世界的に盛り上がりをみせる「モジュラー」の魅力とブームの背景とは?『東京モジュラーフェス』主宰に聞く

世界的に「モジュラー」や「アナログシンセ」のブームが広まるなか、日本でもモジュラーシンセのコミュニティによる動きが活発になってきています。そんななか東京でひと際目立った盛り上がりを見せ、国内外から注目を集めている『東京モジュラーフェスティバル』の主催者でアーティストでもあるHATAKENさんとDAVE SKIPPERさんに「モジュラー」の魅力やこのブームの背景について聞いてみました。


若い女性からカップルまで?予想以上の反響にビックリ

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ー おふたりがこの「東京モジュラーフェスティバル」を始めたきっかけは何ですか?

ここ数年前からアメリカやヨーロッパなど世界中でモジュラーシーンがかなり盛り上がってきているのですが、日本では実際にモジュラーに触れる場所も少なく、マニアックな楽器として扱われてたんです。なので、海外での盛り上がりを伝えたいということで、とりあえずイベントを始めてみようと思ったのがきっかけですね。
それと東京の場合、モジュラーのコミュニティが点在してたのでそれぞれがうまく繋がれば、もっとシーンが盛り上がるんじゃないかとも思っていました。
そういうこともあって実際に触れることができるモジュラーブースとモジュラーを演奏するアーティストのプレミアムライブのショウケースイベントを2年前に開催したんです。そうして始めたら予想以上に反響があったんで僕たちもビックリしました。

東京モジュラーフェス主宰のHATAKENさんとDAVE SKIPPERさん 東京モジュラーフェス主宰のHATAKENさんとDAVE SKIPPERさん

毎回アーティストとブースにこだわりがあってすごく面白いですが、やはりモジュラーに関してマニアックなお客さんが多いですか?

始める前はそう思ってたんですが、最初の1回目のイベントで覚えてるのは、マニアックなイベントなので数十人くらい来てくれればいいかなと気楽に思っていたのが、外に出てみるとオープン前から入り口にすごい行列ができてたんです。お客さんの層もいわゆるモジュラー好きな方に限らず、一般の若い女性とかデート中のカップルやお年寄りの方など幅広い世代の色んなお客さんが来てくれて。
もしかしたらモジュラーのレトロなデザイン性やモジュラーのガジェット感に一般の方の興味を惹きつけられたのかもしれませんね。

Japan festival of Modular 公式サイトはこちら

世界中で過熱するモジュラーの新たなムーブメント

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ー なかなか見た目もレトロかつ機械的なモジュラーですが、もともとはどのように生まれたものなんですか?

60年代にMOOGやARPなどがシンセサイザーを開発するときに、色んな機能(モジュール)ごとにパネルを分けて組み合わせながらシステムを拡張していて、やがて鍵盤が付くことで音楽的表現の楽器として認知されるようになり、アーティストの元へと渡って行ったわけです。なので、現行のシンセサイザーの原点こそがモジュラーシンセサイザーだったんですね。

ー 近年、モジュラーシンセが世界的にもブームになっていると思いますが要因を上げるとすれば何なんでしょうか?

DOEPFERが提唱した「ユーロラックモジュラー」というモジュラーシンセの共通規格の登場が、ここ最近の新たなムーブメントのきっかけですね。
このユーロラックモジュラーの何が画期的だったかというと、ユーティリティを含めモジュラーのラインナップがかなり豊富で、それらをすごくコンパクトに 収めることができるんです。DOEPFERのモジュラーを使うということがひとつのステータスだった時代があって、エイフェックス・ツインやリカルド・ヴィラロボスも実はモジュラー通だったりするわけです。

Doepfer A-100
Doepfer A-100

その後に、今から7-8年ほど前にアメリカのMAKE NOISEやMALEKKO、PITTSBURGH MODULARなど新しいメーカーがDOEPFERのユーロラックモジュラーの規格に合わせて自分達のモジュラーをリリースし始めて、それをきっかけに個人の開発者やメーカーが同じユーロラックのフォーマットで新しいモジュラーを次々とリリースするようになったわけです。コンパクトで面白いユーロラックモジュラーが沢山リリースされているんですね。

https://youtu.be/IFGeolsV7JU

最近ではソフトウェアのプラグインメーカーもハードウェアを作り始めたり、MOOGなどの老舗メーカーも当時作ったヴィンテージモジュラーをユーロラックで再発するなど、これまたブームに拍車を掛けています。

世界中でモジュラー作っているメーカーはどれくらいあるんですか?

