アーティストが教える音楽制作術 Vol.3:『TORAIZ SP-16』と『AS-1』だけでEDMトラックの制作にチャレンジ

PCを使わずにPioneer DJの楽曲制作機材=TORAIZシリーズだけで、曲作りをしてみよう、というメイキング企画の第三弾。今回は、ダンスミュージックの中でもとりわけ勢いのある、EDMの制作方法を紹介していきます。ひとくちにEDMといっても、ジャンルの幅は実に広く、トラップ・ミュージックとも言えるものや、トランスに近いものなどスタイルは様々です。

今回参考にしたトラックは、Jack ÜのTake Ü Thereです。Jack ÜはSkrillexとDiploによるユニットで、グラミー賞も受賞しているのでおなじみだと思います。彼らのトラックの特徴は、ラジオ向きなポップな美しさと、ダンスフロアーで映えるパワフルで“ワル”な要素を同時に兼ね備えているところです。

EDMの一般的な構成は以下の通りです。今回は以下のセクションごとにパターンを作成して、最後にアレンジャーで曲を構築していきます。

  • イントロ
  • ビルドアップ
  • ドロップ

ループ素材を使ってイントロを作る

まずはイントロを作っていきましょう。イントロは一般的な曲でもおなじみのセクションなので、特別な説明はいらないと思いますが、トラックの導入部分や、トラックの途中でドラムが抜けて一旦落ち着く場所を指します。

SP-16にはループ素材も多数用意されています。ループを活用することで、トラックのクオリティを手軽に向上させることができます。

ドロップのビートメイキング

続いてドロップを作っていきましょう。ドロップとは、一般的にトラックの中で最も盛り上がるセクションを指します。綺麗目なイントロから、ドロップで“ワル”なトラップ・ミュージックのビートに転換することで、曲の展開に良い意味で裏切り感を与えてみたいと思います。

それではステップレコーディングで、ビートのパターンを構築していきます。

ハイハットの入力に、タッチストリップリピートモードを使用してみました。動画のように、16分や32分などの細かな値で入力する場合でも、ズレることなく正確に録音できるので、とても便利です。

AS-1をサンプリングしてリードを加える

次にドロップの要とも言えるリードを入力していきましょう。一般的なEDMでは、メインとなるメロディ(ボーカルが入らない場合)にリードが使われています。リードをモノフォニックにして、Glide(ポルタメント)機能でレイジーな雰囲気を出す、というようなテクニックが用いられたりします。

EDMの重要な要素のひとつリードには、アナログシンセならではのパワフルなサウンドが魅力のAS-1を使用します。ここでは、SP-16でシーケンスを作成してAS-1を演奏し、そのサウンドをSP-16にサンプリング。サンプリングしたサンプルを使って、リードのパターンを作成します。

AS-1はちょっとしたパラメータの調整だけで、簡単にサウンドメイキングすることができます。モダンなトラック作りに欠かせない最新の音色が、多数用意されていることもAS-1の魅力です。

FXを加えてドロップに厚みを出す

EDMではFX(サウンドエフェクト)が、次のセクションへのスムーズな移行や、セクションを盛り上げていくために、重要な役割を果たします。FXには定番な使われ方がいくつかあり、機能によって”Riser”、”Sweep”、”White noise fall”、”White noise wind_up”などと呼ばれることがあります。

FXは本来、シンセを駆使してひとつひとつ作っていくのが理想的ですが、ここではSP-16に搭載されているサンプル素材を使って、作成してみました。

EDMでは”Hey!”や”Yo!”などの、”Chant”と呼ばれる短いボイスサンプルもしばしば使われます。付属のサンプル素材にエフェクトを加えたり、長さを調整したり、反転させたりと、様々なアプローチでオリジナルな音作りができると思います。

AS-1でビルドアップのベースを作る

続いてビルドアップを作っていきましょう。ビルドアップの役割は、イントロから徐々に盛り上げていき、ドロップへ移行するためのつなぎのセクションとなります。ビルドアップのパターンは、イントロで使用したパターンを活用して、作成していきます。既存のパターンをコピー&ペーストして新たなパターンを作成する手法は、打ち込みにおいて最も手軽な手法です。

ベースの音色は、先ほど作成したリードと同様に、AS-1に内蔵されているプリセット音を使用します。

ベースの入力にはスケール機能を使用してみました。一般的に曲にはキー(調性)があり、使用されるスケールというものがあります。スケールに沿ったメロディは、曲の調性から外れることなく、曲にフィットすると言われています。

ただしJack Üや最近のトラップ・ミュージックなどでは、スケール外の音をあえて使って、“ワル”な雰囲気を表現する場合も多々あります。

ビルドアップにドラムロールを加える

次にビルドアップでよく用いられる、スネアのロールやフィルインを入力していきましょう。スネアの連打が段々と細かくなっていき、気分を盛り上げてドロップへとつなげていきます。フィルインはドロップの直前に入り、セクションの移行をスムーズに行なう役割を果たします。

アレンジメントで曲を構築する

最後に、これまで作成した3つのセクションをアレンジャーで並べて、トラックのアレンジを行なっていきましょう。各セクションでは、上記までに紹介した4小節のパターンを元に、FXなどを足すなどして、パターンを16小節に拡張しました。

つまりイントロで16小節、ビルドアップで16小節、ドロップで16小節といった具合です。ただし今回は、ドロップをリピートしたままフェードアウトして終わらせたいので、最後のパターンだけリピート回数を増やしてみます。

アレンジャーでは、何番のシーンの、何番のパターンを、何回繰り返すか、を設定してあげることで、アレンジメントを構成することができます。パターンごとにBPMを変えることもできるので、ドラスティックなアレンジメントも可能です。

ハードウェアによる快楽

実際にToraizで制作を行なってみて、PCで制作するのとは違う楽しみを感じることができました。Toraizのハードウェアの作りは、さすがPioneer DJといった感じで、とても良くできているなという印象的です。PCを見ることなく作業できるので、より制作に集中することができます。

AS-1からSP-16へのサンプリングはとてもスムーズで、AS-1のフレーズを簡単にサンプルとして使用することができました。また、マスターテンポに合わせてパターンやループのBPMを変更してくれる、タイムストレッチ機能のクオリティも素晴らしく、オリジナルのループ素材でライブセットを構築したら、エキサイティングではないかと感じます。

AS-1は洗練されたプリセットが多く、そのまま使えるサウンドがぎっしりと詰まっています。昨今、コンパクトなアナログシンセが多数リリースされています。このカテゴリでシンセをお探しの方にとって、AS-1は間違いのない製品のひとつと言えるでしょう。

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