Ableton認定トレーナーが語るLiveの歴史とその魅力。そして『Ableton Meetup Tokyo』の未来

エレクトロニックミュージックだけで無く、メディアアートなど音楽以外の分野にも使用される音楽制作ソフトウェアAbleton Live(以下、Live)のユーザーコミュニティーAbleton Meetup Tokyo(以下、Meetup)。

「多様性」をキーワードに、アーティストやエンジニアなど幅広い分野のLiveユーザーが登壇して「自分が得意とするLiveの使用方法」のプレゼンテーションが行われる人気イベントMeetupを運営するKoyasさんと斉藤さん、そしてイベントでMCを務めるCD HATAさんに、Liveの歴史やその特徴、Meetupの今後の展望について伺ってみました。

バンド系にも愛されるLiveの歴史

ーーLiveではどのようなことができるのでしょうか?Liveがどんなプロダクトなのかわからない方のために、簡単に説明をお願いします。

Koyas:音楽制作とライブパフォーマンスの両方をシームレスに行えるソフトウェアです。

CD HATA:普段は別のDAWを使用している人でも、ライブパフォーマンスではLiveを使用するという人は多いですね。やはりライブパフォーマンスに特化しているというのはありますね。

ーーLiveといえば打ち込みのイメージがありますが、バンド系などのミュージシャンにも使用されているのですね。

Koyas:CD HATAさんも使っていますからね(笑)。CD HATAさんはDachamboでどんな使い方をしているんですか?

CD HATA:Ableton Liveでシーケンスを再生させドラムにクリックを送り、バンドと同期させている曲もあります。ただDachamboは、楽曲の尺などが決まっていないので、Liveで流したオケにバンドが合わせるというよりは、バンドの演奏にオケを合わせていかなければいけないんです。これは他のDAWではできないことなんですよね。

斉藤:LiveにはNudgeボタンというものがあって、これを使うとトラックを少し早く再生させたり、少し遅く再生させたりすることができるので、DJ的な使い方もできます。

ーー確かにDAWにDJのピッチベンドのような機能は珍しいですね。多彩な機能を持つLiveの歴史について教えていただけますか?

Koyas:Ableton社が設立されたのが1999年で、Liveのバージョン1がリリースされたのは2001年です。

ーーAbleton社の創業者はどなたなのですか?

Koyas:現在のCEOでもあり、Monolakeのメンバーでもあったゲルハルド(Gerhard Behles)です。Liveのアイデア自体は、Monolakeのロバート・ヘンケなんですが、ロバート・ヘンケがMaxで作ったライブ用のパッチをソフトにしたのがLiveのバージョン1です。当時からUIはあまり変わっていないのですが、バージョン3まではMIDIトラックがなくオーディオだけでした。バージョン4からMIDIトラックが搭載されました。

ーーMIDIトラックが搭載されてから、Liveユーザーが増えていったのでしょうか?

Koyas:増えましたね。バージョン4からMIDIトラックが搭載されて、バージョン5でOperatorなどの追加インストルメントが搭載されました。そしてバージョン6で音が良くなりました(笑)。

DAWの歴史を変えたセッションビューは閃きの宝庫

ーーLiveには豊富な機能があると思いますが、みなさんが感じるLiveの特徴を教えてください。

CD HATA:やっぱり、音を止めずに曲作りができるところですね。イメージしたことを形にする時に時間差があると、どういうことやろうとしてたっけ?みたいなことがあると思うんですけど、止めずに曲作りできるから、とてもクリエイティブですね。時間はすごく大切ですから。

斉藤:一般的なDAWソフトでは、一つ一つの音を作りながら確認していくというのがプロセスだと思うんですけど、Live特有のセッションビューでは、ループ素材を流しながらアレンジビューにスケッチしていけるので、サウンドを偶発的に生み出すことができます。常に音楽を感じながら作業できるので、インスピレーションが沸きやすいというのはありますね。

ーーLiveでは、セッションビューに並べたループをアレンジビューに書き出して、トラックを構築していくというのが一般的なのでしょうか?

