ワイヤレスで楽しむ新しいセッションの形。音楽で人と人をつなぐテクノロジー「Ableton Link」

2016年最初の投稿になります。本年もよろしくお願いいたします。昨年の後半はAbletonという単語を何千回書いたかわからないような状態でしたが、今年は本業の音楽活動にも力をいれたいと思います。…と舌の根も乾かぬうちに今回もAbletonネタなのですが、既にあちこちで紹介されているAbleton Linkという機能をがっつりと取り上げたいと思います。結局、今年もAbletonという単語を連発する羽目になりそうですが…笑(なお、僕はAbletonに雇われている訳ではありませんよ!)

Ableton Linkとは?

現在開発中のLive 9.6に搭載される機能で、Liveがインストールされた複数台のPCや対応iOSアプリ同士をWiFiで同期させることで、簡単にセッションやコラボレートすることができます。現在はLiveのベータ版にのみ実装されており、使用するにはベータ・プログラムに参加する必要があります。このベータ版もバージョンが9.6b1まで上がり、対応iOSアプリが増えて動作も安定してきました。

このLinkの正式版は、Live 9ユーザーであれば 9.6リリース時に無償アップデートで使用可能になる予定です。Live 9が登場したのが3年前ということを考えると「Live 10で搭載」でも不思議ではないですから、随分太っ腹ですね。

Ableton Linkをチェック

また、Live 9.5にはLink以外の新機能も数多く盛り込まれています。僕がLive 9.5 / Push 2について解説している動画がありますので、興味のある方はチェックしてみて下さい!

試してみた特別編!認定トレーナーが教えるAbleton/Live 9.5 & Push 2 Vol.1

従来の同期とどう違うのか

さて、ここで同期という言葉が出てきましたが、既存の技術では複数台のシーケンサーをきちんと同期させることは難しいのです。音楽制作をしている方なら「同期ならMIDIでできるじゃないか」と思うかも知れません。

MIDIの規格は良く出来ていますが、30年以上前の古い規格で、主に映像と同期させることを想定していました。そのため、MIDIクロックを使用した同期信号は分解能が♩=24と昔のシーケンサーと比較しても粗く、MIDIの転送速度も31.25kbpsと遅いため、様々な不確定要素でタイミングが揺れます(これをジッターと呼びます)。そもそも昔の機材は今ほど精密なタイミングではありませんが…

最近はEthernet等を経由した同期も可能になってタイミングの精度は上がりましたが、規格そのものは古いままなので使い勝手はよくありません。同期させるためには同期信号を流すポートを指定したり、同期信号を送るマスターと受けるスレーブを設定したりとセットアップが煩雑。さらにマスターが再生を止めるとスレーブも止まったり、マシントラブルがあるとシステム全体が止まったりと、複数のLiveでセッションするには使いづらいのです。

一方Ableton Linkは、LinkさせるPC同士を同じWiFiネットワークに接続し、Liveの環境設定でLinkを有効にすればセッション可能です。同期に使用するポートやマスターやスレーブの設定も必要ないので、飛び入りでセッションする場合でも相手を待たせることなくセットアップ可能です。

Linkの設定項目はオン/オフのボタン1つだけ。他のLiveやiOSアプリとLinkすると左上にLinkしている台数が表示される。

実際に再生してみると、複数台のLiveやiOSアプリがBPMと再生開始のタイミングをあわせて同時に走るといった具合で、PCDJアプリでSyncボタンを使ってDJするのに近い感覚です。どれか1台の再生が止まっても他のデバイスは再生を続けるので、操作を誤ったりマシントラブルがあってもシステム全体がダウンするわけでもありません。WiFi使用による遅延らしきものも無く、何も考えずに使ってもちゃんと同期しているところがAbletonらしいですね。

余談ですが、僕が2013年にCD HATAさんとのセッションアルバムを録音した時は同期を取らず、お互いBPMを口頭で伝えてDJのように手動であわせていました…

iOSアプリとも同期可能・iOSアプリだけでも同期可能

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AudioBusを使用してシーケンサーアプリのFugue MachineからシンセのNaveを鳴らすルーティング。Fugue Machineの右下にLinkの文字が見える。

Linkの面白いところはiOSアプリとも同期できるところ。さらにLiveが無くてもiOS同士でLinkすることもできます。対応アプリは上記のAbleton Linkのwebにも記載されていますが、詳しい方ならAudioBusがあるところで「おっ」と思うかも知れません。
というのも、AudioBusは他の音楽アプリと内部ルーティングできるので、Liveでビートを鳴らしながら、Link対応のシーケンサーアプリFugue Machineから未対応のNaveを演奏したりといったことも可能になるのです。

今までLiveとiOSデバイスの同期には手軽に使えるようなソリューションがなかったので、僕のようにiOSアプリを制作に使ってみたいけどDAWとの連携が面倒くさくてあんまり使ってない…という方でもLiveとiPadを組み合わせた制作やセッションに使う機会が増えそうです。

また、Liveが無くてもiOSデバイス同士だけでLinkすることもできますし、AbletonはiOSアプリにLinkを組み込むLive SDKを無償で提供しているので、これからも対応アプリがどんどん増えてくるでしょう。以前soundropeでも紹介されていたLink to MIDI.という無料のアプリなどもあり、まだまだ世界が広がりそうです。

さあセッションしてみよう

さて、僕が開催しているAbleton Meetup Tokyoでは、昨年Laptop Jamという催し物を2回行いました。これは参加者がLiveをインストールしたラップトップやPushを持ち込み、それらを同期させてジャムセッションしようというものです。1回目のLaptop JamはRedbull Studioで行いましたが、この時はまだLinkが使用できなかったのでものすごく大変でした…

2回目のLaptop Jamは、既にsoundropeでも紹介されているように12月末に開催されたミートアップで開催しました。この時はベータ版にLinkが実装されていたので、早速実験も兼ねてLiveやiPadを同期させました。

同期の精度や使い勝手は問題ありませんでしたが、会場にあったWiFiルーターではLinkできませんでした。私見ですが、自由にゲストアクセス可能なWiFiルーターの場合は、セキュリティーのためゲストユーザー同士の通信ができない設定になっていることもありLinkが使えなかったのではないかと思います。

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このAbleton Meetup Tokyo、次回は2/23(火)に三軒茶屋Space Orbitで開催します。現時点ではどんな感じになるのかまだわかりませんが、こちらもよろしくお願いいたします。

Ableton Meetup Tokyoをチェック

さて、Linkについて詳しく触れてきましたが、僕がLinkで一番いいと感じたところは、人と人を繋ぐための技術であることです。Linkの登場により、お互いラップトップを持ち寄ってセッションしたものを録音して作品にするとか、Liveユーザーが4人集まってバンドのように演奏するとか、新しい音楽の形が垣間見えてくるような気がします。音楽を作るだけなら1人でも出来ますが、やはり皆でワイワイやった方が楽しいですからね。

誰かとセッションする時は、自分一人で音を埋め尽くさないよう音数を少なめにして、相手が音を出せる隙間を作りましょう。また、曲の展開を変える時もいきなり変えるのではなく、ドラムのフィルとかエフェクトで前振りをしてあげると相手も絡んできやすくなります。

それではまた次回!

トップ画像出典: Ableton Meetup Tokyo
photo by Ken Kawamura