話題の音楽ドキュメンタリー映画「808」から見えてくる『TR-808』が残した功績

ドラムマシンの代名詞『Roland / TR-808』。昨年発売されたAIRAシリーズへの注目度からも、TR-808は今なお多くのミュージシャンに愛されていることが分かります。

そんな世界中にファンを持つTR-808をテーマにした音楽ドキュメンタリー映画「808」が、テキサスで行われている SXSW(サウスバイサウスウェスト)にて初上映され話題となっています。
ダンスミュージック好きには気になる映画「808」について、海外メディア「Create Digital Music」が掘り下げた興味深い記事を紹介します。


ロックに「Gibson / Les Paul」と「Fender / Stratocaster」があるならば、ダンスミュージックには『Roland / TR-808』があります。

このTR-808をテーマにしたドキュメンタリー映画「808」は、TR-808の独特なサウンドで新たな音楽ジャンルを開拓し、音楽シーンに革命を起こしたスター達の目線で語られています。

出典:YouTube

そんな中でもTR-808を使ってダンスミュージックに大きな影響を与えたアフリカ・バンバータの「プラネット・ロック」のプロデューサーでもあるArthur Bakerを中心に進んでいきます。
彼がこの映画のプロデューサーの一人であるものの、制作初期の映画タイトルに「プラネット・ロック」が含まれていたことを考えると、彼が映画の中心的な存在であることがお分かりいただけるでしょう。

この映画のプロジェクトが進行していることは以前から各方面で伝えられていましたが、テキサスで開催される世界的なイベントのSXSWの期間中にこの映画が上映されるということは、多くのダンスミュージックラバーで劇場がいっぱいになるかもしれません。

それでは、この映画のポイントをいくつか挙げてみましょう。

まず、この映画は新人監督Alexander Dunnと、イギリスにあるYou Know Filmという小さな会社によって制作されました。

808-movie

この映画のグラフィックとポスターは、イギリスのグラフィックデザイナーのRob Rickettsにより制作されました。この象徴的なグラフィックは映画とも関係します。

映画では、元々のTR-808のデザインとエンジニアに関する話が描かれており、Dave Smithと共にテクニカル・グラミーアワードを受賞したRolandの創設者であるMr.Kこと梯郁太郎が、TR-808の起源について語っています。

しかし、この映画の宣伝的な魅力は、出演する豪華スターのラインナップにあります。ダンスミュージックのパイオニアやEDMのスターだけではなく、ドラマーのPhil Collinsも出演し、彼がTR-808に夢中になるほど感動したことを語っています。
荒稼ぎするフランスのDJのDavid Guettaの出演については微妙な評判のようですが。。とは言うものの、大きな視点で考えてみましょう。モダンテクノ、ハウス、EDM、これらに限らずどんなダンスミュージックでも、音楽制作においてはTR-808の恩恵を受けています。David Guettaのような(ファーストフードのフランチャイズを思わせる)成功を見ると、TR-808を使用する彼が与える影響がいかに大きいのかが分かります。そういうわけで、パイオニア達と同じく彼のドキュメンタリーも見ない理由はありません。

さらにダンスミュージックのパイオニア達の存在がいかに重要であるか実感させられます。GibsonやFenderは、80年代当時すでに楽器としての地位を確立し、それぞれの歴史もありました。それに比べTR-808のようなグルーヴボックスは、すぐに忘れられる可能性があったにもかかわらず、結果的にTR-808は誰もが認める名機として一世を風靡しました。

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TR-808の独特なサウンドを象徴的に使いはじめたのは、他ならぬのダンスミュージックのアーティスト達なのです。近年、テクノミュージックのルーツはどこなのかという論争が繰り広げられています。しかしこの答えは明らかで、ドイツのインダストリアル・ミュージック、アフリカン・アメリカン、そして一般的なアメリカン・ミュージックも多大な貢献をしています。これはチーズと牛挽肉のどちらがよりチーズバーガーに貢献しているかを論争するようなものです。アメリカにおいて人種や収入の平等が叫ばれる現代こそ、このような歴史的起源が語られるのに理想的なタイミングではないでしょうか。

ヒップホップが「TR-808」やRoger Linnの「MPC」の影響なしに語れないことを考えると、当時のプロデューサー達と彼らが残したレコードにこそ、今でも私たちがTR-808の話題で盛り上がれる理由があるのかもしれません。

Arthur Bakerがその完璧な例と言えるでしょう。彼のレコードを聴けばTR-808の歴史が聴こえてきます。このサウンドは、日本人エンジニアがいなければ作ることはできなかったですし、このグルーヴは、ドイツのクラフトワークが存在しなければ生まれませんでした。しかし、ジョージ・クリントンがいなくてもそれは同じことで、ベイカーが聴いて育ったフィラデルフィアソウルや、アフロアメリカン・ミュージックも必要不可欠です。
近年、エレクトロミュージックがドイツやアメリカ、そしてイギリスなどで急速に拡がっている現象が、歴史との関係の深さを物語っています。

https://www.youtube.com/watch?v=vlyDSx8gpZ0&t=216

出典:YouTube

これこそ音楽を通して伝えられる歴史がいつの時代も素晴らしい理由と言えます。一枚のレコードは、奴隷政策によりアメリカに渡ったアフリカ人や、第二次世界大戦と冷戦の影響を受けたドイツと日本の歴史的な背景の上に作られており、民族や文化が混ざり合ったところにその機器やテクノロジーが存在するのです。誰が発明したかということが問題ではなく、その発明によって何が起こったかが大切なことなのです。

エグゼクティブ・プロデューサーのAlex Noyerは、マシンそのものよりもサンプルのインパクトが強かったと語っています。

「TR-808は、すぐに姿を消してしまいましたが、そのサウンドのサンプルは残りました。それは、何十年も、宗教的に、繰り返し使用されています。実は多くのプロデューサーは、TR-808そのものを使用したわけではなく、そのサンプルを使用していました。そして、未だに人々の心にあって公に語られていない疑問があります。なぜTR-808は短い期間でマーケットから消えてしまったのか?音楽ドキュメンタリー映画「808」では、この質問に触れられています。」

そして、この曲。
80年代の象徴する、ヒップホップでありテクノのようなサウンド。これこそまさに彼らがこのマシンで作りあげた楽曲です。いつ聴いても色あせません。

https://www.youtube.com/watch?v=hh1AypBaIEk

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82年にリリースされたエレクトロファンクの名曲アフリカ・バンバータの「プラネット・ロック」は、典型的なTR-808サウンドで作られたものですが、今でも全然踊れちゃいます。この曲を聴くと、映画「808」がさらに気になってしまううえに、映画館で聴くTR-808のサウンドは迫力ありそうですね!

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現時点では、この映画「808」の日本公開は未定のようですが、観たいとウズウズしてきた方も多いはずです。そんな方には、TR-808と同様に名機として語られるRolandのベースシンセサイザー「TB-303」の短編ドキュメンタリー動画もオススメです。

出典:YouTube

日本でも是非とも公開して欲しい映画『808』、面白そうです!

ドキュメンタリー映画「808」のウェブサイト:http://808themovie.com

出典:Create Digital Music