにしていて、手の上下でビートが細かく刻まれ、手の左右でリバーブがかかり、手をひねると音程が落ちたりします。

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今回は周囲の協力もあり、特にトラブルも無く無事にライブを終えることが出来ました。終了後は、家に残してきた家族のことは忘れ、羽を伸ばしまくって翌日帰宅しました。

rural_55photo by jiroken

こうやって大の大人達がこの3日間のために何ヶ月も準備期間を費やし、音楽という一つのキーワードを軸にDJやライブアクトだけではなく運営や音響・デコレーション・会場整備など多くの人たちが力を合わせて繋がっているのを見ると、パーティーというものの面白さを感じます。もちろんそれはDJでも同じなのですが、ライブだと機材の持ち運びや演奏など関わる人が多い分、別の楽しさがあります。こうしたエレクトロニックなライブはまだまだ発展途上で、機材の進歩と共に出来ることも増えていきます。こうして段々と変化していくライブのあり方も面白いのではないでしょうか。

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IMG_4818photo by KAMI

トップ画像出典: jiroken