水中で回るレコードが作り出す哀愁的な世界。ターンテーブルが生む美しい波紋と音楽に浸るインスタレーション

レコードが回る映像を思い浮かべてみてくださいと言われた時、はたしてどれくらいの人が、水中で回るレコードを思い浮かべるでしょうか?普通なら、部屋の一角に置かれたターンテーブルで回り続けるレコードをイメージするはずです。しかし、アートの世界において普通は存在しません。

アーティストのEvan Holmが、2013年にサンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)で展示したインスタレーションアートでは、水中で再生されるレコードを使用して、現代社会の問題を提起しています。

出典:Vimeo

作品のコンセプトについてHolmのコメントが、海外メディアDangerous Mindsに掲載されています。

「ゆっくりと広がる宇宙下の地盤に、人間文化のすべての投影が押しやられ、溶けて薄れていくだろう。黒くて浅いプールは崩壊を表し、またそれは人類の総体的な潜在意識を表している。どんよりと暗いプールの水面下にレコードを置くことで、私はこの崩壊に対して、小さな後悔の瞬間を演じているんだ。」

彼はこの作品を通して、人間による浪費や崩壊によって、世界が日常的に破壊されていることに対しての悲しみを表現しています。黒い水槽に置かれたターンテーブルによって描き出される美しい波紋はまるで、日常の中に出現したブラックホールのようです。その水面に写し出される大きな枯れ木の姿は波紋によって歪められ、あたかも崩壊しながらブラックホールに吸い込まれていく自然そのもののようにも感じます。

出典:Vimeo

1975年のドナ・サマーのヒット曲「Love to Love You Baby」が流れる光景を見つめていると、レコードが奏でるメロディが、今この瞬間も崩壊し、浪費され続けている自然に対しての鎮魂歌のようにも聴こえてきます。

引用元:Dangerous Minds