トリッキーなリズムと掴みどころのない上音で注目を集めるダンスミュージック『ジューク』の意外に深い歴史

ジュークという音楽をご存知ですか?ここ最近、世界的に注目されているダンスミュージックです。

さまざまなアーティストが注目するジューク

「これがダンスミュージック?」と思ってしまう程、かなりアグレッシブなジュークですが、最近では様々な方面のアーティストに取り入れられ、オリジナルのスタイルとして確立されつつあります。上部の動画のトラックは、ダブステップの大御所レーベル「Hyper Dub」からリリースされた作品ですが、この Hyper Dub のオーナーであり世界的に有名なアーティストとしても活動する kode 9 は、近年、自身のパフォーマンスに積極的にジュークを取り入れているようです。

シカゴハウスから派生したジュークカルチャー

そんな世界的に注目を集めるジュークですが、発祥はアメリカのシカゴ。シカゴハウスやシカゴ音響、古くはジャズやブルースの歴史的にも非常に重要な音楽の発信地域ですね。そんな地域で日常的に音楽を愛する人達が集まると、、、
体全体で音楽を楽しみたくなる、というのが人というもの。ジュークも、フットワークなどと呼ばれる独特のダンスとワンセットで語られる事が多い音楽です。

「なんだこれ???」って感じで、とにかく見入ってしまいますね。ジュークはそもそも、このフットワークを踊るために進化してきたという側面もあり、フットワークとジュークは切っても切れない関係にあります。

さて、そんな今注目を集めるジューク/フットワークですが、実はけっこう昔から存在しています。正確には、存在していたというより「ジューク/フットワークに至った」という方が正しいのですが、ジュークの源流は現在のクラブミュージックの源流の一つであるシカゴハウスにあります。それが徐々に変化して、今では「新しい」と言われるジュークへと進化しました。

逆に言えば、現地シカゴでは常にシカゴハウス〜ジュークに触れていたわけで、ことさら「新しい」という感覚はないという事です。例えるなら、海外の人が初めて日本で盆踊りを見たら「新しい!」と感じるのに近いかもしれません。ですから世界で捉えられている「新しい音楽」という感覚は、現地の人やオリジネーターからすれば「やっと注目された自分達の音楽」という具合でしょうか。

つまりは、一度は最盛期を迎えながら流行り廃りの流れが起こり、多くの人達から見向きもされなくなってしまった時を経て、ジュークに辿り着いたという流れがあるのです。最近降って沸いた音楽ではなく、ちょっとした歴史があって実はかなり奥深いのです。

シカゴアーティストのトラックはあっさりが基本

シカゴアーティストのマスタリング前のトラックは、思いのほかあっさりとしたサウンドだったりする事が多いです。恐らくは日本人的感覚でいう「作り込み」よりは天性の感覚でサラッと作っては次へ行く、という流れなのでしょう。しかも MPC などの古いマシンを使って制作する事も多いので、DAW 環境に比べて再生帯域の狭いサウンドが用いられたりもしています。結果、音の分離が良く、各音声が際立った仕上がりで、つまり、あっさりするわけですね。この「こってり、あっさり論」は、ジュークに限った事ではなく、他のダンスミュージックやバンドミュージックも含めた様々な音楽で言える事なのですが、、、

日本独自のジュークを世界に発信する「Booty Tune」

そんなジュークを、10年来追いかけてきた日本人達によって運営されている「Booty Tune」という音楽レーベルがあります。Booty Tuneでは、本場シカゴのアーティストのトラックや、日本独自の進化を遂げた日本のジュークをリリースしていて、世界的にも注目されているレーベルです。

早耳の人達がジュークを知り始めた頃は、ジュークはより過激で、サンプリングを多用し、BPMが早い音楽である、と言うことばかりが取り上げられていましたが、近年はゆったりと聴けるトラックやミニマルテクノのような深く入り込んでしまうトラック、サンプルを使わずシンセサイザーの音色だけで勝負するトラックなど、非常に多様なスタイルが形成されつつあります。
そしてこの様相は、日本でも色濃くなっています。日本人のジュークアーティストは、歴史深いジュークのフォーマットをリスペクトしながら、より日本的な自分らしい音楽を模索している状況です。

私 toshiyuki kitazono は、この Booty Tune のマスタリングエンジニアを担当しています。その僕の実感として言わせてもらえば、日本人のアーティストは「今までなかった」アプローチをする人が多く、今新しいと言われるジュークを更にアップデートしようとしているのですが、それは反面、アイデアをミックスする段階で問題を起こしやすくなりがちです。つまり前例や参照できるサウンドが無いために、良いバランスを見出せないという事が起こりやすくなっています。特に頻繁に遭遇する問題は、「こってりし過ぎてる」というケース。

僕が何故こんな話をしているかと言いますと、今後 soundrope の読者の皆様へ、こうしたミックス・マスタリングのあれこれを紹介していくからなんですね〜
次回はこの「こってり、あっさり論」を踏まえて、何らかのお話をしようと思います。
よろしくね!

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トップ画像出典:Flickr