ヒップホップとの融合でダンスミュージック『グライム』がたどるメインストリームへの道筋

2000年代初頭に、ロンドンの公団住宅とパイレーツ・ラジオ(ラジオの海賊放送)から生まれたダンスミュージック「グライム」。日本ではそれほど馴染みのないグライムですが、イギリスでは辞書の「Chambers English Dictionary」に載ってしまうほどポピュラーな音楽です。ポピュラーミュージックとして広く知られるようになったグライムは、ヒップホップとの融合により新たな道筋を辿ろうとしているようです。

グライムとは?

イギリスの辞書「Chambers English Dictionary」によると、グライムは「ダンスホールとヒップホップの要素を融合させたポピュラーミュージックのスタイル」と定義されています。イギリスでは、ポピュラーミュージックの一つとして位置づけられているグライムは、90年代半ばのUKガラージをベースに、ヒップホップ、レゲエ、ドラムンベース、ジャングルなどの要素が混ざり合って誕生した音楽です。

https://www.youtube.com/watch?v=6nXlmZPI-9Y

出典:YouTube

グライムは、シーンを代表するアーティストのWileyにより現在のスタイルが確立されました。このWileyが、Dizzee Rascal、Tinchy Stryderと結成したグライム/UKガレージのチームRoll Deepがリリースした「Eskimo」が、グライム初のトラックと言われています。

グライムの歴史

ロンドンの若者を中心に流行したグライムは、どのように成長していったのでしょうか?ここでは、イギリスの大手メディアThe Guardianに掲載されたグライムに関するインフォグラフィックスを基に、その歴史をたどってみましょう。

grime-culture出典:The Guardian

グライムは、1997年にWileyがパイレーツ・ラジオでジャングルのビートでラップを始めたことに端を発します。当初はイーストロンドンを中心に、2000年にMore Fire Crewが2002年にRoll Deepが結成されました。その後ノースロンドンを拠点とするBoy Better Knowが登場するなど、ロンドンの広域に浸透していきました。

2002年からグライムと呼ばれ始め、いよいよ一つのジャンルとして確立されたグライムは、2003年に発売されたDizzie Rascalのファーストアルバム「Boy In Da Corner」がマーキュリー賞(その年のイギリスとアイルランドで最も優れたアルバムに送られる)を受賞したことで、その盛り上がりは頂点に達します。ちなみにグライム史上最も有名なアーティストは、5つのNo.1シングルを持つDizzie Rascalです。

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2013年にはイギリスの公共テレビ局Channel 4で、グライムをテーマにしたドラマ「Youngers」が放映されました。このことからも、イギリスでいかにグライムが一般的に浸透しているかがうかがえますね。そして、今年のブリット・アワード(英国最大級の音楽授賞式)でカニエ・ウエストが見せた、グライムのMCとのパフォーマンスは、世界中で話題となりました。

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メインストリーム化が進むグライムの今後

イギリスのアンダーグラウンドから生まれたグライムは、ここ数年ヒップホップとの接触が進んでいます。カニエ・ウエストのブリット・アワードでのパフォーマンスや、Jay-ZがRoll DeepのメンバーのTinchy Stryderとパートナーシップを結んだというニュースなどが、この動きを加速させようとしています。

あらゆる音楽が融合して確立されたグライムの歴史は、わずか13年ほど。誕生からの期間を考えると、短期間に大きな成長を遂げていることが分かりますが、今後のヒップホップとの融合により、グライムがヒップホップに影響を与えて、お互いに成長を遂げていくなんてことも十分にあり得ます。現代のヒップホップを象徴するカニエ・ウエストやJay-Zがフックアップしているその事実こそが、グライムのポテンシャルを表しているように思います。グライム・シーンの今後の動向に注目です。