今現在、メーカーは200社くらいあるとも言われていて、コンピュータや回路に詳しい人やDIYでシンセを作ってた人たちがブティックカンパニーとして開発してビジネスとして大成功しているケースもあります。
有名な楽器博覧会NAMMショウでも、ここ最近はモジュラーシンセのブースが一番盛り上がっているそうなので、マーケットとして注目されていることもブームの現れかもしれません。

ー 確かにメーカーの垣根を超えて自分好みでモジュラーをカスタマイズできるのは、かなり男ゴコロをくすぐられますね!

そうですね。最近のモジュラーシンセは、アナログにこだわらず最新のデジタル技術をふんだんに取り入れたり、iPadを繋ぐためのモジュールなどそれまでにな かった全く新しい発想が盛り込まれていたり、しかも手頃な価格なのにしっかりしているんです。
東京で昔からモジュラーを販売している「Five G」でも、モジュラーを始めてみたいという初心者のお客さんがここ最近かなり増えてきているようです。
僕達にとっては、国内外のメーカーと一緒にモジュラーイベントができる事自体とても嬉しいし、そういったモジュラー入門者が増えてきている日本の現状を肌で感じることができて、ホント幸せです!

ノイズやテクノシーンで派生するモジュラーカルチャー

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ー どのようなジャンルの音楽シーンでモジュラーが盛り上がっているんでしょう?

モジュラーだけでの演奏を追求する場合、実験的なノイズミュージックとの相性はいいと思います。
ソフトウェアで直感的に音をコントロールするのはなかなか難しいですが、モジュラーだったら「LFO」でツマミを回して音を加工すればライブ感もでるでしょうし、リアルにその場で音を作って演奏している実感は大きな音になるとなおさらです。
そのあたりがノイズミュージックシーンでのモジュラー人気に関係しているのかもしれません。

それともうひとつは、テクノやエレクトロなどのダンスミュージックでも、コンピュータで音楽を作って部分的なエフェクターとしてのモジュラーの使い方も世界的に普及してきています。
今の時代、コンピュータだけで簡単に音楽を作れるので与えられたプラグインを調整していると、他と同じような音になりがちですが、モジュラーの場合はもっと原点から「自分が一体どんな音を作りたいのか?」と自問自答しながら、異なる発想で音を組み合わせていくんですね。そういうこともあって、最近は「ポスト・ソフトウェア」や「ポスト・プラグインエフェクト」としてモジュラーが注目されつつあるんですね。
でも、やっぱりその後にモジュラーの面白さに目覚めると、結局コンピュータでやってるのはシミュレーションで、こっちが本物だよなってなっちゃうんです。というのも、僕もそのパターンだったんですね 笑。

関西のモジュラーイベントに行くと今はノイズだけでなく、女の子が歌ってモジュラーを使ってテクノポップを演奏するアーティストもたくさんいて、シンセ系女子だけでイベントをやっていたりと、使い方は本当にアーティスト次第ですね。

僕はモジュラーで作る音の気持ちよさで、ゆったり聴ける他にはないチルアウトなアプローチでやっていけたらなと思っていますね。

チルアウトなモジュラーシーンは面白そうですね!それだけ色んなジャンルのアーティストを魅了する理由は何でしょうか?

モジュラー同士を組み合わせることでまた全然違う新しい音を実現できたりするんです。3つのモジュラーがあったら3種類の音かというと、そうじゃなくて何倍も何十倍にも音を変化させてられることも面白いところですね。
それとコンパクトなのでライブへの持ち運びが楽になったり、必要な機能だけモジュラーで組み込めるので経済的にも無駄がないか、というとそのレベルに至るまでにはけっこう投資することにもなると思いますけども…笑 それでも、その都度必要なモジュールを組み替えてみたりして、ライブセットを組み替えたり、チューンナップしたり、遊び方はアイディアしだいで無限大です。

初心者でも直感的に味わえるモジュラーの醍醐味

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ー 初心者がモジュラーを始めるにあたって何から手をつければいいですか?

なかなか難しい質問ですが、初心者の場合、まずは音を出したいという人も多いと思うので自分がどのような音を出したいのかをイメージをハッキリさせて、まずは詳しい人やモジュラーシンセを扱う楽器屋さんに質問してみることをオススメしますね。間違いない知識が得られるはずです。
モジュラーは、音を出すタイプや音を加工するタイプ、音をコントロールするタイプなど沢山の種類があるうえにパッチの繋ぎ方で色々な音を作ることができます。シンセサイザーを既に持っている場合は、音を加工するタイプでエフェクターとして使うこともできますし、「オシレーター」や「フィルター」、「エンベロープ」 などを駆使してモジュラーでシンセサイザーを作り上げることも可能だったり、それだけでメロディーや音楽を演出したり演奏することができるのです。

https://www.youtube.com/watch?v=qp50R-wRqSI

ー モジュラーだけで音を出しても楽しめるものですか?