斉藤:そうですね。セッションビューを再生しつつ録音ボタンを押すと、アレンジメントビューに全ての操作子、例えばフェーダーの動きなども記録されていくんです。そこがとても魅力的なところだと思います。

Koyas:セッションビューはDAWの歴史においてかなり画期的なものですよね。それまでのDAWは左から右に時間軸が流れていたんですが、セッションビューはその時間軸の束縛から解放されていて、ずっとループもできるし、フォローアクションなどの機能を使うと、例えば8小節再生させたら次のクリップへ移動するということもできます。

CD HATA:Live以前のDAWはMTRの延長といった感じですが、Liveはサンプラーの延長線上にあるDAWという印象です。

ーーLiveでパフォーマンスする時は、クリップでループをどんどん切り替えていく感じなんでしょうか?

斉藤:僕の場合、例えば2曲は完全にクリップだけでトラックを作ったり、3曲目は演奏してメロディーを加えたりと、自分の中で曲の役割を決めていますね。

Koyas:確かに、ずっとクリップを切り替えているだけだと、マンネリというかダラダラしてしまいますからね(笑)。

CD HATA:Koyasくんとインプロ打ち込みユニットをやってた時は、クリップは全く作らず音色だけを並べておいて、その場でクリップを作ってはループさせてという形でやっていました。

Koyas:その頃はまだAbleton Link機能がなかったから手動で同期させていましたよね(笑)。

ーーAbleton Linkのお話が出ましたが、Ableton Linkとはどのような機能なのですか?

Koyas:WiFiでLiveや、Link機能に対応したiOSアプリなどを同期させる機能です。

ーーLiveを軸にして、対応アプリを同期させるという機能なのですね。

Koyas:Linkは、Liveが無くても使えるんですよ。MIDI同期の場合マスターとスレーブを設定する必要がありますが、Linkの場合はそういった概念がないので、例えば複数人でパフォーマンスする場合、誰かがシーケンスを止めても、他の人のシーケンスが止まることはないんです。

ーーこれだけ魅力的な機能が搭載されているLiveなら、世界中にユーザーが多そうですね。

Koyas:昨年開催されたLoopでCEOが語っていたのですが、オフィシャル・ユーザーが230万人、アンオフィシャル・ユーザーが500万人ということでした(笑)。でも、アンオフィシャル・ユーザーはけしからん!みたいなのは一切感じませんでしたね(笑)。

アーティストの使い方がわかるプレゼンテーション

ーー皆さんはLiveの伝道師として、Meetupを運営されていますが、どのようなコンセプトでイベントを開催されているのでしょうか?

Koyas:Meetupは、音楽を作る人の交流会です。これはロバート・ヘンケが言っていたことですが、打ち込みで音楽を制作する場合、1人での作業が多くなります。そういう人たちが集まれる場所として、意見交換だったり、お互いのアイデアを共有したりするような場として、活用してもらえればと思っています。

CD HATA:教える、習うとかじゃなくて、来場者同士で情報交換をする場ですね。例えば「Liveのこんな使い方あるけど、みんなはどう?」みたいな。

Koyas:ただ、みんなで集まって交流してくださいと言っても、なかなか難しいので、何かトリガーがいるんですよね。Meetupでは、それがアーティストなどのLiveの使い方を紹介するプレゼンテーションなんです。それを来場者が見て、あの機能の使い方が良いねとか、あれはこんなやり方の方が良いんじゃないとか。そういう場を提供できるように、努めていますね。

ーーKoyasさんと斎藤さんは、Abletonの認定トレーナーの試験に合格されていますが、どうすれば認定トレーナーになれるのでしょうか?

Koyas:何年かに一度、募集していますよ。日本では、まだ1度だけですが(笑)。。現在日本には、6名の認定トレーナーがいます。僕たちの時は、最初に書類選考があって、次にSkype面接があって、最後が実技試験という感じでした。

ーー実技試験って、どんな内容なのですか?

Koyas:それは、言ってはいけないんですよ(笑)。

ーーわかりました。気になる方は、機会があったら応募してみてください(笑)。Meetupは、2ヶ月に1度開催されていますが、何年前からこのイベントを運営されているのでしょうか?

Koyas:Meetupの前身のAbleton User Meetingというイベントを1年間運営していて、Meetupを始めてから1年半になるので、2年半ですね。

ーー2年半も運営されているとのことですが、プレゼンテーションでは、どのような内容が多いのでしょうか?

