クールなダンスミュージックはキックから。パンチのあるキックドラムの作り方

キックドラムはトラックの表情を決めるとても重要な要素で、その使い方次第でトラックが良くも悪くもなり得ます。長年キックドラムと格闘してきたAbleton認定トレイナーのLenny Kiserが、クラブのサウンドシステムでパンチのあるファットなサウンドを演出してくれる、シンプルで効果的なキックドラムの作成テクニックを教えてくれました。

キックの入れ方にはたくさんのバリエーションがあり、プロデューサーは独自の方法でキックを作成しています。従って、ここで紹介する方法が正解という訳ではありませんが、パンチのあるキックの作成方法の一つとして参考にしてください。こちらの記事では、キックの作成方法における4つのポイントを紹介します。記事の最後に、キックの作成方法をまとめたチュートリアル動画も用意してありますので、是非そちらもチェックしてみてください。

編集追記:Ableton認定トレイナーのLennyは、彼の作品の中で様々なキックドラムを披露しています。まずは彼が手掛けたSTRFKRのリミックス”While I’m Alive”で、そのキックのバリエーションをチェックしてみてください。

出典:SoundCloud

1. より良いサンプルを選ぶ

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サンプル選びは非常に重要です。時間を惜しまずサンプルをひたすら探しましょう。ふと見つけたサンプルが、6時間かけて編集したサンプルより何十倍も良い場合もあります。サンプル探しには時間を取り、制作中にすぐ使用できるようにオーガナイズしておきましょう。良いサンプル選びのコツは次の通りです。

  • どのサンプルがマッチするのかを見極めるために、キックとベースを同時にプレイしましょう。
  • Ableton Liveのホットスワップ機能を使ってベースに合うキックを選びましょう。
  • チェインリストにいくつかのキックをロードして、チェイン・アクティベーター(下部画像)でまとめて試聴してみましょう。

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2. サンプルをレイヤーする

次のステップでは、中高域のキックをトップキック、低域のキックをボトムキックとして、異なるサンプルをレイヤーしてみましょう。

トップキックは「耳で聴く」のに対して、ボトムキックは「身体で感じる」という性質があります。それぞれのキックの同じ帯域がぶつかり合うのを避けるため、トップキックから低域を削り、ボトムキックと重ならないように調整しましょう。この処理方法にはたくさんの方法がありますが、個人的にはSimplerでハイパスを「24」に設定してフィルターを加えるのが良いと思います。

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2つのキックを一緒に鳴らしてみて、いい感じに音がまとまって響いていると感じるまで、トップキックのフィルターを調節しましょう。心地よく感じる周波数はサンプルによって違うため、自分の耳で丁度良いポイントを見つけてストップしましょう。この作業はサブウーファーか、50hz以下の低音が出せるヘッドフォンで行うことをオススメします。レイヤーのコツは次の通りです。

  • トップレイヤーにはキックドラムではなく、タムドラムやハイハット、ノイズを使用してみましょう。
  • キック間のボリュームバランスの調整には、チェインボリュームコントロールを使用しましょう。
  • さらに一歩踏み込んで、トップキック、ボディキック、サブキックレイヤーを作成してみましょう。

シンセのサブキックレイヤーを活用する

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シンセのサブキックを使うメリットは、サンプルよりも細かく調整できるところにあります。シンセのエンベロープを調整することで、アタックタイム(音を鳴らしてから最大音量に到達するまでの時間)とディケイタイム(最大音量から持続音量にいたるまでの時間)をコントロールできます。テンポの速いトラックに、アタックを早めに設定したキックを使用するとパンチのあるキックとなり、ディケイを長くすると太くて余韻のあるキックになります。リズムが命のダンスミュージックでは、テンポよくキックがはまることがとても重要です!

シンセのサブキックの制作方法にもたくさんの方法がありますが、以下にオススメの3つの方法を紹介します。

  • オペレーター・プリセットのSine Kickを使用する。
  • Max4Live Drumsynth Kick DeviceのFat Analog Kickを使用する。
  • キックシンセのBazzismをダウンロードする(有料VST、フリートライアルあり)

3. サンプル同士を加工して馴染ませる

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キックにレイヤーとフィルターを加えたら、今度は一つのキックとして聴こえるように加工していきます。私はコンプで音をまとめて、重なった帯域をEQでカットし、サチュレーションで温かみや厚み、ディストーションを加えます。このプロセスで紹介するチェインは全体の音に影響を及ぼすので、ぜひ覚えておいてください。私は、EQ-Comp-Saturation-EQのチェインが、最も調整しやすいと思います。

音加工のコツ:

  • ヘッドルームを確保するため、コンプをかける前にEQでカットします。その後再度EQでブーストして戻します。
  • コンプは、レシオは4:1-10:1、ゲインリダクションは1-6db、早~中程度のアタックタイム(1ms-10ms)で設定します。
  • 音の色付けにはサチュレーションを試してみましょう。「Analog Clip」で温かみを、「Hard Curve」ではかなり深い歪みを付加することができます。
  • キックのいくつかの帯域をブーストしてバッサリとカットしたり、8db以上ブーストしているなら、違うサンプルを探した方がいいかもしれません。
  • デバイス・アクティベーターを使って、加工前と後でチェインをA/Bに分けてグループ化し、オーディオエフェクト・ラックに登録します。

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4. トラックとキックのキーをチューニング

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曲のキーにチューニングされたキックは、ミックスによく馴染み、より音楽らしくなります。このためには、キックの基準周波数を知る必要があります。キックの周波数を知るために、EQ8かSpectrumの周波数表示を使用します。

周波数表示を開き、キックのピークあたりにカーソルを置きます。そうするとダイアログボックスが表示され、周波数とピッチが確認できます。Simplerでトランスポジション(移調)コントロールを使うか、シンセのチューニング及びピッチコントロールでキックの調子を合わせます。チューニングする前に、上の図のようなリファレンスチャートで音程と周波数を確認しておくと作業がはかどります。Drumsynth KickやBazzismであれば自動で対応してくれます。

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Tips:

  • キックの基準周波数と、それに対応するピッチについて調べておきましょう。例:41hz = E
  • チューニング・コントロールかピッチ・コントロールを使ってサブキックを曲のキーに合わせましょう。
  • 曲のキーがわからなければ、耳を使いましょう!キー判別ソフトの精度は60-70%なので、機械に頼らず自分の耳でトライしてみてください。(詳しくはこちらを参照)

まとめ動画

ここまでの内容を読んでも、いまいちピンと来ないという方は、下記の動画をご覧ください。上述したテクニックの解説や実際の操作方法を紹介しています。

キックドラムは時間を費やして仕上げる価値があります。より良いサンプル選び、レイヤー、加工とチューニングにより、トラックは輝きを放ち、オーディエンスは踊りたくなるはずです。何度も言うようですが、最も重要なことは良いキックのサンプルを見つけることです。the Mad Zach sample packsもチェックして、これだと思うキックを探してみてください。

Lenny Kiser:エレクトロニック・ミュージックプロデューサー、パフォーマー、オーディオエンジニア、インストラクター  Twitterはこちら

記事ソース:DJ Techtools