もちろんまったくゼロから音を出すことも可能で、初めは何もわからないけど直感的にいじったりして音の変化を楽しむこともできます。センスだけで音を追求する実験性が面白いので初心者にウケてるところも大きいですよね。
時間を忘れてツマミをいじって、音を通してモジュラーの機能と向かい合い、その様に浸るのもよし。さわらなくても二度と同じ繰り返しの起こらないループが展開し始めたり、自分らしいユニークな音楽を作れるのが、ある意味モジュラーの醍醐味でもあるわけです。
開発者側も盛り上がってるので、新機能の開発や進化が止まらない!

もちろんロジカルに機械や回路だったりに興味がある人にとっては、モジュラーの組み合わせを無限に楽しめますし、逆に直感的な人にとってもモジュラーの機能を深く理解せずにアート感覚で触りながらクリエイティブに音を体験できるので、自分が求める音を作る楽しさから一度始めてしまったら、なかなか止められない中毒性がモジュラーにはあるんですよ。

そうやって結局は自分なりに機能を知ることにもなり、そのうえで音をいじることでもっと深く掘り下げられることも実感できるはずです。その時に詳しく知っていくのも有りだと思います。人によるでしょうけれど、まずは一から機能を学ぶことが最短かもしれません。はじめは機械に使われる時期が続くかもしれませんが、自分の目指すイメージを持ち続けることで、そのイメージに適したシステムのデザインにもなって行くでしょう。

僕らが開催する『東京モジュラーフェスティバル』では、実際にモジュラーが触れるブースを設置するので、是非一度モジュラーを体験してもらいたいですね。

日本でも盛り上がりつつあるモジュラーシーン

日本のモジュラーカルチャーはどんな感じなんでしょう?

例えば関西では昔からモジュラーシンセとともにノイズミュージックのシーンがあったり、最近では「ナニワのシンセ界」という映画が作られたり、「REON」という日本のモジュラーメーカーもあったりと、ストイックに掘り下げられたシーンがあると思います。
東京でもノイズミュージックのイベント以外でもモジュラーシンセの使用が増えてきているようです。

そういった意味では日本のモジュラーシーンは今まさに過渡期だと思いますね。
東京モジュラーフェスティバル』は、日本のモジュラーシーンを盛り上げたいというピュアな想いから始めたイベントなので、ここからもっと面白くなればと思って頑張っています!

「東京モジュラーフェス」は今年で3回目ということで、今回もかなり豪華なラインアップですが、どのようなイベントになりそうですか?

今回は、モダンエレクトロニックミュージック界を代表するRUSSELL HASWELLや伝説のインダストリアルバンドSKINNY PUPPYのCeVIN KEYをメインアクトに、他にも超豪華なアーティストがたくさん出演してくれます。
そして今年のメインイシューとしては「ビンテージシンセサイザーへのリスペクト」ということで、シンセサイザーの歴史を語る上で欠かせないEMSの創業者であるPETER ZINOVIEFFや冨田勲さんを招いてインタビューを行う予定で、これまでの歴史があっての今のユーロラックモジュラーということを知ってもらって、モジュラーを触ってもらえたら、より興味を感じてもらえると思っています。

それと今年は京都でも「京都モジュラーシンセフェスティバル2015 」というイベントを開催します。
僕等もミュージシャンで単純に海外のモジュラーシーンを伝えたいという想いでイベントをやってて、それに共感してくれる海外のアーティストがわざわざ日本に来てくれるので、それだったら東京だけでなく関西でもイベントを開催して、お客さんもアーティストも喜んでもらえたらと思ったのがきっかけです。

アメリカでは、こういったイベントが割りと頻繁に開催されていていて、それによってシーンを後押しされているので、僕等のイベントだけではなくて同じようなモジュラーのイベントが増えてきたら、日本のシーンももっと盛り上がって面白い状況が生まれるんじゃないかなと思っています。

「東京モジュラーフェスティバル2015」の詳細はこちら

今回もまたすごい盛り上がりそうですね!こうしてお話を伺って、とにかくモジュラーを触ってみたくなりました。貴重なお話ありがとうございました!


インタビューを通じて、海外のモジュラーシーンの盛り上がりがすぐそこまで来ていることを感じることができました。
こういった海外のユーロラックモジュラーのシーンにおける開発者とユーザーの在り方は、ある意味でオープンソースなWEBの開発のそれにも似た側面もあり、今後も過熱していくこと間違いなしのホットトピックなので、soundropeも注目して行きます!

モジュラーに興味を持った方は、『東京モジュラーフェスティバル』に足を運んで、是非その盛り上がりを肌で感じてみてください!

Japan festival of Modular 公式サイトはこちら