周波数帯によって異なる人間の反応。ベースサウンドに『ノリ』を感じる理由とは?

先日、クラブの片隅でなんとなくダンスフロアーを眺めていた時のこと。フロアーで踊るオーディエンスの反応がトラックごとに違うことに気付きました。トラックの好みにより反応するのはもちろんですが、トラックの善し悪しにそこまでのばらつきも見られません。なぜだろうと暫く眺めていると、ベースなどの低い周波数帯域のサウンドが前に出ているトラックほど、オーディエンスの反応が大きくなることに気付きました。

一般的にその音楽を好きになる要因としては、中高域の周波数帯により構成されるメロディーが挙げられます。それらのメロディーに比べて、ベースのサウンドは低い周波数帯のため音像が分かりづらいものです。大好きなトラックのメロディは口ずさんでも、ベースラインを口ずさむ人は少ないはず。それほど低周波数帯のサウンドへの意識は低いのに、そのサウンドに反応してしまうのはなぜでしょうか?

bass-beat-2出典:Foter

低周波数帯への反応は人間の性質

この疑問について、McMaster Institute for Music and the Mind の所長であり、カナダのマクマスター大学の神経科学者でもある Laurel Trainor が実験を行いました。
この実験では、35名の被験者がパソコン上で再生される異なる周波数帯のピアノのサウンドを聴いた時の脳の活動などを解析しました。
実験の結果から、低周波数帯のサウンドがオフビート(四分の四拍子の場合、通常一拍と三拍にアクセントを置きますが、これを二拍と四拍に置く奏法)になった時、脳がより強く反応し、低周波数帯のサウンドに切り替わるタイミングで、指を使った拍子の取り方に変化が起こることが分かったそうです。

これらの結果は、人々が低周波数帯のサウンドでリズムの違いを見つけ易いと言うことを表していて、なぜ低周波数帯のサウンドを含むリズムに反応するのかと言うことの理由になります。音楽的な知識を持たない8名の参加者も同様の反応を示したことからも、低周波数帯のサウンドへの反応は、人間が本来持っている性質によるところが大きいと言えます。このような現象は、内耳にある音の振動を電気信号として脳に送る禍牛殻(かぎゅうかく)によるものではないかと考えられているそうです。

Laurel Trainor は、「リズム感に乏しいと言われる人々は、恐らく内耳の蝸牛殻に実質的な問題が起こっているとも考えられます。また、タイミングとリズムは脳内の異なる皮層とその範囲により処理されているので、この処理に問題があることも考えられます。」と語っています。

bass-beat-1出典:Foter

高周波数帯のサウンドが持つ役割

Laurel Trainor が以前に行った研究で、2つの高周波数帯のサウンドを同時に発音させると、人間の耳はサウンドを感知し易くなると言うことを発見したそうです。この結果は、メロディーが高周波数帯のサウンドを重ねて構成される理由を表しています。
Laurel Trainor は、「高周波数帯のサウンドは、音楽に重要なリズミックさを加えることができます。例えば、ジャズでは高周波数帯の楽器をオフビートで演奏することで、リズミックな雰囲気を引き立たせます。リズムは異なる楽器の相互作用により生まれるものなのです。そして、低周波数帯のサウンドがビートに融合されることで、人間が最も感知し易いビートが生まれるのです。」と語っています。

確かに、高周波数帯のサウンドは、トラックに疾走感を加えることができ、低周波数帯のサウンドを加えることで、トラックの存在感的なものを増すことができます。クリエイターが感覚的に感じていた部分が実験で証明された訳です。
人間の特性を理解することで、より多くの人に好まれるトラックが作れるようですが、そのような特性を気にしていては、自分本来の音楽を生み出すことは難しくなりそうな気もしてしまいます。

記事参照:livescience
トップ画像出典:Foter