Koyas:始めはフリーテーマでやっていたんです。誰か呼んで、なんかやってよみたいな(笑)。ただ、だんだん焦点がぼけてきたなと思って、去年の初め頃から、ビートメイキングだったり、シンセの使い方だったり、毎回テーマを決めて運営するようになりました。

プレゼンテーションに出演するのは今はアーティストが多いですが、ブッキングする際に知名度はあまり重要視していないですね。あとは、必ずしもLiveの上級者でなければいけないということもないですね。中級者レベルの人でも、その人しか持ち合わせていない目線というのがあると思うので、その辺も重視しています。

ーー例えば、活躍中のアーティストでなくても、ユニークなLiveの使い方をしている方であれば、Meetupのプレゼンターとして出演できる可能性はあるということですか?

Koyas:そうですね。

CD HATA:soundropeで出演者を募ってもらいましょうか(笑)。

音楽を作るきっかけを提供できる場を目指して

ーー今後のAbleton Meetup Tokyoの展望について教えてください。

Koyas:6月16日開催のMeetupから、LIQUIDROOM2階のTimeOut Cafe&Dinerでの開催となります。ありがたいことに、Space Orbitは来場者の方が多くなって、快適な環境ではなくなってしまい、もう少し広いスペースが必要だなと。新しいチャレンジ、例えばライブ配信などをするために、これまで開催してきたOrbitからTimeOut Cafe&Dinerへの移動を決断しました。

ーー今後はライブ配信なども検討されているのですか?

Koyas:将来的にはやりたいなと思っています。

ーーなかなかイベントに来ることのできない地方の方に向けてといった感じですか?

Koyas:勿論それもありますが、東京の方でも自分たちがどんなことをやっているかわからない方も多いと思うので。

ーーイベントの内容はこれまでの軸と変わらないのでしょうか?

Koyas:そうですね。もう少し幅を持たせたいとは考えています。毎回ではないですが、いろんなアーティストを集めてトークセッションをやったりとか、好評だった企画のAbleton駆け込み寺とか、その辺りも積極的にやっていきたいですね。

ーー自分も何度かイベントにお邪魔させていただきましたが、Liveのわからないところを解決できるAbleton駆け込み寺は、需要が多そうでしたね。

Koyas:Liveの認定トレーナーが直接対応する企画なので、とても好評をいただきました。

CD HATA:ゆくゆくは、その場でユーザー同士が情報交換しながら、それぞれの疑問を解決できる場になれば良いなと思います。それと、ビジュアルなどの音楽用途ではない人々のLiveの使い方を見せていければと考えています。

Koyas:あとは、Liveにはアドオン製品のMax for Liveがあるので、コーディング的な部分のプレゼンテーションというのもやってみたいですね。そこまで行くと、音楽とは離れすぎてしまうのかなというのもありますが。

ーー今後のMeetupでは、どんな人に遊びに来て欲しいですか?

Koyas:女子と若い人たちですね。

CD HATA:学割もやっているので、学生さんにも来て欲しいです。

Koyas:最近の日本のクラブ系ミュージックのリリースにおいて、若い人のリリースがすごく減っているんです。なので、音楽を作るきっかけを与えたり、作りやすい環境を作っていけたら良いなと思います。あとは、クリエイターやDJとして活躍するアーティストにも、もっと遊びに来てもらえたらと思います!

ーー今後も多彩な企画楽しみにしています。今日はありがとうございました。

Ableton Meetup Tokyo Vol.13 Soundscape of Summer Special イベント情報

日時:2017年6月16日(金)午後6時開場
会場:TimeOut Cafe & Diner
料金:2000円/学割1000円(学生証を提示)

出演者

Presenters:
「ビーチに合うサウンドの作り方」 by Koyas
「夏いDUBの作り方」 by 山頂瞑想茶屋

Talk Session:
「夏のサウンドを語り合う」
by Hisashi Saito, shiba@FreedomSunset

Moderator:CD HATA
MC:CD HATA&森谷 諭
DJ:Sakiko Osawa and T.B.A.

FBイベントページ
https://www.facebook.com/events/455492638124156/