Dam-Funkの音楽から学ぶ『Anything Goes -何でもあり-』の精神

Dam-FunkのトラックメイクをAbleton Liveを使いながら探求する本連載も今回が最後。前回はハーモニーの基礎について説明しましたが、今回はさらにDam-Funkのハーモニーに迫っていきたいと思います。

とはいえ、課題曲のハーモニーについて詳細を説明していくと、基礎的な音楽理論の本一冊分を解説することになるので、ここでは近道をして「どうやったらDam-Funkのようなモダンなハーモニーを使いこなせるのか」という方法論を解説していきます。

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CM9もしくはEm7/Dタイプのコードを平行移動させる

連載資料2をご覧ください。実はこのコード進行は、M9コードを平行移動させるサウンドと非常に似ています。そしてM9コードは、m7コード+ルートをm7の音にしたコードにも似ています。

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原理を理解する必要はありません。CM9タイプとEm7/Dタイプの2つのコードを覚えて、平行移動させてください。平行移動とは、音と音の距離は同じまま、全ての音を同じ方向に、同じだけ移動させることです。連載資料3に例示された2つのコードを「平行移動」させましょう。

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並行移動はDAWと相性がいい

「平行移動といってもそんな簡単にはできないよ!」と思われるかもしれません。しかしDAWを使っているのであれば非常に簡単で、一旦CM9やEm7/Dを打ち込んだあとに、マウスで全ての音をずらせばいいだけです。機械的に全ての音を移動させるだけなので、DAWでは簡単に実現できます。(演奏するのは少し難しいんですが…)どんどんコピーして移動させて、ベストなサウンドを見つけてください。

どれくらい動かせばいいか?実はこれにはルールはありません。自分のアイデア次第で全ての可能性にチャレンジする事ができます。実際に打ち込んでみて、かっこよければ問題なし。実際にやってみると、どんなふうに移動させてもかっこいいサウンドが鳴ることがわかると思います。

平行移動させたコード進行は、音楽理論的に正しいの?

さてここからは、音楽理論を勉強したことがある人から質問されそうなことに対して、先回りしてお答えしたいと思います。皆さんはおそらく「ダイアトニックコード」や「ダイアトニックスケール」を初期の段階に習ったはずですが、その原則からいえば、コードは平行移動しないはずです。

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出典:StockSnap.io

例えば、Cメジャーキーにおいては、CM7 Dm7 Em7 FM7というふうになるはずで、CM7を平行移動させたCM7 DM7 EM7 FM7というコード進行はおかしいはずですよね。平行移動させてもいいのでしょうか?

実際の音楽はキーやダイアトニックコードを軽々と超越してくる

キーやダイアトニックコードというのは、我々が形而上学的に規定したルールでしかなく、実際の音楽はそういったルールの中で構築されているわけではありません。

スティービー・ワンダーなどの音楽を、ダイアトニックコードやキーの範囲で理解しようとすると、よくわからないことがたくさんあります。事情通の方はこう思ったかもしれません。「セカンダリードミナントやモーダルインターチェンジでは?」しかしスティービー・ワンダーの音楽は、そういった既存のセオリーの範囲を援用するにはあまりに遠隔な調へ移動しているのです。

スーツにスニーカーを合わせていいのか

セオリーの逸脱から生まれる素晴らしい音楽があるならば、音楽理論は無駄ということになるのでしょうか?そんな理論と実践の間に生じる問に対して、私はいつもこの例を使って説明しています。

「スーツに革靴ではなく、スニーカーを合わせてもいいのは何故なのか。」

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出典:StockSnap.io

何故だと思いますか?スーツには普通、革靴を履きますよね?しかし、スニーカーをコーディネートする人もたくさんいます。これはルール違反であって、おかしいことでしょうか?スーツの基本原則や、カジュアルの基本原則が全く機能していないということになるのでしょうか?

そんなことはありません。スーツにスニーカーをコーディネートすることができるのは、スーツのフォーマルなスタイルが機能しているからで、これにスニーカーのストリート感が足されているのです。スーツを着ない人には、この感覚は理解できないといっていいでしょう。同じことが音楽理論にもいえると、私は思います。

和風カルボナーラが美味しいのはなぜか

音楽理論について、料理に置き換えて説明することもできます。カルボナーラは西洋の食べ物ですが、日本ではノリやネギなどがトッピングされた「和風カルボナーラ」というものが流通しています。

これが成立するのはやはり、まずはカルボナーラがあるからであり、そして和食のバランスがあるからです。全くデタラメな組み合わせではありません。ある種のスタイルの掛け合わせだから、成立するわけです。

料理において組み合わせてはいけない食材はない。音楽においても

料理において、絶対に組み合わせてはいけない食材はありません。同じことが、音楽にもいえます。音楽における食材の代表例は、コードやスケールでしょうか。こういったものは、原則はありつつもも、どんなコードへも、どんなスケールへも進行することができ、そしてそのスタイルは、既存の伝統の影響を強く受けます。

つまり「音楽理論のルールは全く意味がないわけでもないし、かといって全ての仕組みを説明する法則でもない」という至極当然のことをお伝えしているにすぎません。

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Anything Goes

科学哲学の大家ファイヤアーベントの言葉を借りるのであれば、我々の音楽に対する態度は「Anything goes」― どんなものでも機能するのであれば取り入れる、という姿勢をもつべきです。音楽教育から享受可能な形式と、実際の各種伝統音楽が持つスタイルを素材にして、自由に音楽を構築することが許されています。形式かスタイルか創造か。全てを使い尽くすことができます。

もちろんDam-Funkも過去ブラックミュージックを全て吸収して、組み合わせています。ジャズ、ファンク、ソウル、ヒップホップ、好きなものをどんどん吸収した結果が彼のスタイルです。Dam-Funkの楽曲を課題曲としたDAWと音楽理論の連載はこれで終了になりますが、みなさんも新旧問わずどんどん音楽を吸収し、組み合わせ、自分だけのスタイルを作り上げてください。そのための手助けに、本連載が少しでもなれば幸いです。

ではまた!